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イスラエルで「ワクチンに効果無し」という誤解が生まれた理由

 最近イスラエルで「ワクチンは効果無い」という噂がひろまっていたようで、データ分析の専門家の人が「数値の見方間違ってますよ」という内容をブログの記事にされていました。 

 いくつか日本語の詳しい解説が出ていますが、統計学の知識を前提としたものが多いので、今回は統計を使わない方向けにストーリー仕立てで、要点を説明してみたいと思います。

以下のストーリは要点説明のためのフィクションです。出てくる数値は実際の新型コロナのものとは異なりますのでご注意ください。

ワクチン接種した人の方が重症化しやすい? 〜数だけ比べちゃだめ〜

先輩「高齢層へのワクチン接種始まりましたね。今日はその効果を検証してみたいと思います。データ準備していただけましたか?」

新人「はい。。。でも、あんまりいい結果じゃないですよ」

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新人「重症者のうちワクチン接種者990人未接種者100人。残念ながらワクチン接種者の方のほうが重症者多いです。。。」

先輩「うーん、残念、これではワクチンの効果は判断出来ません。」

新人「えっ?どうしててすか?」

先輩「さっきの数に、調査対象の高齢者の接種状況を加えてみましょう。」

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先輩「今回100万人の高齢者の方を調査していて、そのうち99万人がワクチン接種済み、未接種は1万人しかいません。」

新人「あら、今回調査した方はほとんどがワクチン接種済みで、未接種の方はわずか1%だったんですね。すみません、見落としてました。。。」

先輩「はい、もう分かりましたね。そもそもの数が大きく違うので、単純に人数比較をしては駄目です、重症化の割合で比べてみて下さい。」

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新人「ワクチン接種者重症化率0.1%未接種者重症化率1.0%、ワクチン接種で重症化率が1/10に下がってます。」

先輩「はい、その通り」

新人「重症者数だけみて『あ、効いてない』と思い込んでしまってました。以後気をつけます。。。」

先輩「はい、次回はしっかり分析お願いしますね」

今回は新人さんのうっかりミス。まあ、初回だから許してあげましょう。
二回目は汚名挽回なるでしょうか?

ワクチン接種した人の方が重症化しやすい? 〜とても不思議なシンプソンのパラドックス〜

先輩「おひさしぶりです。その後ワクチン接種は順調に進み、若者への接種も始まりました。このあたりで再度効果を検証してみたいと思います。データ準備していただけましたか?」

新人「はい。。。でもあまりいい結果じゃないですよ」

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先輩「おや、またですか?」

新人「前回の反省を踏まえ、今回は重症化率で比較しています。接種者の重症化率が0.10%未接種者の重症化率は0.02%です。ワクチンの効果無し、というか接種者の方が重症化してます。。」

先輩「うーん、再び、残念、これではワクチンの効果は判断出来ません。」

新人「え!どうしてですか?今回は疑問挟む余地ないように思えますが。。。」

先輩「さっきの表をさらに年齢層別に分解してみましょう、どうです?」

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新人「接種者のほとんどが高齢層、若年層の接種者はまだ少ないですね。重症化しやすい高齢者優先で接種進めていたので、これは想定の範囲内です。」

先輩「それだけですか?よくみてください」

新人「ん?他になにか?」

先輩「高齢層、若年層に分けてワクチンの有効性を比較してみてください。」

新人「ん、全体で効果無しと分かってるんだから、そんなことしても意味無いんじゃ??」

先輩「そうでしょうか?論より証拠、まずは高齢層をみてください」

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新人「ワクチン接種者の重症化率は0.100%ワクチン未接種者1.000%、あ!?高齢層ではワクチン効果でてますね。」

先輩「続いて若年層もみてください」

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新人「ワクチン接種者の重症化率は0.001%ワクチン未接種者0.010%、あ!!!若年層でもワクチン効果でてますね。」

先輩「はい、高齢層、若年層ともワクチン効果でてますね」

新人「全体でみるとワクチンの効果は無いようにみえるのに、高齢層、若年層に分けると効果があるように見える。。。不思議。。。」

先輩「今回の調査では、ワクチン接種者のほとんどが重症化しやすい高齢者で、ワクチン未接種者のほとんどが重症化しにくい若年層という構成になっています。こういうケースでは、全体でみると効果が無いようにみえてしまうけど、層別に分解してみると結果が反対になる場合があります。」

新人「それは知りませんでした。なるほど。。。」

先輩「こちら、統計の世界ではシンプソンのパラドックスとよばれている有名な現象です。」

イスラエルで誤解を生んだのがまさにこの状況でした。全年齢層の合計でみるとワクチンに効果が無いようにみえるので「効果無し」と誤解されてたのですが、統計の専門家が「年齢別に分けてみてごらんなさい、効果でてますよ」とブログで訴えたのでした。

参考書籍

 どちらも骨太な本ですが、統計的因果推論を詳しく知りたい方にはお勧めです。



Photo by Daniel Schludi on Unsplash

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