広瀬和生の「この落語を観た!」Vol.168
4月13日(土)
「芸歴40周年記念興行 立川談春独演会(昼の部)」
@有楽町朝日ホール
4月13日(土)昼の演目はこちら
立川談春『子ほめ』
立川談春『除夜の雪』
~仲入り~
立川談春『百年目』
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放送作家の永滝五郎氏が書いた「通夜経」という長い原作を桂米朝が再構築し、独自のサゲも創作して20分程度の新作落語にブラッシュアップした『除夜の雪』。談春は2006年の「談春七夜」でネタおろしするため米朝にこの噺を教わった。
談春は「御寮さんが首を吊った」と寺に伝えに来る伏見屋の遣いの台詞を膨らませ、嫁いびりに耐え兼ねて自殺した若女将に向かって無慈悲にも悪口雑言をぶつける大女将と、それを見て怒りを燃やす奉公人、母が死んだことを知らず乳を求める赤子の様子が涙を誘ったことなどを語って聞かせ、“談春の演目”としての奥行きを与えている。
こうした噺で観客をここまで引き込む技量の持ち主は、少なくとも東京では談春だけだろう。
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二席目の『百年目』も米朝十八番なのは意図的なものかどうか。東京で高座に掛ける演者も多く、今年は落語協会創設百年を記念して『百年目』を聞かせる企画が寄席で行なわれてもおり、「桜の季節に演じる大ネタ」としてこの時期にネタ出ししたのはある意味当然かもしれない。
『百年目』を談春がネタおろししたのは2007年に紀伊國屋ホールで行なわれた「第2回黒談春」。その後しばらくお蔵入りさせていたこの噺に大きく手を加えて“談春の演出”を前面に押し出したのが2015年の三十周年記念落語会ツアー「百年目の会」で、それ以来『百年目』は談春ならではの大ネタ人情噺のひとつとして節目、節目に演じられている。
「これが百年目と思いました」をサゲの台詞とせず、そこから栴檀と南縁草の逸話に入って治兵衛の小僧時代の思い出話へと続ける今のやり方も、その時からだったと思う。
そして、このラストシーンでの旦那の台詞が実に素晴らしい。不器用で何をやってもダメな小僧だった治兵衛の「肩を揉むのが巧かった」という一点で素質を見抜いた旦那が、昔を思い出して肩を揉ませながら「年が明けたら暖簾分けする」と約束する。万感の想いを込めて「32年か……治兵衛! 長かったな」と肩越しに語りかける旦那、名前を呼び捨てにされたことが嬉しいとボロボロ涙を流す番頭。栴檀と南縁草に掛けたオリジナルのサゲも、この主従に相応しい。“人を育てる”ということについて深く考えさせる、談春にしかできない聴き応え満点の逸品だ。