別除権者との交渉(総論)【中小企業の自主再建型民事再生】
現在、⑤再生計画案を作成し認可されるまでについて解説をしています。
この項目は、
・再生計画案の作成
・別除権者との交渉
・債権者集会
に分けて解説をしていく予定ですが、今回は、別除権者との交渉(総論)についてです。
1 別除権協定の流れ
⑴ 別除権とは何か
まず、この突然出てきた別除権という単語ですが、別除権とは、破産手続、民事再生手続に左右されずに、実定法上の担保権の対象となる財産等(担保物権)を処分することで回収をすることができる権利のことを言います。
もし債務者に何かがあっても、債権者は、優先的に債権を回収することができるよう、抵当権などの担保権を設定しておくことがあります。債務者が破産や民事再生手続きを行うとこの優先権が失われる、ということだと、担保権の中心的な価値が失われてしまいます。
そこで、民事再生法は、このような担保権を別除権とし、再生手続きによらずに実行することができることとして、この優先権を保護しています(53条2項)。
(別除権)
第五十三条
2 別除権は、再生手続によらないで、行使することができる。
法律では、特別の先取特権(動産先取特権や不動産先取特権など)、質権、抵当権又は商法若しくは会社法の規定による留置権(商事留置権)を、別除権として扱われる担保権としています(53条1項)
(別除権)
第五十三条 再生手続開始の時において再生債務者の財産につき存する担保権(特別の先取特権、質権、抵当権又は商法若しくは会社法の規定による留置権をいう。第三項において同じ。)を有する者は、その目的である財産について、別除権を有する。
ほかにも、仮登記担保や譲渡担保、所有権留保が別除権として扱われますし、フルペイアウト方式のファイナンス・リース契約に基づくリース料債権も別除権付き再生債権と解されています。
⑵ 別除権に関する基本的ルール
上でもふれたように、別除権は再生手続きによらないで、行使することが認められています。そのため、抵当権者は、再生手続き中であっても、抵当目的物である不動産について、担保不動産競売を行うことができます。
そして、別除権者は、別除権を行使することによっては回収することができない部分についてのみ、再生債権として届出をし(94条2項)、再生計画に従って弁済を受けていくことになります。
(届出)
第九十四条
2 別除権者は、前項に規定する事項のほか、別除権の目的である財産及び別除権の行使によって弁済を受けることができないと見込まれる債権の額を届け出なければならない。
例えば、具体的には次のようになります。
・XがYに対して1億円の債権を有しており、競売によって5000万円で売却できると見込まれる不動産に抵当権を設定している。
・Yが再生手続開始決定を受けた場合、Xは、担保不動産競売により、5000万円を回収する。
・残りの5000万円は、再生計画に従い、例えば1000万円に圧縮され、この1000万円を3年間にわたって分割して弁済を受ける。
⑶ 別除権協定の必要性
上の例で、抵当目的物である不動産が、事業に欠かせない工場であるとした場合、これを競売されると、再生債務者は再生しようがなくなってしまいます。
このような場合、再生債務者は、別除権協定という合意を締結する必要があります。
別除権協定とは、再生債務者と別除権者との間でする、担保目的物の評価額相当額を支払い、担保権を解除してもらう(担保目的物の受け戻し)という合意です。
先ほどの例を使うと、
・あらかじめXとYとで話し合い、不動産の価額相当額5000万円を、7年間で分割して支払い、無事支払い終えた場合には抵当権を解除する、という合意をする。
・残りの5000万円については、再生計画に従い、例えば1000万円に圧縮され、1000万円を3年間にわたって分割して回収する。
という合意をします。
そうすれば、Xは事業に不可欠な不動産を活用して収益を上げ、再生を図ることができます。
⑷ 別除権の評価
民事再生法では、別除権をいくらと評価すべきかについては定めがありません。
競売をするわけでもないので、実際にいくらで売却できるのかはわかりませんので、何かしらの評価をしなければなりません。
この点については、基本的には、清算を前提とした早期処分価格とするのが相当と解されています。
例えば、不動産鑑定士に、当該不動産の早期処分価格はいくらとするのが相当であるのかについて鑑定をしてもらう必要があります。
⑸ 別除権協定の流れ
再生債務者は、不動産鑑定士が作成した鑑定書など時価の根拠となる資料を基に、別除権者と交渉をします。
そして、別除権評価額や弁済方法について合意に至ることができれば、別除権協定を締結します。
別除権協定は、再生計画案提出時までには締結しておくのが通常です。
別除権協定締結は、監督委員の同意又は裁判所の許可がなければ効力を生じません。
そのため、交渉の状況について適宜監督委員と情報共有をしておく必要があります。
別除権評価額について折り合いがつかない場合には、監督委員の同意が得られないことや、折り合いがつかず破産となれば一層経済的に不利益を被ることなどを材料に、別除権者と交渉をすることがあります。
2 別除権協定の内容
⑴ 別除権協定の条項
別除権協定で定めるべき事項についても、法律には特に規定されていませんが、通常、
①担保目的物の評価額(受戻価額)
②受戻価額の支払方法(分割払いになることが多いです)
③支払終了時に担保権登記を抹消すること
④弁済期間中の別除権の実行禁止
⑤監督委員の同意を効力発生の条件とする条項
などを盛り込みます。
⑵ 後順位担保権者との別除権協定
後順位担保権者が存在する場合、たとえ後順位担保権者の別除権評価額がゼロであったとしても、後順位担保権者との間でも別除権協定を締結しておく必要があります。
以上が、別除権者との交渉(総論)の概略です。何となくでもご理解いただけたでしょうか。
次回は、別除権者との交渉(各論)について説明をする予定です。
記事をご覧いただきありがとうございました。
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