【DAY 3】運命はその時一段もはずせないハシゴだった。
日常も好きだけど、どうもうまく呼吸ができないときにうまいタイミングで旅に出ると、びっくりするくらいに息ができる。「日常も非日常も好き」なんて贅沢かもしれないけれど、「日常」と「非日常」が鬩ぎ合うちょうどギリギリにところに惹かれる、というのが本当のところなのかもしれない。今のところ。
ウラジオストクで迎える2回目の朝。
モーニングを食べに行こうと部屋を出ると、朝日が昇ってきていて遠くに観覧車が見える。
そういえば、昨夜バレエとお酒を共に楽しんだ彼女が、観覧車の写真を見せてくれたなぁ……なんてまだまだ昨夜の余韻に浸り、微睡ながらウラジオストクの街を歩く。今日は、彼女がお勧めしてくれたお店でモーニングを食べよう。
ロシア風クレープのお店。日本語メニューもあって、じっくりと選ぶことができる。うきうきしながらレジに並び、ふと入口に目を向けた。
すると、入口に女の子が立っていた。彼女の後ろから射してくる朝陽がキラキラしすぎていて、逆光で、顔が見えない。でも、彼女は紛れもなくわたしが昨夜「偶然」を「運命」に書き換えた彼女だった。これは夢なのではないかとつい目を擦った。この登場は、ずるい。
ここに来れば、あなたに会えると思ったの。
屈託のない笑みを浮かべてそう言った彼女は、迷いなくわたしの席にやってきて、まるで昔からの友人かのように、一切れのクレープをわたしのお皿に載せた。
まだまだ微睡んでいるだけなのだろうか。それとも、わたしたちの出会いは本当に「運命」だったのか。ウラジオストクは決して大きな街ではないけれど、モーニングを食べられるお店はいくつかあって。今朝だって、観覧車を眺めるまでは、別のお店に行こうと思っていた。
運命はその時一段もはずせないハシゴだった。どの場面をはずしても、登り切ることはできない。(吉本ばなな『キッチン』)
「何かに吸い寄せられるように」なんて表現があるけれど、本当に何かに吸い寄せられたのかもしれない。おそロシア。
「昨日写真見せた展望台、夕焼けが本当にきれいだから。行ってね」
彼女は、今日が帰韓日。クレープを食べ終えるとこう告げて、かわいいマトリョシカのキーホルダーをわたしの手に握らせて去って行った。
自分ではきっと選ばない、緑色のマトリョシカ。でも、このマトリョシカがきっとわたしたちをまた繋いでくれる日が来るんじゃないかと、ちょっぴり期待しているわたしがいる。
夕方にはもちろん、鷲の巣展望台へ。
わたしは、ウラジオストクの冬の太陽にすっかり惚れ込んでしまったようだ。初日に見た空港のマジックアワーも、昨日の朝陽も、そしてこのマジックアワーのウラジオストクの街並みも、とにかく光が綺麗で。日が暮れて、水平線に落ちていくのを凍えそうになりながらもぼーっと眺めていた。大きく深呼吸をしながら。