「生きたい死体」#逆噴射小説
「生きたい死体」
目玉が飛び出た惨めな姿になった死体からは、魚が腐ったような異臭が放たれていた。
道端に溢れ出た臓器を自分の腹に戻そうとでもしたのだろうか。両手で内臓を鷲掴みにしたまま、アスファルトの上にうつ伏せで倒れた死体は、もはや魂の存在など一切感じさせなかった。
真夏のアスファルトは、天気予報で公表する最高気温を軽く上回っていた。
ーー生卵でも落としたら、目玉焼きが出来そうだな。
着古したグレーの背広の腋に汗じみを作った加賀刑事は昔聴いたユーミンの歌詞を思い出しながら、しわくちゃなハンカチで鼻を押さえた。
「もうすぐ鑑識が到着しますが自殺って事で、かたがつきますかね?」
新米刑事の米田が背後から、恐る恐る先輩の加賀に声を掛けた。
「バカ!!捜査に先入観を持ったらダメだって、いつも言ってるだろう!!」
「う、うげぇーーー」
加賀の注意を最後まで聞き終わらないうちに米田は、道路脇の側溝へ駆け出していた。
ーーまぁ、そりゃ、そうだろうな。こんなの見た日にゃ、今夜は俺も酒でも飲まなきゃ眠れないだろうし…
灰色に立ち込める雲を横目で仰ぎながら、加賀はその雲と同じ灰色をした病院の屋上を見上げた。
ーー彼処から落ちたぐれぇ〜で、こんなになる筈がねぇんだよ。その直後に車が轢いたとしたって、こんな仏さんになるわきゃない。それにこいつは、生きたがっていた。
「すみませんでした」
真っ白なハンカチで口を拭きながら、米田がまだ青ざめた顔で加賀の所へ戻って来た。
「全部吐いちまえよ。今夜は帰れねぇ〜ぞ。帳場が立つからな」
「えっ?自殺じゃないんですか?」
アスファルトのひび割れから、季節外れのタンポポの花が一輪、咲いているのが加賀の目をかすめた。
「事件の匂いしか、しねぇ〜だろうがっ」
ドサッ、ドサッ、ドスン!!
濁った地響きを立てて、加賀と米田の側にまた内臓を飛び散らせた元人間が、三体降って来た。
「ん?気の所為か?」
さっきの死体が動い…
(795文字)
つづく
ニンジャスレイヤー公式/ダイハードテイルズ様、企画に参加させて頂きます。
よろしくお願いします。
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