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爽やかな#シロクマ文芸部
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🎃「Happy Halloween」🎃
爽やかな朝だった。空は高く蒼く澄みわたり、空気の中に鼻腔をくすぐる秋の気配を感じさせる、そんな爽やかな朝だった。
・
愛でていた。
僕は君の輝くようなその髪を、清らかで汚れを知らないその唇を、柔らかな曲線を描くその身体を、全てを愛でていた。
ストーカーではない。
いつからだろう?心から愛する行為を「ストーカー」と言う名で呼ぶようになったのは。
君が「燃えるゴミ箱」に捨てた割り箸も「空き缶」と書かれたBOXに捨てたコーヒーの缶も、僕にとっては「愛」その物だ。拾い集めた「愛」は、僕の部屋を君の香り、匂いで満たしていく。
隠し撮りした何百枚、いや、何千枚にも及ぶ写真の中からお気に入りだけを部屋の壁に貼って、僕は毎朝、君に
「おはよう」
を告げる。
憂いを含んだ君の愛らしい眼差しが、僕に一日の活力を与えてくれた。
あぁ、これが愛でなくて何だろう?
やがて僕の毎日は君を愛でる事だけで、充実していった。
・
そんな日々を送っていた僕に或る日チャンスが訪れた。いつものように朝早く、君がご両親と住む瀟洒な白い家の前を散歩していた時の事だった。僕は、君が眠る二階の窓を眺めるのを日課としていた。
辺りにはまだ人影はなく、ジョギングをする若者も犬の散歩をする老人も、その日はちょうど居なかった。
「あ…」
色とりどりのパンジーが咲く植え込みの上に、君の愛らしいオレンジ色の下着がヒラヒラと風になびいているのが目に飛び込んできた。
昨日、それだけ取りこむのを忘れたのだろうか。その下着はまるで「おいで、おいで」と言うように僕を惑わせ狂わせた。
欲しい!
立ち止まった両の掌に脂汗が、じっとりと滲んでき
た。
『やめろ』
僕が今までしてきた行為は「愛」で「犯罪」とは無関係だと僕の倫理感が脳で訴えている。それでも溢れる欲求に勝つことは出来なかった。
形ばかりの低くて白いフェンスを飛び越えると僕はパンジーの花を踏み散らかし、欲求の赴くままにその下着の元へ走った。
洗濯ハンガーのピンチが、パチンと小気味よい音を立てて、僕の手の中に愛が舞い降りてきた。
思わず顔を埋めて、君のかぐわしい匂いを嗅いでみた。薔薇の柔軟剤が邪魔をしたが、その奥に君が見えた。僕だけが知る君の匂い…
その時だった上の方から美しい君の叫び声が聞こえてきた。
「キャー!!下着どろぼう!!パパ、ママ、起きて!!下着どろぼうよ!!」
僕は愛を掴んだまま走り出していた。
その夜は君を一晩中、抱きしめながら眠った。僕の愛が完結されていく充足感に満たされながら。
・
爽やかな朝だった。僕のアパートを制服を着た警察官が訪れたのは。
「うわっ!なんだっ!この生ゴミの匂いは!!」
さんざん失礼な言葉を僕の愛に浴びせかけた挙句に、二人の警察官は僕を連行した。
・
爽やかな朝、トーストとサラダの軽い朝食を囲む三人が話していた。
「ねぇ、パパ、それにしても、あの下着どろぼう、何故しおりか私の下着じゃなくてパパのアレを盗んだのかしら?」
「間違えたんじゃないか」
「あれはパパのハロウィンの仮装用なのにね」
しおりは、クスッと笑った。
・
僕は今、拘置所の中で「愛」が完結した満足感に高揚している。
了
小牧幸助さんの企画に参加させて頂きます。
よろしくお願いします。
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ありがとう♡