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#20 ビートに抱かれて/プリンス&ザ・レヴォリューション

日曜日の夕方6時といえば、多くの世代には「ちびまる子ちゃん」となるのだろうが、私にとっては、NHK「レッツゴーヤング」もしくは滝田栄の「料理バンザイ!」である。

雪印の1社提供の料理番組で、毎回多彩なゲストが自慢の手料理をふるまうのだ。星野知子さんとコンビを組んでいた頃が最も印象に残っている。お店紹介の≪たまに行くならこんな店≫も好きだった。料理天国でいうと≪味は道づれ≫の位置づけである。行ったこともない店の食べたこともない料理を見ながら、うらやましがるだけの妄想の時間である。

その大好きな料理バンザイ!を見ながら、私の人差し指はラジカセのPAUSEボタンの上で解除の合図を待っている。石田豊のNHK-FM「リクエストコーナー」である。テーマ曲はのちにビリー・ヴォーン楽団の「真珠貝の唄」ということがわかる。

この番組の特徴はビルボードの90位台、80位台前後からピックアップ曲を流していき、40位台、30位台までで番組は終わる。要するにこれから大ヒットする曲をチャートイン段階で聴くことができるのである。オンエア曲はもれなくしっかりエアチェック。

ある時、プリンスが流れた。57位に初登場した時か、その後のチャート上昇時だったかはさずがに憶えていない。82年の【1999】収録の「デリリアス」「リトル・レッド・コルベット」はよく聞いていた。ヘンな曲を作る人として認識していたのだ。

他の誰とも似ていないので、唯一無二のアーティストという印象だった。主演映画のサントラからのカットだという。邦題がイカしていた。「ビートに抱かれて」、原題“When Doves Cry”、ハトが鳴くとき。

最初に聞いた時、これはいっても20位台止まりかなと思った。まったく、ピンとこなかったのだ。頭のギターはカッコいいが、メロがほぼないに等しい。母親に聞かせたらお経と評したかもしれぬ。サビはどこなのだ?私がこの曲にハマらぬまま、「ビートに抱かれて」はチャートを駆けあがり、チャート1位に5週も居座ってしまう。そして「レッツ・ゴー・クレイジー」も連続№1。【パープル・レイン】は84年を代表するアルバムとなった。

でも、ハマっていないのでLPを買うことはなかった。その後、私が尊敬する音楽愛好家で、高校の同級生Hくんからカセットをもらい、むさぼるように聞いた。全曲が一つの世界を構築していた。1曲1曲が粒だって儚く美しい。この人もやはりファンクだったんだな。腑に落ちた。やっと【パープル・レイン】がわかった頃、プリンスは【パレード】をリリースしていた。

遅ればせながら、アルバム【パープル・レイン】は札幌に来てからワーナーの輸入CDで買うこととなる。映画もしっかり拝見し、彼の苦悩を目の当たりにするのだ。映画のテーマは〈親との和解〉であり〈相互理解〉である。主題は「理由なき反抗」に近い。今は確信して言える。「ビートに抱かれて」は世紀の名曲であると。

ワンコードで押し通す。どう聞いてもファンクなのだ。ベースレスでリンドラムが鳴り響くなか、ホーミーのような彼のうめき声が聞こえる。不安定な精神状態のメタファーかもしれない。ミニマムなのに複雑。プリンスの苦しみを理解するには、当時の私は残念ながらまだ若かった。

★番組情報:レコードアワー
放送時間:毎週月曜 8:00~9:00
再放送情報は三角山放送局HPのタイムテーブルをご確認ください

★【リクエスト募集中】8月25日(日)放送 ベストプレイリスト第36弾「映画音楽 この1曲」


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