【DAY 2】偶然の出会いに、運命というラベルを貼った夜。
旅先での出会いは、旅をさらに非日常にしてくれるような気がする。「偶然」かもしれないけれど「運命」なんていうきらっとした言葉で、この夜を包みたい。そう思わずにはいられなかった。
ウラジオストク2日目は、地図に頼らずひたすら歩き続けた。
この街は、どんな街なんだろう。
昨夜少し街を歩いてみたけれど、お日様が昇ったら、きっとかわいらしい街並みが続いていく。そう思うといてもたってもいられなくて、日が昇り始めるのとほぼ同時に部屋を飛び出した。
氷でツルツルの歩道を歩きながら、仙台育ちであることに感謝する。仙台も登校の時間は路面が凍結していて、何度滑ったことか。
大通りに出ると、金角湾に架かる大きな橋の方から朝日が登ってくる。橋の手前にあるらしい展望台に行ってみよう。
8時半をすぎてもまだ薄暗い中、橋に向けて一歩一歩歩みを進める。
昨日のマジックアワーといい、今日の朝日といい、とにかく太陽の映える街だ。ただし、寒い。とてつもなく寒い。寒さに耐えられなくて、10分くらいで退散。
海外のパン屋さんって、シルバニアみたいなかわいさで溢れている。。。
ピロシキ風ジャムパンで軽くモーニングを済ませて、街並みを楽しみながら昨夜真っ暗だったウラジオストク駅へ。
かのシベリア鉄道始発駅。駅舎が既にかわいい。ここから一週間かけてモスクワへ行くという。寝台特急で首都まで1週間。おっきすぎでしょ。おそロシア。
クリスマスモードの待合室。天井画が、かわいらしい。
階段を登っていくと、ホーム。この蒸気機関は、引退車両。かっこいい。
駅舎を後にして、ランチへ。
ロシアといえば、やっぱりボルシチ。のワンプレート。器もパンだけど、そんなにいっぱい食べられない。食べ終えると、この時点で一万歩以上歩いていたこともあってか、どっと疲れが襲ってきた。今宵はメインのバレエ観劇が控えている。着替えもしたかったのもあり、部屋に帰る。
ホテルでひと休みして、いざ、バレエが行われるマリインスキー沿海州劇場へ。
入口には、大きなクリスマスツリー。
ツリーの写真を撮っていると、韓国人の女の子に声をかけられた。
「Can you take my photo,please ?」
せっかくなので、お互いに写真を撮りあって、わたしはカフェへと移動した。
カフェでくるみ割り人形を読みながらコーヒーを飲んでいると、先ほどの彼女がロシア人に相席を求められて困惑しているのが見えた。4人席に一人で座っていたわたしは彼女に声をかけ、わたしたちが相席することになった。
お互い英語が苦手で、Google翻訳にお世話になりながらコミュニケーションをとる。文明の力、なんて素晴らしいの。
お互い一人旅であること、この公演に合わせて訪露したことなどを話す。
わたしは小学校時代に韓国語を、彼女は高校時代に日本語を、お互いほんのちょぴっとずつかじっていたこともあり、なんだか親近感が湧いてくる。
幕間の休憩でまた落ち合うことを約束して、ホールへと向かった。
お気に入りのドレスにパンプス。旅先とはいえども、わたしたち観客も舞台の雰囲気を彩る。今日の公演のために日々レッスンに励むバレリーナたちへの敬意を込めて正装で臨む。わたしもバレエをやっていた頃は、周りがおしゃれをして舞台を見にきてくれることがとてもとても嬉しかったから。
こんな素敵なホールのど真ん中、ちょっと後ろだから舞台全体が見渡せる。こんな特等席が約3000円。交通費はかかるものの、本物のロシアバレエが観られると考えればとてもお得。
「くるみ割り人形」って、第二幕は明るくて楽しいのに、第一幕ってなんとなく暗いよなぁ……なんて思っていた。ディズニーで実写化されたときも、ほぼほぼ第二幕の部分だけで構成されていたし。
でも、原作を読んできたからこそ第一幕の重要さが分かる。ダンサーたちも第一幕は緊迫した雰囲気の中ひとつひとつの振り付けを丁寧に踊っていた。あまりにも厳かで、何度も息を飲んだ。
やっぱり、マリーとクララ、そしてくるみ割り人形の3人のダンサーは、ステップの着地が全然違う。軽やか。体が柔らかいとか技術的にどうこうとかじゃなくて、とにかく着地が軽やかで。圧倒的なオーラがあった。
このまま時が止まればいいのに。
そう願わざるを負えなかったけれど、体感にして10分くらいで約2時間半の公演が終了した。
幕間の休憩で、タクシーを乗り合わせてホテルに帰ろうと約束していた先ほどの韓国人の彼女と、ロビーで合流。
お互い舞台の余韻に浸りたくて、そのままバーへ。
舞台の余韻に浸りたいというのはただの口実で、本当はこの出会いを偶然で終わらせたくなかったのかもしれない。異国ロシアは極東ウラジオストクの片隅であったこの出会いに「運命」というラベルを付けたくなってしまったのだ。
日本人と韓国人、音のない世界と音の世界、住んでいる場所も文化も違うわたしたちが、職場と家の往復だけの日常で交わることなんであるだろうか。
普段はそんなにお酒を飲まないわたしも、ワインショップで働いているという彼女とはどうしても一緒に酔いたくなってしまったのだ。2人でウォッカの入ったカクテルを飲みつつ他愛のない話をする。いつロシアに来たのか、よかったお店のこと、泊まっている部屋のこと。
深い話ができるほどお互いの言語も知らなければ、英語力もない。
Google翻訳があるといえども、自分の言葉ではないから心許ない。
それでもまだ一緒にいたいと、二杯目を注文し、途切れ途切れに言葉を交わしながら同じ空間にいることを楽しんだ。
Have a sweet dream
一人旅で、誰かと心からこんな言葉を交わせるなんて。
程よい疲労感と凍りついた歩道なんてお構いなしに、ふわふわとちょっぴりスキップなんてしながらホテルへと戻った。