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「短編小説」追憶の残り火2#シロクマ文芸部#あの記事の後日談

(まえがき)

↑ 読み返すとなってないな~と思う箇所が幾つもある(泣)スキも26しか付いていない私の初期(っても、ほんの4ヶ月前)の記事。
今後、「修正」するとして(今やれば?)この続きを書く事にした。



      「追憶の残り火」


梅の花が咲くこの庭とも、もうすぐお別れだな。

妻の結子がお茶を煎れにいった隙に和也は、住み慣れた家の庭に降りた。
鎌倉のこの古い家は、亡き両親が和也に遺してくれたものだ。
甲子園を目指していた頃、和也の一家は交通事故にあった。運転していた父は即死、助手席に座っていた母は生き残ったが、脳に重い障害を負って療養施設に入ったまま数年後に和也の成人を見届けるかのように息を引き取った。後部座席に居た和也だけが、かろうじて助かった。センターラインを越えて突っ込んできた居眠り運転の車との正面衝突だった。
両親との思い出が詰まったこの家から引っ越そうと言い出したのは他ならぬ和也自身だった。
漫画家として成功を収めたのもあるが、和也はこの家で暮らすことが苦痛だった。
生まれ育った家だ。両親との楽しかった思い出はもちろんあるが、それ以上に両親との悲しい別れを思い出させる事の方が多い。初めて父とキャッチボールをした庭、母がいつも立っていた台所……平凡な日常をあの事故が一瞬で和也から奪っていった。

妻の結子は都心のマンションへの引っ越しに、一も二もなく賛成してくれた。鎌倉といっても此処は山の中の田舎だ。結子はひっそりとした田舎の暮らしよりも都会の喧騒の方を好む女だった。和也は秋の気配よりも冬の到来を感じさせる木立ちに囲まれた庭を眺めながら、遠い昔を思い出していた。

高校時代、好きな子が居た。
あの事故で、右足に障害を負った自分を美術部へ誘い明るく支えてくれたのは妻の結子だったが、その娘はただ優しく見守ってくれた。結子が桜の花のような華やかさと潔ぎ良さを持った女性なら、彼女は梅の花のように艶やかなのに慎ましさを兼ね備えた人だった。

野球バカだった僕のあれが初恋だったのかもしれない。

和也はまだ蕾もつかない梅の木を見つめながら思う。
もう一度逢いたい、でも逢ってしまったらダメだ。
逢ったら今までずっと支え続けてきてくれた結子への裏切りになってしまう。

ズボンのポケットから一通の手紙を取り出した。彼は本名で漫画を書いている。渋谷 美希が和也の名前を雑誌で見つけて、編集部宛に手紙を寄越したのは数年前だった。

結子、僕はもうずっと以前から君が何をしたのか、知っていたんだよ。文化祭の日に約束の場所で彼女はずっと僕を待っていてくれた。他の男と遊んでなんていなかった。あれは君がついた嘘だったんだね。美希の手紙の中にあの日の事が、懐かしい青春の一コマとして綴ってあった。

和也は右足を軽く引き摺りながら、結子が燃やしていた焚き火に近付くと弱々しく残る火の上へ美希からの手紙をそっと置いた。くすぶっていた火は、新しい命を吹き込まれたかのように再び青白い炎を上げた。

君は何でも燃やしてしまう。
美希を描いた油絵も僕からの美希への告白の手紙も…。

ズボンのポケットに手を入れてスマホに触れた。その中には美希の連絡先が入っている。

あの当時、こういう便利な物があれば伝書鳩のような真似を結子にさせなかったのに…
僕は結子がずっと僕を好きな事を薄々勘づいていたんだ。それなのに君の想いを試すような事をしてしまった。

なぁ、結子
僕が犯した過ちと君が僕から奪ったものは、どちらが大きかったんだろう。

和也はその場にあったホウキで落ち葉を掻き集めると二人の鬼火のような焚き火の上にかけた。残り火だった炎はまたパチパチと音を立てて燃え上がった。

「あなた〜、お茶が入ったわよ~」
結子が縁側から声を掛けた。
「分かった、直ぐに行くよ」

晩秋の空を沈んでいく太陽が暁に染める。
銀杏の木から剥がれ落ちた枯れ葉が、ハラハラと風に舞って焚き火の上に落ちた。






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