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寒い日に#シロクマ文芸部#ミリしら解説


「寒い日に」 【掌編小説】


寒い日にかぎって、手ですくえそうな満天の星から、滑り落ちたように星が流れる。

星が流れるのを待っていたかのように、詩織に繋がれた心電図のモニターがピッピー、ピーと平らになった。生気を失くした彼女の顔から、もう二度とあの星のように輝いていた瞳が見られない事を僕は悟るしかなかった。
こみ上げてくる嗚咽を堪えている僕の隣を医師が義務的に分け入った。
詩織の白い胸を露わにして、何度も繰り返される心臓マッサージ。「どいてください」と荒っぽい声の後に冷たいAEDが詩織の身体を大きく仰け反らせた。

しばらくして医師が詩織の瞼をこじ開けてペンライトで照らした瞳はガラス玉のようで、もう彼女のものではなかった。腕時計に目を落とした医師の次の言葉を聞きたくなくて、僕は病院の外へ飛び出した。何ごともなかったかのように冬枯れの樹々の隙間から点々と星が瞬いていた。その星間に白い線を引いて点と点を繋ぐように小さな星が流れて消えた。

葬儀が終わった後、詩織の母が僕に一冊のノートを差し出した。うつむいたまま顔を上げようともせずに
「和樹さん、貴方に持っていて欲しいの」
そう言った彼女の母の和服から覗く白いうなじは詩織によく似ていた。

斎場の庭に設置されたベンチに腰掛けて、僕は煙突から天に真っすぐに昇る煙を見つめていた。
どうして、こんな事になってしまったんだろう。あの天真爛漫で屈託なく笑う詩織が自ら命を絶つなんて。
僕は彼女が遺したノートを開いて目を落とした。

2023年4月5日
ずっと憧れていた紅林 和樹君と同じクラスになった。やった〜!!
どんな一年間になるんだろう。


あぁ、これは詩織の日記帳で僕と出逢った頃からが記されているんだ。だから彼女の母が僕に「貴方が持っていて」と言ったのか⋯
僕は詩織の日記を一心不乱に読みふけった。

「紅林くん、隣いい?」
いつの間に近付いたのか隣のクラスの斎藤 美香が横に立っていた。
「どうぞ」
「今日は寒いね」
美香は寒いと言いながら制服の上にコートを羽織っていなかった。
「詩織、いい子だったのに可哀想に⋯鬱だったの?」
「いや⋯どうだろう⋯」
「でも、虐めにあったくらいで死ぬなんて」
「えっ?」
「あら、紅林くん、詩織と付き合ってたんじゃないの?知らなかった?」

美香は隣のクラスで、僕とは小学生の頃からの同級生だ。生徒達の間でボスと呼ばれていて、女生徒のリーダー的な存在だ。

「その話、詳しく教えてくれないか?」
「詩織はね⋯⋯」

美香は延々と詩織が学校で、受けていた虐めを語った。頷きながら聞いていた僕に
「そろそろじゃない?」
腕時計を見て美香が言った。

僕はガタンと立ち上って、ベンチの後ろの芝生へ美香を押し倒した。

「な、何するのっ!」
「お前だったんだな」
「な、何がよ」
「その腕時計は詩織の物だ」
「も、貰ったのよ、詩織から」
「嘘だ、それは僕が詩織の誕生日にプレゼントしたものだ。人にあげるはずがないだろ」
「あはは〜」
首を締めつけている美香が、苦しくないのか、高笑いをした。
「何笑ってるんだよ!ふざけるな!!」
「だって今頃、気づくなんて」
両の手に込めた力が、だんだんと弱まっていった。

詩織は僕と美香のことを疑っているのかと思っていた。何を言っても僕は美香を庇うような発言をしていたから。彼女はそんな奴じゃないと信じていた。それなのに⋯

『お願い、もう美香さんとは仲良くしないで』
『仕方ないだろ、小学生の頃から知ってるんだから』
そんな会話が幾度ともなく繰り返されたような気がする。僕は平和を愛していたから。

『でも美香さんは和樹を好きよ』

僕は僕の身体の下で、ぐったりとしている美香のスカートをめくり上げるとズボンのファスナーを下ろした。何の抵抗もしない美香の下着を一気に下ろすと僕自身を挿入した。

「こうして欲しかったんだろ」
「そうよ」

白い蛇のように薄笑いを浮かべた女は、僕を呑み込んで離さなかった。僕は平和を愛している。






蛇は一寸にして人を呑む

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やっとお休みぃ〜♡
何して遊ぼっ?

じゃぬーん♪








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