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#108 ユネスコの諮問機関イコモスがヘリテイジアラート(文化遺産危機警告) 神宮外苑再開発

 神宮外苑の再開発見直しを訴える声が日に日に大きくなっている。
 坂本龍一さんの意志を受け継いだ曲「Relay(リレー)〜杜の詩」が発表された。サザンオールスターの桑田佳祐さんだ。浅田次郎さん(作家)、加藤登紀子さん(歌手)、秋吉久美子さん(俳優)、村上春樹さん(作家)、ちばてつやさん(漫画家)なども杉並木伐採反対の声を上げている。「社会には、目先の経済や人間の都合に左右されず、大切にして守るべき大事なものがある」と。
 神宮外苑の再開発問題は東京オリンピック前から発生しており、東京オリンピックを介して、今や世界中が注目するところとなっている。先日、遂に、ユネスコの諮問機関イコモス(国際記念物遺跡会議)が、事業者と東京都に対して、計画撤回と決定の見直しをして、社会的・倫理的責任を果たすよう要請した。

 いま、世界中で様々な歴史的遺産が失われている。原因は開発、戦争、劣化など。そのようななかで、世界は歴史的遺産を守ろうという気運が急速に高まっている。イコモスから出されたヘリテイジアラートはその動きの一つだ。

  一方、相模国分寺跡隣接地に高層マンションが建てられるという問題は、神宮外苑の再開発問題ほど話題になってはいない。著名人が反対声明に名を連ねるということもない。社会問題の軽重を比較することはできないが、神宮外苑の再開発問題の話題が華やか(?)となっている一方、相模国分寺跡隣接地高層マンション建設問題の話題性がそれほどではないという現実に、少しばかり残念な思いを私は持っている。
 相模国分寺跡隣接地高層マンション建設問題は、神宮外苑の再開発問題とは歴史の深さと規模が違うのだ。国分寺は全国に48箇所あり、国の史跡になっているところも多い。相模国分寺跡は国の史跡の一つだ。その歴史は1300年を遡る。日本社会が大きく動いた奈良時代。その歴史を研究し、勉強するためには国分寺はなくてはならないものであり、保存すべき史跡だ。特に相模国分寺は、建築物の配置が法隆寺と同じであり、研究の対象としても価値の高いものである。

 今後、全国の国分寺の史跡価値がより見直されてくるだろう。そのときは、相模国分寺跡の重要さ、貴重さ、稀少さもクローズアップされる。
 もし明和地所が、「これが大幅変更だ!」として、例えば8階建ての大型建築物を、相模国分寺の南門という重要な位置の隣接地に建設してしまったとしたら、数年後には今よりもっと大きな社会問題に発展するに違いない。明和地所は、歴史的価値を顧みなかった企業としての評価を受けることになるだろう。
 法律には抵触していない。裁判における判決も後押ししている。しかし、そこに住む住民・市民の多くは建設に反対している。更に、ヘリテイジアラート(文化遺産危機警告)の話題により、社会的問題があるという国民的認識が加わってくる。司法への不信感が強くなっていることもあり、今や、以前のように「<法律・判決のお墨付き>の流れ」では開発はできない時代になってきている。市民の力の影響力は確実に強くなっているのだ。

 史跡の重要性、国分寺の歴史的背景を理解できているのなら、相模国分寺跡南側隣接地に大型建築物を建設しようとは決して思い至らない。相模国分寺跡南側隣接地に大型建築物を建設しようと考えることは、相模国分寺の歴史的価値を全く理解できていないに等しいと言わざるを得ない。
 明和地所は国分寺そのものの歴史的価値を全く理解していないと言える。つまり、ヘリテイジアラートの対象となるに十分な企業なのだ。

 イコモスのヘリテイジアラート(文化遺産危機警告)は、今後、「企業が社会的・倫理的責任を果たしているかどうか」という評価基準を市民に気付かせ、根付かせていくことであろう。

(23.9.26)

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