高校デビューも、わるくない。
当時わたしが住んでいた九州の片田舎では、公立高校に合格することが、人生最初で最大のミッションだった。そして、その公立高校入試で、わたしは見事に失敗した。
4月。わたしは紺色のスーツのような制服を見に纏うはずが、タータンチェックのスカートにブレザーを身に纏って、入学式の席についていた。
入試日。ここは滑り止めだと鷹を括ってぼんやりとバスに揺られていたら降りるバス停を間違えて試験開始5分前に走って校門をくぐり、休み時間には廊下で鬼ごっこをして怒られた苦い思い出しかない私立高校に、入学するだなんて。
中高一貫校のその高校は、内部進学生が4クラス、外部進学生が1クラスという学級構成。しかもわたしが入学するそのひとクラスは、中学時代に塾で一緒に過ごした友達がクラスの3分の1を占めるということを入学オリエンテーションで知っていた。
なんなら公立高校から不合格を突きつけられた人たちを集めた外部進学クラスのお葬式のような重苦しい雰囲気の入学オリエンテーションで、わたしたちだけが「うわー。塾と変わんないじゃん。またずっと一緒じゃんかよー」なんて言って騒いでいて、入学する前から怒られたこともよく覚えている。
最悪だ。受験に失敗して公立高校に入れなかったことよりも、入試そのものや入学オリエンテーションの方が黒歴史じゃんかよ。
でも、小学生の頃からどうしても入りたい大学があったわたしは、高校入試のような失敗はもうしたくない、と入学式の朝、ちょっぴり早く家を出ることにした。ある意味、高校デビューを決め込む気満々だった。
そして、気合を入れすぎたわたしは、入学式開始の20分前に、体育館に到着してしまった。
これは、気合い入れすぎたかぁ……と既にちょっぴり心が折れそうになていたところ、隣に女の子が座ってきた。それも、全然知らない、ものすごく真面目そうな女の子。そりゃ、入学式の20分前には着席しちゃうよな、って感じの。
3分の1が知り合いの世界線で、なんでよりにもよってこの一番気まずい時間にわたしの隣に座った子は知らない子なんだろう……高校デビューなんて、やめればよかった。と、もはや泣きそうになりながら数分。
「あの、どこ中学校だったんですか?」っていうあまりにもありふれた会話から私たちは、おしゃべりを始めた。しゃべってみると案外気が合うその子とは、冗談も言い合えるくだけたところもあるけれど、四人兄弟の長女ということもあってか、正義感の強いとてもかわいらいい子だった。
わたしも3人姉妹の長女であること、受験した公立高校が同じであること、受験した教室も同じだったこと……(その教室には、彼女の初恋の人とわたしの初恋の人もいた)いろんなことが重なって、高校時代のたくさんの時間を一緒に過ごすことになった。
そして彼女とは、高校を卒業して、大学を卒業して、大学院を修了して、就職した今も、定期的に連絡を取り合っている。毎日寝ても覚めても連絡をしているわけではないけれど、3日連続で連絡を取り合うこともあれば、2・3ヶ月間が空いたり。
気づいたらもう10年以上のおつきあいになってしまった。その間に、進学、就職、家族を亡くすこと……いろんな経験をしては、ふと寄り添ったり美味しいものを送りあったりしながらわたしたちは、続いている。
入学式の日、隣に座ったのがあなたで本当によかったよ。わたしの高校デビューは、当日心をへし折られそうになりながらも、彼女のおかげで無事に成功したらしい。
人生で最初のでも当時最大のミッションを失敗したわたしたちは、良い意味で恥じらう必要がないから、さらけ出し合える。あと、九州と東京と物理的にも距離があるから、どんなに具体的な内容を相談しても共通のコミュニティに属していない相手であることが多いから、結構ざっくばらんに語り合える。
昨夜も彼女と3ヶ月ぶりくらいに電話をしていたら、あっという間に日付を跨いでしまったので、電話をしながらつぶやいた。
10年経っても、20年経っても、日々のなんでもない、でもわたしたちにとって大切なことを共有し合う時間は、これからも大事にしていきたいな、なんてことを考えている。
いつもいつも、ありがとう。
ちなみに、99%が公立高校落ちのそのクラスは、なぜかとても団結力があって、どのクラスよりも仲が良かった。文化祭も運動会もクラスマッチもとにかく全力投球で楽しめる、そんな1年間だったから、公立高校から不合格を突きつけられたことは早々に忘れられたし、結局小学生の頃から憧れていた大学に推薦で合格できたから、結果オーライ。