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三月に#シロクマ文芸部と本当の「接吻代行」


初めて書いて、たらはかにさんに掲載して頂いた、410字の毎週ショートショートが、こちら⏬️

実は、この結末は410字制限なので当初、考えたものと少し違ってしまった。

よかったら長いお話だけど、お付き合いくださると嬉しいです。

本文はここから⏬️


三月になれば、真っ白なウェディングドレスを着て私は愛しい文哉の妻になる。
普通なら、それはとても嬉しいことだけれど、私は不安の方が大きかった。
マリッジ・ブルー?
そんな生易しいものじゃない。信じてもらえないかもしれないけれど、私とキスをした人間は皆、ことごとく非業な死を遂げてきた。



最初に犠牲になったのは私を産んだ母だった。母は私を産んだ数時間後に
「なんて可愛いの〜」
私を抱きしめキスをして、そのすぐ後に心臓発作でこの世を去った。
次に犠牲になったのは父だった。物心がついた四歳の頃、出張から帰宅した父は
「寂しかっただろう」
私を抱きあげキスをした。その数時間後、呼ばれた席でフグに当たって死亡した。遺された私は祖父母に育てられたが、二人とも私とキスはしなかったから寿命を全うしている。

そんなの偶然だって?
じゃあ、こんなエピソードはどうだろう。

小学校二年生の時、校舎の階段の下で待ち伏せしていた幼馴染のかっちゃんに、突然唇を奪われた。それを見ていた同級生に囃し立てられたのが、私のお粗末なファーストキスだった。でも、その半年後、かっちゃんは交通事故で亡くなった。
高校生になって恋をして、道彦くんと本物のファーストキスをした。彼も数日後、体育の授業の最中に高鉄棒から落下して、私の目の前であっけなく逝ってしまった。

これも全部偶然?
それともやっぱり、私のキスは呪われている?

27歳になって文哉と出逢った。
彼を愛するのに時間はかからなかった。
「結婚しよう」
そう告げられた時、私は迷わず「はい」と答えていた。
それまでキスはしなかったのかって?
それはほら、それなりに⋯
愛する婚約者を失うわけにも、葬り去るわけにはいかないし。

とんとん拍子に結婚式の日取りが決まり、文哉の家がクリスチャンだったことから教会で式を挙げることになった。私は神前の和式の結婚式を望んだけど、神教でもないのに、あんまり頑なに拒むわけにはいかなかった。文哉のご両親に気に入られたかったから。

さて、困った。
教会の式のメインは「誓いのキス」だ。

そんな時、ふと目に止まったYahooの宣伝広告が「接吻代行」だった。
「これだわ!!」
ウェディングドレスを選ぶ時、私は顔まで隠れるベールを注文した。
そして、その時はやってきた。牧師が
「では、誓いのキスを」
新婦の真っ白なベールを持ち上げた文哉だけは、驚愕の表情を示したが、常に穏やかで揉め事を好まない彼は、私の代役にすっとフレンチキスをした。

キスなんてしなくても、私はこの人と一生添い遂げてみせる。

変な自信を持ったのは、この時からだった。

それからもずっと文哉とはセックスはしても、キスはしていない。
「どうして?僕が嫌い?」
そう訊ねた彼に寝物語で
「ごめんなさい、私とキスすると貴方死んじゃうのよ」
「⋯」
私の答を彼が信じているかどうかは分からない。

それから、数十年の月日が流れた。
私は、私の呪いのキスに、ある事実を発見していた。

私のキスだけでは、相手は死なない。

可愛いがって飼っていた犬のハナコが偶然、私にキスをしてから、数時間後に突然死を遂げた。次にキスをしたのは愛猫のミューだったが、彼女は未だに生きている。
「?どうして?」
ミューは文哉を愛しているが、私にはなついていなかった。

「あ〜、そういうこと」

文哉が還暦を過ぎた頃、彼は身体の不調を訴えた。
病院で診てもらうと心臓から始まった癌が脳に転移したという珍しい事例だという。
すぐに入院したが、もう全身に転移していて手の施しようがないと言う。
迫ってくる愛しい人の死を目の前に、私は泣く事しか出来なかった。生まれて初めて「死」の重さと恐怖を感じていた。

ん?ちょっと待って!
泣くことしか出来ない?
あるわ、私にも出来ること⋯

文哉は荒い息の中から、消え入りそうな声で私に訴えた。
「殺し⋯て」

えぇ、貴方
私が貴方を痛みのない世界へ旅立たせてあげる。
酸素吸入のマスクを外して、私は愛する人と初めて接吻をした。

さよなら、文哉⋯




あれから数週間が経つが、文哉はまだ生きている。



小牧幸助さんの企画に参加させて頂きます。
よろしくお願いします。


今日も一日一善
よろしくにゃん♪


今日のお仕事は夜だけ〜。
グダグダしちゃお(*´艸`*)
じゃぬーん♪




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