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プロジェクトS 社員FILE001-3「再生医療分野への参入 iP-TEC誕生のきっかけ」

前回紹介した新

製品「シェルディッシュ」の開発を経て誕生したアイデアブランド「Platine」。

その後、新たな分野へ参入するきっかけとなった出来事について、今回もインタビューを元にご紹介していきます。(企画開発本部 商品開発部エグゼクティブフェローの桑原順一さんより)


1.ショックを受けた新聞記事

インタビュアー:
ライフサイエンス分野のオリジナルブランドiP-TEC(アイピーテック)の誕生は2016年でしたよね。
その誕生には何かきっかけがあったのでしょうか?

桑原:
ありました。
入社した2009年当初から、未来の医療を変えるiPS細胞(※1)技術という夢のような話がすでに巷で囁かれていました。それも大阪、京都など、当社にとってご近所のホットな話題でしたから、大阪の理化学容器メーカーとして何か関われることはないかとずっと気にかけていました。
ある時、目に入った新聞記事で大変なショックを受けました。

インタビュアー:
いったい何が?

桑原:
2014年1月の新聞記事です。
「iPSアカデミアジャパン iPS細胞の輸送容器開発」
という見出しで、容器メーカーと共同開発中4月に投入、と記載されていました。
同じ容器メーカーとして「あっ!!先にやられてしまった、、。」と、目の前が真っ暗になりました。

インタビュアー:
あぁ、なるほど。困ったことになりましたね。

当時を思い返す桑原さん

(※1)iPS細胞
体細胞を活用して作製する人工多能性幹細胞のこと

2.運命のターニングポイント

桑原:
正直、手遅れかと感じました。でも気を取り直して話だけでも聞きたいと思い、iPSアカデミアジャパン様(※2)に面談の申し入れをしました。
後で振り返ると、この面談が大きなターニングポイントになりました。

シェルディッシュの培養容器設計・生産経験、Platineでのアイデア・開発スピードといったこれまでの実績をお話し、iPS細胞輸送容器のダミーも勝手に想像して作ってみました、と次々モノをお見せしながら話しました。さらに、その時同行した企画開発部のゼネラルマネージャー(当時)がサンプラテックが新規事業の成功に賭ける想いを熱く語ってくれました。
すると、面談いただいた研究部長様(当時)から、まず、容器は未だ決まっていないことを伝えられました。そして、「今までの凍結輸送はやめてライブ輸送に切り替える」「Ready to useでお客様に届ける」という想像もしなかったコンセプトをお聞かせいただくことが出来ました。
何という展開!もうワクワクが抑えきれませんでした。

インタビュアー:
何がお相手に響いたのでしょうか?

桑原:
後日、「熱い想いが伝わった」とおっしゃってました。
ゼネラルマネージャー(当時)のお陰だったか、と思いました(笑)

インタビュアー:
〝凍結させない〟というコンセプトに、どんな意味があるのでしょう?

桑原:
一般的には細胞を凍結させて輸送を行います。ただ、凍結する場合は解凍前後に一定の負荷がかかってしまい、細胞が壊れる原因になり兼ねません。そこで必要になったのが生きたまま細胞を運ぶ「ライブ輸送」です。
 
とはいえ、デメリットもあります。
ライブ輸送中に培地がチャプチャプ揺れてしまうということです。そうなると細胞はダメージを受けます。でもそれを乗り越えられたら、研究者が届いた細胞をすぐに使える、医療現場ですぐに移植できるという大きなベネフィットが得られます。
それは今まで誰もやってこなかった新しいトレンドを作り出そうという話だったのです。

〝新しいトレンドに伴う新しいニーズ〟をほとんどの人達に先駆けていち早く知った、これは開発者にとって本当に幸せなことだと思います。まさに当社の強みであるアイデア力とスピード力を生かせる新分野で、大きなチャンスを与えられたということですよね。

(※2)iPSアカデミアジャパン株式会社
iPS細胞関連特許の管理・活用を行う京都の企業で2014年~細胞販売事業・研究事業等を株式会社iPSポータルに事業譲渡。当社は、2015年に株式会社iPSポータルと共同開発契約締結(2014年~2017年)

https://ips-cell.net/j/

3.超スピードで構想した、iPS細胞輸送用フラスコ

桑原:
凍結させない培地を揺らさないためには容器いっぱいに満たさなければなりませんが、iPSの培地はとても高額なのでそうもできない。
では、どうすればいいか?
お話を伺う途中から浮かんだアイデアをまずは手作りで形にしてみる必要がありました。
会社に戻ってすぐ着手し、わずか数日で「iP-TECフラスコ」の原型が完成しました。

手作りしたダミー製品

【製品説明:iP-TECフラスコ】
従来の培養フラスコ同様にスタッキング(※3)してインキュベート(※4)出来る形状であり、少ない液量で満量になるよう天井は極端に低く、かつ、ピペットやスクレイパーが隅々まで届くように扇形の凸部が設けてある。
【特許番号】第6572240号

iP-TECフラスコ

インタビュアー:
結構スムーズに完成したのですね?

桑原:
そうでもないです。よく「アイデア思いついた!」と言いますが、一つのアイデアだけではなかなかモノは作れなくて、最初に何を作るか、次にどうやって形にするか、最後に製品化への細部の作り込み、それぞれの段階で高い壁があります。三段階でそれぞれ「アイデア思いついた!」が必要になるんですね。

このiP-TECフラスコでは明瞭なコンセプトをいただいたので、最初の二段階まではすぐクリアできましたが、第三段階では、超音波溶着機を使ってアセンブリ(※5)する製品は初めてでしたし、既存のフラスコの作り方では生産不可能なデザインになりましたので、大変苦労しました。

インタビュアー:
シェルデッシュの経験(プロジェクトS Vol.001 「ライフサイエンスへの参入:シェルディッシュ」)はここで活きましたか?

桑原:
はい、もしもシェルディッシュがアイデア止まりで製品化まで進んでなかったら、どうなっていたことか…。今のiP-TECは生まれてなかったと思います。
そもそも、その実績がなかったら、あの時iPSアカデミアジャパン様と面談する勇気は出ませんでした。

(※3)スタッキング
積みかさねができる仕組みのこと

(※4)インキュベート
細胞などを保温して育成すること

(※5)アセンブリ
別々のものを組み立てて結合させること

4.iP-TEC悲願の新聞掲載

インタビュアー:
あの新聞記事を見た時に、諦めてしまわなかったのが良かったのですね。

桑原:
本当にそう思います。その後2015年11月に今度は当社が、日本経済新聞の「iPS凍らせず輸送、サンプラテックが器具」という見出しの記事で取り上げられることになります。
ショックを受けたあの日から、1年10か月後のことです。

インタビュアー:
良い流れになってきましたね。

桑原:
良い流れと言えば、ちょうどこの頃に待望の理科系女子スタッフが開発メンバーに加わってくれました。バリバリ文科系の私には厳しいミッションが増えていきそうだったので本当に助かりましたね。Platineの企画も並行して進めてくれました。

インタビュアー:
組織のバランスが良くなった感じですね、
ところで日経記事の反応はどうでしたか?

桑原:
運送事業を営むとある会社様から、ちょっと謎の連絡をいただきました(笑)
「ある研究室へ同行していただきたい。研究室名は明かすことが出来ません」と。
我々は何か極秘のミッションに巻き込まれるのか!?という期待と不安を感じながらその年を越しました。

順調に動き出したiP-TEC。果たして、この挑戦は今後どうなるのか?
次回につづく。

発売年(2016年)当時の、iP-TECカタログ表紙
2016年のiP-TECカタログに記載された、開放系容器ライブ輸送デバイスの原型
開放系容器ライブ輸送デバイスの概念イラスト
(ディッシュやウェルプレートを液封し非凍結で輸送を可能にするiP-TEC独自技術)
【特許番号】第6711825号、第6816894号

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