「エッセイ」帰りたい場所#青ブラ文学部
夜のICUに薬品と血液が混じりあった匂いが充満していた。
ガシャガシャ、チッチッチッ、ピーピー……
忙しなく動く医療機器の音達に囲まれて、機械と貴方が繋がれたチューブの数を数えていた。
そんな中でも私は、今のように決して独りぼっちではなかった。
ああ、あの最低の場所でも戻れたら、その先が血反吐を吐くほど辛くても、まだ貴方は息をしていたのに、0.01%と言われた希望にすがっていられたのに。
あの薄暗い窓のない宇宙ステーションのような病室の硬い小さな椅子だけが、私が息をして居られる場所だったのに。
貴方が居た。
貴方が生きていた。
それだけで良かったと今なら思える。
あの時はあれが人生のどん底だと思ったけれど、二度とあんな場所へは戻りたくないと思ったけれど、今よりはあの場所がいい。
でも例え今、あの場所へ戻れたとしてもタイムスリップでもしない限り「貴方」は居ない。
じゃあ、私の帰りたい場所は何処?
戻したい「時」は、あるけれど「帰りたい場所」って何処だよ?
実母に可愛いがられていたあの実家か。
れんげで無邪気に花冠を作っていたあの畑か。
ダーちゃんに初めて会ったスナックか。
父と腕を組んでウェディングドレス姿を撮影したあの結婚式場か。
ダーちゃんとゴンと一緒に夕陽の中を散歩したあの道か。
その何処の場所にも居るべき「人」と巻き戻す「時」がなければ帰りたくはない。
もう一度人生がやり直せないのなら…
三度の飯より貴方がいいのよ
死ぬのがいいわ
帰ろう
全てを捨てて
帰ろう
なんて、グダグダ言うのは私には似合わないか。
その二つがダメなら藤井風のライブにでも行くかな(笑)
ワシかて、ずっと一緒におりたかったわ
別れは、いつかみんな通る道じゃんか
そうだよね、そうなんだよね。
分かってる、分かってるよ。
でもまだ、その心境地には辿り着けそうにない。
「帰りたい場所」は、これから私が独りでつくる。
山根あきらさんの企画に参加させて頂きます。
よろしくお願いしますm(__)m