コロナを語ってなぜすれ違うのか？ 〜新型コロナと自動車事故を同列に語ってはいけない理由〜
令和の時代に突如現れた新型コロナという新たな厄災、この厄災に対して私たちは苦戦を強いられています。
この苦戦の大きな原因の一つが、新型コロナという厄災の特異性にあると筆者は考えます。
この厄災、私たちが過去に経験し、乗り越えてきた課題とは、大きく異なる特性を持っています。そのため、私たちの過去の経験に基づく知識が役立たない、むしろ足かせになる場合が多々あるのです。
人間は未知のものに遭遇した際に、過去の経験を使って直感的にその特徴を推測し対応する性質があります。大概の場合この直感はうまく機能します。
しかし、時として過去の経験に基づく直感が、悪い方向に働く場合もあります。コロナ禍で発生しているのがこの状況です。従来の課題と全く異なる特性を持つ新型コロナに対して、過去の経験を不適切にあてはめてしまい、思い込み、誤解が生じているのです。
この思い込み、誤解は議論のすれ違いを生じさせ、建設的な議論に基づく対応を妨げてしまいます。今日はその一例である｢新型コロナと自動車事故｣について記してみたいと思います。
新型コロナと自動車事故を同列に論じる人たち
コロナ禍以降、こんな意見を耳にするようになりました。
｢新型コロナを恐れて行動変容が必要というなら、自動車事故対策で運転を禁止すべきだ、だって犠牲者数は同じくらいなんだから｣
たしかに、年間の自動車事故の死者数が3000人であるのに対して、新型コロナによる死者は昨年末時点で3000人、危険性は同じようにみえます。
しかし、これは新型コロナに対する誤解の典型例です。
新型コロナは自動車事故とは全く異なる特性を持っています。これを同列で語ることは、明らかな誤りなのです。ここからその違いをみていきます。
放置するとどうなるか？ 〜自動車事故の場合〜
ある地域で一日に100件の自動車事故が発生しているとします。対策せず放置した場合、一月後はどんな状況になっているでしょうか？
多くの人が直感的にこう考えるのではないでしょうか？
｢何もしないんだから一月後も今と同じ一日100件前後の交通事故が発生するだろう｣
自動車事故の場合、この直感に従うのは妥当です。
放置するとどうなるか？ 〜新型コロナの場合〜
ある地域で一日に100名の新型コロナ患者が発生していとします。対策せず放置した場合、一月後はどんな状況になっているでしょうか？
こちらも直感的にこう考える方がいらっしゃるかもしれません。
｢何もしないんだから一月後も今と同じ一日100名前後の新規コロナ患者が発生するだろう｣
しかし新型コロナの場合、この直感に従うのは完全な誤りです。
新型コロナに限らず感染症は、放置しておいても新規感染者数が大きく変わるという性質を持っています。一日の感染者100名を放置しておくと一月後には1000人を超える可能性も十分あり得ますし、10名になっている可能性も十分あり得ます。
コロナの場合、自動車事故と違い、現時点の発生件数だけをもとに将来を予測することは出来ないのです。
増加スピード 〜自動車事故の場合〜
自動車事故の場合、交通量増加、運転マナー低下など、要因の変化に伴い、発生件数が増加する可能性があります。しかしその増加は多くても年間数十パーセント程度でしょう。
どんな要因の変化があっても、一年で10倍、20倍になるようなことは現実的にあり得ないと判断するのは妥当です。
増加スピード 〜新型コロナの場合〜
新型コロナのような感染症は、増加する状態で放置しておくと、発生件数はどんどん増えていくという性質を持っています。このねずみ算（指数的）とよばれる急激な増え方は、多くの人間の直感を大きく上回るスピードとなります。
コロナの場合、一ヶ月後の新規感染者が10倍という状況も十分発生する可能性があります。これをそもそもあり得ない推測と判断するのは完全な誤りです。
新型コロナは自動車事故に似ていない、火事に似ている
ここまで自動車事故と大きく異なる、新型コロナの2つの特徴について説明しました。
(1) 放置しても状況が変化する
(2) 増加する状態で放置しておくと、ねずみ算的（指数的）に拡大していく
私たちが知っている災難で、この特徴を持っているのが火事です。ぼやの状況を放置しておくと瞬く間に燃え広がってしまう火事の動きは感染症の広がり方と非常によく似ています。
コロナの現時点の感染者数だけをみて ｢数が少ないから対応は不要｣と判断してしまうのは、火事の状況をみて｢ぼやで少ししか燃えてないからほっといて大丈夫｣と判断するのと同じくらい的外れなのです。
次回予告
ここまでお話しをすると、こんな疑問がわいてくると思います。
本当に新型コロナはこんな特徴を持っているのか、机上の空論では？
今の感染者数だけで判断出来ないなら、どうやって予測すればいいのか？
次回はこの疑問へのお答えを記したいと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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