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「妬いてるの?焼くの?」【掌編小説】#青ブラ文学部


「妬いてるの?焼くの?」



僕はどうして此処に居て、どうして君の帰りを待っているのだろう。
ソファの陰に隠れるように身をおいて、ひたすら君の帰りを待つ生活をいつまで続ければいいのだろう。カーテンの隙間から差し込む僅かばかりの日差しを引き摺る足で追いかけて暖を取る。元々身体の弱かった僕は、あの雨の日に公園のベンチに倒れ込んでいた。
「どうしたの?ずぶ濡れじゃない」
白地に小花柄があしらわれた傘が僕の上に差しかけられた。それから抱きしめられて短いキスの後に君の部屋へ連れて来られた。
最初の頃は君は僕に夢中だった。君の柔らかな胸に抱きかかえられてベッドに連れ込まれ、そのまま朝を迎えた。
「おはよう」
の代わりに君の唇に僕は舌を這わせた。ザラザラとした僕の舌が君のふっくらとした唇を三度這うと
「うーん…起こしてくれたの?ありがとう」
君は僕を君の身体の上に置いて優しく愛撫を繰り返した。
君が会社へ出勤すると僕は君が落とした髪をカーペットから拾い集めて飲み込んだ。シトラスの香りが残る君の細い髪が僕は好きだった。掃除が嫌いな君の部屋には沢山の君の移り香が漂っている。その全てを僕は愛した。

やがて数年の月日が経った。
僕に夢中だった君は、他の男と一緒に帰って来るようになった。シトラスブーケの香りの上にアルコールの匂いをまとった君は、いつもよりも雄弁で艶めかしくて、僕を惑わせた。邪魔な男の足に思いきり爪を当てると
「妬いてるの?ボク?」
大きな潤んだ君の瞳が僕を覗きこんだ。
そうだ、これが嫉妬という感情で、確かに僕はこの邪魔くさい男に妬いているのかもしれない。
ずっとずっと待っていたのに…
ずっとずっと愛してきたのに…

僕は君の足元の周りを引き摺る足で、そっと歩いた。以前なら、そんな僕を見て君は抱き上げて熱い抱擁を繰り返してくれたはずだった。
「いい子にしててね」
ところが君は、僕の知らない他の男と寝室に消えて行った。あのサーモンピンクのシーツは僕と君だけの物のはずだったのに。
僕はまたソファの陰に横たわって、今度は漏れてくる月明かりをぼーっと眺めていた。
それでも、溢れてくる感情を止めることは出来なかった。
多分僕はもう、そう長く生きられない。それならと、最期の力を振り絞ってカーテン横のコンセントを半分剥き出しにした。
掃除嫌いな君が何年も溜め込んだ埃がチリチリと音を立てて燻り始めるのに、そんなに時間はかからなかった。防災カーテンではないレースのカーテンが音を立てて燃え上がっていく。
足の悪い僕は逃げることは出来ない。このまま君の、大好きな君の家で朽ち果てよう。

「妬いてるの?」
「にゃ~」
と答えた僕の返事は君に届いたのだろうか。



#なんのはなしですか


山根あきらさんの企画に参加させて頂きます。
よろしくお願いします。


気まぐれな愛など
いらない




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