見出し画像

#25 ルール・ザ・ワールド/ティアーズ・フォー・フィアーズ

 85年は購入するLPに悩んだ年だった。中3である。潤沢に円盤を買えるはずもなく、新譜というよりもいわゆる名盤に食指を動かし始めていた。

 エアチェック小僧が、なまじロックの歴史を知るようになると、単純に欲しいカタログの絶対数が増えていく。ナウヒッツの新譜も欲しくなるし、名盤の旧譜も聞きたい欲求に襲われる。ルーズリーフにウォンツリストを列記しながら、まだ見ぬ未開の音楽体験に思いを馳せていく。ただし、その時代はロックの名盤、名曲を流してくれる番組も数多くあったので、FM番組表はマーキングで埋め尽くされた。エアチェック音源を楽しむと同時並行で、興味関心も増えていく。
 
85年は「ウィ・アー・ザ・ワールド」の4週1位があったものの、年間で27曲もの1位曲が記録された。そのうち10曲が1週天下。翌86年にはさらに増え、31曲の1位曲のうち、16曲が1週天下となる。チャートマニアにはロングヒットが少ないという意味で、印象に残る85年と86年である。

 この曲も石田豊さんの「リクエスト・コーナー」が最初だったかもしれぬ。あまりにも大好きすぎて、毎週チャートを駆けあがっていくのを楽しみにしていた。1位になった時には快哉をあげて喜んだ。夜ヒットにも出て、リップシンクではなく、ちゃんと歌っていたような記憶がある。それまでまったく知らないバンドだったティアーズ・フォー・フィアーズ。

 MTVで死ぬほど流れたビデオも大好きだった。殺伐とした砂漠の風景はメキシコ国境近辺のように見える。子どもが家を飛び出し遊んでいる。クルマが近づいてきて、通りすぎていく。リゾートソングなのか、という軽やかでビーチサイドなイントロがイン。緩やかでシンプルなミディアムリズムに身をゆだねる。上から下に下降するメロディが繰り返される心地よさ。シンプルに心地よい。中盤で、さざ波のようにたゆたうギターソロ。まるで、天界のキレイなお姉さんたちに、大きな団扇であおいでもらっているかのような多幸感。こんな曲はなかなかないのではないか。

 チマタでは車のCMソング「シャウト」が凄い勢いで流れ始めていた。もちろん連続No.1となるわけだが、私はダンゼン「ルール・ザ・ワールド」だった。その後も後期ビートルズの匂いを残す「シーズ・オブ・ラヴ」の大ヒットを得るが、お互いの私生活でのトラブルもあり、ローランド・オルザバルとカート・スミスは袂を分かつ。ローランドが屋号を継ぎ、カートはソロ活動へ。

 しかし、2000年代にはいり二人は再結集する。長いバンドの歴史ではよくあることだ。映画「フォレスト・ガンプ」でジェニー役を演じた俳優ロビン・ライトの長編初監督作品「Land再生の地」で「ルール・ザ・ワールド」が使用され、2021年ビルボードのオルタナティブ・デジタルソングチャートで1位となる。

 これで外堀も二人の溝も埋まった。2022年、17年ぶりのアルバム「ティッピング・ポイント」がリリースされアメリカ・イギリスともにトップ10ヒットとなる。タイトル曲の幽玄さはお得意のミディアムソウルだし、80年代を彷彿とさせるポップな「ブレイク・ザ・マン」は現役感バツグン。まさに感動的なアルバムだった。二人の転換点=ティッピング・ポイントでもありファンにとっても大切な歴史の集大成となった。

★番組情報:レコードアワー
放送時間:毎週月曜 8:00~9:00
再放送情報は三角山放送局HPのタイムテーブルをご確認ください

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?