大劇場に響きわたる舟唄に酔いしれた(&待望の「電話の遊び」)|市馬落語集 お盆特別公演 〜噺ざんまい〜
市馬落語集 お盆特別公演 〜噺ざんまい〜
第一景 精鋭落語会
〜柳亭市弥真打昇進前祝〜
柳亭市弥 のめる
三遊亭兼好 壺算
桃月庵白酒 お茶汲み
〜仲入り
第二景 通ごのみ三選〜お囃子連中〜
五街道雲助 電話の遊び
春風亭一朝 植木のお化け
柳亭市馬 三十石夢の通い路
〜仲入り
第三景 三宅坂名残三巴
春風亭一之輔 がまの油
柳家三三 星野屋
柳亭市馬 天災
20220814
国立劇場 大劇場
今をときめく実力者が集結した、なんとも豪華な会。
国立の大劇場での落語会に来るのは、おそらく文珍師匠の五十周年記念落語会以来、2回目。
長丁場なので、お尻がつらくなってしまうかな〜と心配していたけど、あっという間の、夢のような4時間半でした。いや、お尻は痛いけど。
この日のハイライトは、なんといっても市馬師匠の「三十石夢の通い路」の素晴らしさ!
2年前に日本橋公会堂で同じく市馬師匠版、その前には上方の師匠の小さな会で拝見した演目だったけど、大劇場の大きさに少しも劣らず──というかむしろ、大劇場の空間に広がっていく船頭の舟唄があまりに心地良くって、もう酔いしれました。このときのわたし、ひたすら空間に漂うクラゲのようだった。気持ちよかったなあ。
下座からは、行き交う上りの船の船頭の声と歌。
後で拝見したところによると、上り船の船頭は市童さんだったとか。いやあ、さすが!師弟で息ぴったりの掛け合いでした。
他のお弟子さんも、掛け声や鳴り物で参加されていたようで、皆さんそれぞれ芸達者で素晴らしいな。
……ここで白酒さんの「(この会に楽屋入りすると)主催者からも、市馬一門のお弟子さんからも、毎度『ほんとすみません』と謝られる」というマクラを思い出してしまって、思わずニンマリ。市馬師匠がなさりたいことを思う存分実現できるように、お弟子さんたちも総力結集して支えている会なんだなあ。
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さて、他の方も軽く振り返って感想をば。
第一部は書割を背景にした、大劇場ならではの舞台セット。出囃子長距離移動は回避されていた。
わたくし、市弥さんを拝見するのはまだ2回目なんだけど、おもしろかったなあ。昇進の前祝とあって、昇進に際しての名前選びや師匠からの贈り物について話してくださって。そのまくらが可笑しいのなんの。「全部本当の話ですからね!」って、信じちゃいますよ?
まくらが長かった分、「のめる」は後半部分から。おめでたいムードに包まれた気持ちの良い高座だった!
兼好師匠の「壺算」。店主が手ごわいパターンは初めて!あんなに手ごわかったのに、一箇所崩されたら、瓦解するのは早かった。笑
兼好師匠の手と肩の動き、特徴的でクセになる。
白酒師匠の「お茶汲み」は……けっこうな回数拝聴していて、たぶん前にもどっかで書いてるだろうから、いっか。笑
花魁が「ハーン?」って気づいたときの顔が好き。あと第三部で一之輔師匠から「(中身の腐った)小籠包」って悪口言われてて、かわいかった(?)です(??)。
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第二部は打って変わって、白屏風を背景にさっぱりと。
雲助師匠の「電話の遊び」。これが目当てだったといっても過言ではありません。というか、そうです。
ずっと音声だけで聴いていて、いつか生で…!と思っていたのが、2年前に念願叶い。もし次があったら、万難を排して臨むと誓った、雲助師匠のなかでも特に大好きな噺。
狭い電話室でひとり浮かれる親旦那と、四角四面な性格の若旦那(めがねクイッ)との温度差が最高に楽しい。この相当大きな温度差を、上下(かみしも)振る短い間だけでド真ん中直球にブレなく投げてくるんだから、すごい。
客席も親旦那と一緒になって、「た〜のし〜いなっ!」となっていた次の瞬間に、「あ…これハタからみたら頭がおかしくなったとしか思えない画だったわ」と、視点が急に引かれる感じ。翻弄されてる!
サゲの大旦那のいたずらっぽい顔がまた、たまらない。滑稽話でみせる雲助師匠のごきげんな表情の数々、改めて、大好きなんですよ。
ただ、この噺、できればもう少し高座と客席が近い会場で観れたら、もっと楽しいんじゃないかな、というのが正直なところ。わがままなファンは、願わくば一度、浅草見番あたりで聴いてみたいって思いました。
そうそう。雲助師匠は大劇場の舞台に立つのは初めてと仰っていて。すごく意外だったのですが、おかげで舞台を見渡すという珍しい師匠のしぐさを拝見できました(もう師匠ならなんだっていい)。
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一朝師匠の「植木のお化け」も、2年前「電話の遊び」と同じ会で聴いた噺。音曲づくし、芝居仕立てで出没するお化けたちの競演がなんとも楽しい。そして、みんなで一緒に手拍子するところのフェス感よ。
この日は4時間半という長丁場にもかかわらず、寄席と違って色物のない会だったけど、こうして大御所の師匠によるちょっとした(?)お遊びを出してくださるのが一層楽しかった!お祭り!(演っている方は大変でしょうけど)
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第三部のお二方+今ひとたびの市馬師匠も、聴き応えたっぷりだったけど、この時点ですでに2000字を越えている(『メモログ』の記事は1500前後を目安にしているが全然守れていない)ので、割愛する。
ひとつ記しておきたいことには。
一之輔師匠の「がまの油」は市馬師匠から教わったもので、後に出た三三師匠が、楽屋で市馬師匠が「跡形もない…」とショックを受けていたと、バラしていましてな。笑
それを受けて、最後に上がった市馬師匠が、「跡形もなくなったって、いいんですよ。それでまた、一之輔の落語に憧れて、この世界に入ってくる若者がいれば…」的なことを仰っていて、「か、会長おぉおーーーーーーーー!!」ってなりました(市馬師匠は落語協会の会長)。
でもその後にちゃんと落とすあたり、やっぱりさすがは噺家さんだったw
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プログラムの席亭さんのお言葉には、コロナ禍で断念した「市馬落語集」幻のスペシャル企画があったとのこと。その会が開催の運びとなった暁には、ぜひ再び市馬落語集にお邪魔したい。
夢のような4時間半、ありがとうございました。