広瀬和生の「この落語を観た!」vol.40
8月9日(火)
「蝶花楼桃花ファースト独演会“FLY HIGH~桃色の花を”」@なかの芸能小劇場
広瀬和生「この落語を観た!」
8月9日(火)夜の演目はこちら。
春風亭てるちゃん『元犬』
蝶花楼桃花『辰巳の辻占』
三遊亭圓歌『母ちゃんのアンカ』
~仲入り~
蝶花楼桃花『表彰状』
蝶花楼桃花『お見立て』
この春に真打昇進した蝶花楼桃花が「披露目の口上に並んでくれた師匠」をゲストに招いて4回行なう独演会シリーズの第1回。圓歌は口上で毎回「彼女の『お見立て』に感銘を受けた」と話していた。今回、桃花がトリネタで『お見立て』を演じたのは、それ故だろう。
桃花の一席目『辰巳の辻占』は師匠・春風亭小朝の得意ネタ。桃花の『お見立て』は喜瀬川花魁の描き方の見事さが大きな魅力だが、この『辰巳の辻占』も辰巳(深川の岡場所)の女おたまの“色気のあるしたたかさ”が際立つ。甘えた声と拗ねた声、冷めた口調、キツい言い方などの声色の使い分けが、桃花は実に巧い。
間抜けな泥棒が偶然お婆さんの命を助けて表彰されることになり、「そんなことして有名になったら泥棒稼業でやっていけないから、表彰されないよう、人命救助を帳消しにする悪事を働け」と兄貴分に言われてあれこれ試みるが、ことごとく裏目に出てしまう『表彰状』。落語作家・大野桂が昭和30年代に書いた新作落語だが、桃花が演じると古臭さを感じさせない。桃花だからこそ楽しく聴ける一席。
桃花の『お見立て』は喜瀬川花魁の“したたかで色気があってワガママ”という個性を見事に表現する逸品。自分が杢兵衛に恋焦がれて死んだという言い訳を喜助に授ける演技の楽しさは桃花ならでは。喜瀬川も見事だが、喜助の“若い衆らしさ”も特筆モノ。杢兵衛お大尽の田舎者っぷりは桃花だからこそ漂う愛嬌に味がある。二ツ目のぴっかり☆時代の『お見立て』を観て「このネタは真打昇進後の武器になるだろう」と書いたが(『落語の目利き』)、事実そうなっている。
7月の下席で早くも浅草演芸ホールで主任を務めた桃花。真打昇進と共にロケットスタートを切ったと言えるだろう。この日の独演会でもそんな桃花の勢いを充分に感じた。
次回の広瀬和生「この落語を観た!」もお楽しみに!
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