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#家族について語ろう「告白」2


私は妹達が大好きだ。
この話も上の妹の名誉を守る為に当時書いていた事を思い出した。
(当時は、先日『詐欺罪』で逮捕された妹の元彼への挑戦状でもあった)
先程の「告白」だけでは妹は守られていない事に気付いた。
私達が歩んだ道のりを納得するところまで書いてみようと思う。
殆どは当時のメモによる物だが、現在の私の目からの加筆もある。

妹は今も闘病中だが何十年前とは違い、良い薬が開発されている。
「意志の疎通」も出来なくなった妹が復活していく様が少しでも皆に届けられればいいなと思っている。




ベチャ、ベチャ、ベチャ

深夜の零時を回り雨はいっそうその激しさを増した。沙希の眼にはもう何も映らず、その雨音も彼女の耳には届かなった。ただ眼の前にある物を口の中に押し込むという作業だけが彼女を駆り立てていた。
「全て、敵に見えた」
小康状態に戻った時の沙希が語った、たった一つの記憶だ。
食べる、食べる、食べる…
暗闇の中で白濁色の眼をして沙希は、更にその作業に没頭していった。

ガチャ

その時、彼女の邪魔をする何者かが部屋のドアを開けた。


「お姉ちゃんが狂った!」
末の妹 結花からの電話に私は何が起こったのか皆目見当がつかなかった。
何を言ってるんだ、この娘は…
「お姉ちゃんが、お姉ちゃんが、狂っちゃったの。キチガイになっちゃった、本当なのっ」
「何言ってるの、結花ちゃん。落ち着きなよ」
落ち着かなければならないのは私も同じだった。気が動転した。沙希が狂った?今日も電話で話したばかりだった。

「お姉ちゃん、元気にしてる?」

一緒に生活をしていなかった妹は、たまにそんな風に連絡をよこす。それから、ごく普通の世間話をして電話を切ったのが、確か夜の9時くらいだったはずだ。
言われてみれば少し元気がなかったような気もするが、今のこの息せき切って電話を掛けてきている結花より、よほど沙希の方が冷静だった。

「あ、お父さんが危ない!殺されちゃう!」
結花の声が悲鳴に変わった。
沙希は狂い、実の父(私にとっては実母の再婚相手、義理の父)を殺すというのか?そんな流行らないドラマのような事が身近で起こるはずが…

「本当なんです、お姉さん」

電話の声は、いきなり結花のボーイフレンドの山崎志郎に代わった。普段、冷静な彼の声が上ずっている。私はやっと事の重大さを認識した。
「とにかく、お姉さん。僕達、これからそっちへ行っていいですか?それから、すみません。タクシー代を貸して下さい」
「それは構わないけど、結花ちゃんに気をしっかり持つようにって。それから詳しい事情は此方に着いてから聞くから」
ツー、ツー、ツー
ポケットにあったコインが切れたのだろう、電話が切れた。
いったい、何が起きたの?安西の、母の家に…
志郎の話によるとこの土砂降りの雨の中を裸足で逃げ出したらしい。もちろん、財布もバッグも持つ暇などなかったのだろう。

それにしても…
私の頭は、さっきまで飲んでいたバーボンウイスキーを追い払うように急ピッチで結論を出そうと思考を巡らす。
当時、私は仕事の関係や継母の事もあって一人暮らしをしていた。とりあえず20分もすれば二人が到着するだろう。詳しい状況を把握して何かを起こすのはそれからだ。
今夜、私は結花の高校卒業祝いに酒を飲ませてしまった。(もう何十年も前の話しだ、時効だろう)
それが、いけなかったんだわ
結花は若さに任せて自分の限度も知らずにロックのIWハーパーを煽った。久しぶりにボーイフレンドとのデートで余程嬉しかったのだろう。

キキキー

家の前に車が止まる音がした。
激しく降る雨の中をタクシー代を払うために私は階下へ降りた。


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