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別除権者との交渉(各論)【中小企業の自主再建型民事再生】
今回は、別除権者との交渉(各論)です。
前回は、別除権とは何かというところから始まり、別除権が再生手続き上どのように扱われるのか、別除権を行使されて事業再生が困難にならないようにするためには別除権協定を締結する必要があること、別除権協定締結に至るまでの流れ、などを解説しました。
今回は、主な担保権ごとに別除権協定を締結するに至るまでの注意点等を解説し、最後に担保権実行手続きの中止命令など別除権の行使を止めるための手段について解説をしていきます。
1 不動産担保
⑴ 担保目的物の評価の方法
不動産担保の典型例としては、抵当権が挙げられます。
例えば、X社がY社に対する1億円の債権を担保するために、Y社が所有する工場の土地建物に抵当権を設定するような場合です。
特定の債権を担保するための抵当権のほかに、継続的に発生したりする一定の範囲の債権を担保するための根抵当権というものもあります。
上の例で、工場を競売されると事業再生は不可能だ、という場合、Y社はX社と別除権協定の締結交渉をする必要があります。
前回述べた通り、そのためには担保目的物をいくらで受け戻すのか、評価額(早期処分価格)を決めなければなりません。
そのためには、不動産鑑定士に、鑑定を依頼する必要があります。
不動産鑑定に当たっては、市場における正常価格と清算を前提にした早期処分価格(競売における売却基準価格に準じて市場価格から3割程度減額されることが多い)の両方を算出してもらうと良いでしょう。
鑑定には時間がかかりますので、民事再生手続き開始申立てをした後、速やかに不動産鑑定士に依頼をした方が良いです。
⑵ 別除権者との交渉の進め方
鑑定の結果が出たら、どの別除権者にいくら弁済をするのか、いつどのような方法で(一括か分割か)弁済をするのか、などを検討します。
検討したら、各別除権者と個別に交渉をします。
債権者は、通常は正常価格をベースに担保価値を把握しているため、受戻価額について交渉が難航するかもしれません。
最終的に別除権協定に対して同意をする権限を有する監督委員の意見も聞くなどして、粘り強く交渉をする必要があります。
2 リース物件
⑴ リース契約の類型
倒産法のテキストでは、リース契約をファイナンス・リースとオペレーティング・リースに分類しています。
ファイナンス・リースは、ユーザーがリース会社に対してリースの申し込みをなし、リース会社は所有者(サプライヤー)から目的物を買い受けて、これをユーザーに使用させ、その対価の支払いを受けて、サプライヤーからの買受資金を回収したうえで、一定の利潤をあげようとするリース契約です。
ファイナンス・リースの中でも、物件代金や諸費用の概ね全額をリース料として支払うものを特にフルペイアウト方式のファイナンス・リース契約と呼びます。
ここまで来ると、賃貸借契約というよりは、金融の一手段という印象です。
オペレーティング・リースは、中古市場が存在し、将来の中古市場で公正市場価格が見込まれる汎用物件に対して、リース会社が将来の中古価値(残価)を負担することにより、ユーザーにリース期間中、有利なリース料で該当物件を使用させる仕組みをいいます。
リース期間は物件の耐用年数よりはるかに短く、ユーザーからの解約が可能なものが多いです。
⑵ 別除権付再生債権となるリース債権
最高裁判例では、フルペイアウト方式のファイナンス・リース契約に基づくリース料債権は、別除権付再生債権に該当すると解しています。賃貸借契約というよりは、金融としての側面が強いからです。
それ以外のリース契約についても、金融としての側面が強い場合には、リース料債権を別除権付再生債権として扱うべきであろうと議論されています。
⑶ リース会社から返還請求をされた場合
リース料の支払いが滞ると、リース会社はリース契約を解除し、リース物件の返還を求めてきます。
リース物件が事業の継続に必要であれば別除権協定締結に向けて交渉をすることになりますし、不要であれば、リース会社にリース物件を引き揚げてもらうことになります。
リース会社は、引き揚げたリース物件を売却してリース料の支払いに充て、残金を再生債権として届け出ることになります。
⑷ 別除権協定締結に向けた交渉の進め方
リース物件の価値>リース料債権の残高、である場合、リース料債権の残高を受戻価額とする別除権協定の締結交渉をします。
リース物件の価値<リース料債権の残高、である場合、リース物件の価値を受戻価額とする別除権協定の締結交渉をします。別除権協定で支払われなかったリース料債権は再生計画に従って弁済を受けることになります。
ここでいうリース物件の価値も、早期処分価格です。
3 在庫商品
在庫商品に対する担保権が成立することもあります。
いくつかの種類の担保権を例示します。
⑴ 約定担保権:債権者と再生債務者との約定により発生する担保権
債権者と再生債務者との担保設定契約(約定)が無ければ発生しない担保権を、約定担保権といいます。
① 集合動産譲渡担保
ある倉庫など一定の場所に入出庫する在庫商品などの集合動産を担保目的物とする担保権です。
② 所有権留保・譲渡担保
在庫商品の代金債権を被担保債権として在庫商品に譲渡担保を設定し、仕入先から当該在庫商品を買い付けたり、在庫商品を所有権留保売買により買い付けたりすることがあります。
⑵ 法定担保権:約定がなくとも法律に基づいて発生する担保権
① 商事留置権
倉庫業者や運送業者は、倉庫料や運賃を被担保債権として、倉庫に置かれたり運送の対象となっていたりする在庫商品を留置する、商事留置権という担保権を有しています。
これは、倉庫業者や運送業者が、顧客との間で設定契約を締結しなくとも、法律上発生する担保権なので、法定担保権と呼びます。
② 動産売買先取特権
再生債務者が仕入先に対する代金を支払わないまま民事再生の申立てをすると、この仕入先(債権者)は、再生債務者の所有する在庫品(当該売買の未払代金債権に対応する売買目的物)を動産売買先取特権に基づいて差し押さえることができます。
この動産売買先取特権は、裁判所を通じて行使する必要があります。裁判所から差押命令等が届いていない状況であれば、仕入先が在庫品を引き揚げようとしても、引き揚げに応じる必要はありません。
⑶ 別除権者との交渉
別除権協定の締結交渉については、これまで述べてきた担保権と同様です。
ただし、再生債務者が在庫商品を処分できないとなると、事業の継続に重大な影響が生じてしまいますので、どのような方針で交渉を進めていくのかは早い段階から検討をしておく必要があります。
4 担保権実行手続の中止命令
民事再生法では、担保権の実行によって再生が困難となる結果、再生債権者の一般の利益に反する結果となってしまう場合に、担保権実行を一時的に中止し、再生債務者が担保権者と別除権協定の締結交渉をする機会を与えるために、担保権実行手続の中止命令という制度を設けました(31条1項)。
(担保権の実行手続の中止命令)
第三十一条 裁判所は、再生手続開始の申立てがあった場合において、再生債権者の一般の利益に適合し、かつ、競売申立人に不当な損害を及ぼすおそれがないものと認めるときは、利害関係人の申立てにより又は職権で、相当の期間を定めて、第五十三条第一項に規定する再生債務者の財産につき存する担保権の実行手続の中止を命ずることができる。ただし、その担保権によって担保される債権が共益債権又は一般優先債権であるときは、この限りでない。
「相当の期間」中止する、とありますが、東京地裁では、3か月と定められることが多いようです。
5 担保権消滅請求
例えば、1番抵当権者の被担保債権が1億円、2番抵当権者の被担保債権が5000万円、担保目的物の価額が8000万円というときに、2番抵当権者は、担保権を実行しても、本来、回収できないはずです。
しかし、このような後順位抵当権者が、事業継続に不可欠な物件について、担保権実行を示唆して被担保債権の弁済を迫り、結果として、債務者が担保権解除のために多額の弁済を強いられてしまうということがあります。
このような場合に備えて、対象不動産の価額(清算を前提とした早期処分価額がベース)に相当する金銭を裁判所に納付し、担保権を強制的に消滅させるという制度が設けられました。
このような制度を担保権消滅請求の制度といいます(148条1項)。
(担保権消滅の許可等)
第百四十八条 再生手続開始の時において再生債務者の財産につき第五十三条第一項に規定する担保権(以下この条、次条及び第百五十二条において「担保権」という。)が存する場合において、当該財産が再生債務者の事業の継続に欠くことのできないものであるときは、再生債務者等は、裁判所に対し、当該財産の価額に相当する金銭を裁判所に納付して当該財産につき存するすべての担保権を消滅させることについての許可の申立てをすることができる。
担保権者との間で、別除権協定の締結交渉が難航する場合には、担保権消滅請求をすることもありうることを伝えて交渉をし、それでも別除権協定締結に至らないようであれば、担保権消滅請求を行うことになります。
2回にわたり担保権者との交渉について概略を説明しましたが、ご理解いただけたでしょうか。
今回も記事をご覧いただき、ありがとうございました。
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