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#23 Out of Blue/岡村靖幸

 高校1年と3年の時のクラスメイトにHくんがいる。プリンス好きで【パープル・レイン】を理解するきっかけをくれた尊敬する友人である。体が大きく体重も100kg以上あり、クラスのみならず学年を代表する有名人。その人柄で誰からも愛され、人格者でもあった。
 多様なジャンルの音楽に詳しく、それもそのはず確か、ご実家は貸しレコード店を経営されていたはずだ。サザンも達郎もR&Bもとにかく何でも詳しかった。

 88年の岡村ちゃんは凄まじかった。「SUPER GIRL」が出て、「聖書(バイブル)」が出て、「だいすき」がスマッシュヒット。渡辺美里のソングライターとしてその名を知ってから、2年が経ち時代の寵児にふさわしい活躍を始めていた。当時のエピック勢は、美里、大江千里、松岡英明、安藤秀樹、バービー・ボーイズ、ストリート・スライダース、TMネットワーク、そしてもちろん佐野元春。FMフレンドリーなヤング向けロックレーベルとしてわが世の春を謳歌していた。「聖書(バイブル)」にやられた私は、既発の2枚のアルバムを買うかどうか迷っていた。Hくんと岡村ちゃんの話になり、1st【yellow】2nd【DATE】を持っているので、カセットに入れてくれるという。願ってもない話だ。

 その日から私の岡村ちゃんライフが始まった。【yellow】の「冷たくされても」「Water Bed」「RAIN」などには、プリンスの影響や岡村ちゃんに宿るファンクネスが垣間見える。【DATE】の「生徒会長」「Lion Heart」「うちあわせ」、そして「イケナイコトカイ」。何回PLAYしたかわからないほど聴き続けた。美里に書いていたポップで弾ける感覚よりも、サウンドは身体的で、そこに内省的リリックが乗るファンクロックが実に新鮮に響いたのだった。

 デビューシングルの「アウト・オブ・ブルー」は、中高生ならだれもが通過しなければならないロックである。中2の時に買った安物のアコギでカッティングのコードを探す。岡村ちゃんのセミアコの音色を真似ようとするが到底再現はできない。彼の代名詞ともいえるアコギカッティングが終始、楽曲を支配し青春の焦燥感を醸し出す。今でいうひきこもりや生きづらさを抱える若者たちへのエールにも聞こえる。多様な事情により、殻の中でもがくしかない人たち、人の声がナイフに聞こえる人たち、どうしても自分を好きになれない人たち、そんな私たちへの肯定が「アウト・オブ・ブルー」である。

 ライブの熱狂を思い出す。あのヘンテコなダンスと、言いたくもないのに言わらさるコール&レスポンス。そして、アンコールの「アウト・オブ・ブルー」のアコギカッティング。
 このカセットは今でも宝物だ。強い筆圧のボールペンで曲名が記載されたカセットレーベル。Hくんの文字を思い出す。今でもたまにLINEをするが、相変わらず音楽の話ばかりだ。
 
ラジオ局で働くようになり、サードアルバム【靖幸】をいち早く試聴する幸運に恵まれた。どこまでもピンクが基調のファンシーなジャケット、♡型をくり抜いた特製CDケースだった。そこに、当時最先端だったレタリングの靖幸ロゴ。「聖書(バイブル)」が別バージョンだったのは残念だったけれど、こちらも名曲揃い。聞きたくなってきた。次の岡村ちゃんは「ラブ・タンバリン」だな。

★番組情報:レコードアワー
放送時間:毎週月曜 8:00~9:00
再放送情報は三角山放送局HPのタイムテーブルをご確認ください

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