師弟四景まとめの記録|五街道雲助一門会 白酒師匠「笠碁」と馬石師匠「湯屋番」を中心に
さて、2022年から始まったエムズさんでの五街道雲助一門会「師弟四景」。
今のところなんとか欠かすことなく伺えているのですが、昨年の会の感想をロクに残していなかったため、第一回〜四回はすでにほぼ記憶喪失状態。己の記憶力のなさが恨めしい。
というわけで、今年は残す。どんなに遅れようが、残すったら残す。
第五回 師弟四景
金原亭駒介 たらちね
蜃気楼龍玉 もぐら泥
桃月庵白酒 笠碁
〜
隅田川馬石 湯屋番
五街道雲助 明烏
20230301
日本橋公会堂
(亭号が「金原亭」なの駒介さんだけ!)
2023年の初回は、大っ好きな白酒師匠の「笠碁」に、雲助師匠の「明烏」という、わたし的最強ごほうび番組だったのですが、初遭遇した馬石師匠の「湯屋番」がとんでもなくブッ飛んでいらっしゃって、完全に脳内を支配されました。いまだにあの馬石師匠、わたしの脳内にチラチラ出現なさる。
龍玉師匠「もぐら泥」
龍玉師匠の言わずもがなのテッパン。
一門会で(も)「もぐら泥」をよくお出しになるというチクリの証拠として、昨年7月の会の記録を上げさせていただこう。笑
いえ、好きなので、何度聴こうが、スパンが短めだろうが、全然かまわないんですけど、なんだかちょっと……ほくそ笑んじゃうのですよね。
もちろん龍玉師匠の「もぐら泥」はいつだって素晴らしいです(にっこり)。一門会が増えすぎたのがいけないんですよね。ね。
白酒師匠「笠碁」
わたしがこれまで聴いた(数は全然多くない)落語の台詞のなかで一番好きなのが、白酒師匠の「笠碁」の「お前さんと碁らしきものを打てればそれでいいんだ」でありまして。
このひとことで、台詞の主の人となりと、おじいちゃん二人の関係性がはっきり浮き上がってくる。本当にすごい台詞だなあと思う。
これを特別な情感をこめずに、ポロっと言うのがすごくイイ。
聴いていると、つい出ちゃった本音というわけでもなさそうで。相手に伝えたい意図はあるけど、照れが前に出るから情感を込めさせないんだな、という感じを受けるのですよね。
ああ。やっぱり、とてもイイ。
……一年経ったから言ってもいいかな。
昨年、白酒師匠が出演された映画を観て、この方はやはり俯瞰のひとなのだろうなと、改めて思って。
師匠の台詞選びや語感のセンスも大好きなのですが、ストーリーテラーとしてのバランス感覚のようなもの──。わたしが惹かれてやまない魅力のひみつは、そこにある気がしています。
どこかで"演じ手"にはなりきらないというのかな。どちらかといえば、監督とか演出の視点が強いような。中心で動かしているようで、ご自身はあくまでも一歩引いたところにいる。落語家さんは皆さんそうなのかもしれないけれど、白酒師匠を拝見していると、引きの、俯瞰の目が特に強いように感じる。
いつだって渦の中心で観客の爆笑をかっさらっていく師匠に、こんな印象を抱いているの、ヘンかしら……?
このお話、前の記事で書いた雲助師匠の滑稽と人情のバランスにも、わたしのなかではうっすら繋がっているんですけど。他人さまにも伝わるように、もっと端的でわかりやすい言葉に昇華できるまでは、暫く時間がかかりそう。
そういえば、久しぶりに聴いたら「笠碁」にもサゲがついていた!もしかして師匠、持ちネタを全部落とし噺にするおつもりなのかしらん。
正直「幾代餅」のときは「ええ〜驚!(本音:やだ〜泣)」という感じだったけど、別のステージへとさらなる進化を遂げようとなさっているのかなと、ぼんやり思いました。変化を厭わない姿って、格好良いねぇ。
ファンとしては見せてくださる景色の変化を、ただ楽しむのみである。
雲助師匠「明烏」
翌朝の風景があまりに楽しくて、この噺じつは源兵衛さんと太助さんがキモなのでは? とか思ったりもするのだけど、雲助師匠版はゆるめの親父さんも、口は挟まないけど脇でイヤ〜な顔をするおっかさんも、強引な"おばさん"も、出てくるひとたち全員が全員あざやかで、とにかくもう、好きしかありません。
この若旦那の後日譚もください。
この雷様がいれば、どんな嵐も怖くはない|馬石師匠「湯屋番」
なんでこの章だけ見出し長いのよ。
さあようやくここまで来ました。すでに字数オーバー。この御一門のお話で短く終われるわけがないんです。
馬石師匠の「湯屋番」がとにかくすごかった……!
こんな「湯屋番」観たことない!
なんでしょう。前に浅草で「宿屋の富」を聴いたときも思ったのですが、馬石師匠の巻き込み力、すごくないですか? なにこのライヴ感!(いや実際、生で観聴きしているんだけども)
馬石師匠の「湯屋番」を観て、初めて湯屋のお客さんとひとつになれた気がします。あれはね、江戸っ子じゃなくても番台見るよ。目、持っていかれちゃうよ。あまりのおかしさに、観客の気持ちが湯屋の客たちのそれと一体化する。
それくらいの勢いで、楽しく明るく狂っていらした。
人情噺や芝居噺で情の世界を繊細に紡ぐ馬石師匠が、滑稽噺では一転、急にIQ低くなる感じ(ごめんなさいごめんなさい)というか、力技?に走るのが面白くて。
「ガリガリガリ…!ビシー……ッ!」の効果音だけで十分なところに、なぜか突然雷さまが出現して、客席にくまなく雷を落としていく、馬石師匠の「湯屋番」(ゆ、湯屋番……?)。
もしかして師匠、心のなかに5歳児を棲まわせていらっしゃいます??
子どもと同じくらい、いえ、もしかしたら子ども以上に、両の眼をキラキラさせて、じつに誇らしげに客席に雷を落としていらした。未だかつて、あんなに嬉しそうに雷を落とす仕草をしている人に、わたしは出会ったことがない。
どうにも元気が出ないときや、けたたましく雷が鳴り響いたときなどには、キラキラおめめの雷さまをぜひ召喚したいと思いました。
あの陽気さがあれば、どんな嵐も怖くはない(©️エリザベート)。
弊害としてこの曲の終わりにトート閣下ではなく、雷様が現れるようになりました(ある意味ハッピーエンド)
過去分まとめ
第一回 師弟四景
桃月庵あられ 黄金の大黒
五街道雲助 浪曲社長
桃月庵白酒 お茶汲み
蜃気楼龍玉 双蝶々 定吉殺し*
隅田川馬石 双蝶々 雪の子別れ*
20220204
日本橋公会堂
*ネタ出し
第二回 師弟四景
桃月庵あられ 子ほめ
桃月庵白酒 今戸の狐
隅田川馬石 お富与三郎 玄冶店*
五街道雲助 千早振る*
蜃気楼龍玉 真景累ヶ淵 豊志賀の死*
20220523
日本橋公会堂
*ネタ出し
第三回 師弟四景
金原亭駒介 高砂や
蜃気楼龍玉 駒長
桃月庵白酒 寝床
隅田川馬石 替り目
五街道雲助 景清
20220905
日本橋公会堂
この回もとても良い番組だったなあ。
雲助師匠の「景清」が、個人的にとても思い入れのある噺で。この日は三味線入りで聴けて感激でした。そのうちちゃんと言葉に起こしておきたい噺ですが、もう少し自分のなかでねむらせていたい。
第四回 師弟四景
桃月庵白酒 干物箱
蜃気楼龍玉 鼠穴
五街道雲助 時そば
隅田川馬石 宿屋の富
20221204
日本橋公会堂
この日はもともと同じ時間帯に雲助馬生兄弟会が予定されていたから、師弟四景の開催を知った時は驚いた記憶。てっきり師弟四景は一番手であがって、兄弟会の方に流れるのかと思っていたら、兄弟会で二席やってからこちらにきたとのこと。「一日一仕事」と言って憚らないのに、どうしてどうして、働き者の高貴高齢者。雲助師匠のおそばは細打ち。
基本的に、ネタ出しよりも、師匠方がその日の流れや客層を見てかけてくださる噺を楽しみにしていたい派なので、この一門会もやっぱり自由演技のときの方が好きだなぁと思いました。
もちろん、エムズさんセレクトも聴きごたえがあって楽しいのだけど。自由演技は別でやる一門会でも観れるしね。
ただネタによっては構えてしまうこともあるし、落語を聴きに行く段階であまり思い詰めたくなくって。聴きたい噺があったとしても「そのうち出会えたら良いな〜」くらいのスタンスがわたしにはちょうど良いみたい。
そんな風に出かけた先で思わぬ出会いがあったならば、もっと嬉しい。
*
次回はネタ出し。馬石師匠と龍玉師匠による「髪結新三」リレーと、雲助師匠の上がる順番がとっても楽しみです!
それはそうとエムズさん、ネタ出しならば、白酒師匠も長講リレーに入れてくださらないかしら。白酒師匠がご自身では選ばない噺を、あえてわたしは観てみたい。