#9 21世紀の精神異常者/キング・クリムゾン
中2か中3だったはずである。洋楽で買ったLPの最初の10枚に【クリムゾン・キングの宮殿】があった。
FM誌での特集で出会ったような記憶がある。ちょうどイエスの「ロンリー・ハート」が全米1位になり、イエスはもともとプログレッシブ・ロックバンドであることを知る。
「ロンリー・ハート」はまったく好きではなかったが、イエス効果やエイジアの活躍もありプログレの特集が組まれていたのかもしれない。兄がビートルズを聴いていたので、【アビー・ロード】を蹴落として1位になったアルバムという常套句も、無知なロック小僧には絶大なPR効果だった。
そもそも、プログレはそれほどラジオで頻繁にかかるものではない。曲が長い、片面まるまる1曲だったりする。キング・クリムゾンが80年代にラジオでかかっていた記憶もない。しかし、ロックの名盤だという。ジャケットの気持ち悪さも購入意欲に拍車をかけた。
聴きたくて、聴きたくてしかたがない。なかば修行僧の趣で入手を決意する。実物ジャケはさらに迫力があった。中開きの豪華な仕様である。イラストにもコンセプトやストーリーがあり、トータルアート作品になっていると気づくのはもう少し経ってからだ。
A-1、アノ曲が五臓六腑を震撼させる。タイトルは「21世紀の精神異常者」。大丈夫なのか、このタイトル。何かに襲われるような恐怖とゾクゾクする期待、いったい何が始まろうとしているのか。そこに、グレッグ・レイクのエフェクトボイスがさく裂する。この人はEL&PのLの人であり、のちにエイジアに加わる人。ここにもいたのかレイクさん。しっかし、ヤバイものを買ってしまった。これは聴いてよいモノなのだろうか。逮捕されないのか、前科はつかないのか、少年院に入れられないのか。根拠のない背徳感にさいなまれつつ、針を上げることはできなかった。
怒涛のA-1が終わると、アルバムは一転、凪になる。「風に語りて」がすべてを洗い流しリセットしてくれる。「エピタフ」「ムーンチャイルド」ラストの「宮殿」の大円団まで、よくできたアルバムだった。
いまやこの曲の日本語タイトルは「21世紀のスキッツォイドマン」に改題されている。いやダメだ。このタイトルでは本質を言い表せていない。もちろん特定の疾患の方々を傷つけてはいけない。しかし、これはただの言葉狩りである。むしろ、作品の芸術性や文化的価値、発売当時の社会通念性を認めるのならば、改題するほうが失礼で無用な忖度ではなかろうか。
高校生のころのお正月、親戚が集まり幼児だったいとこの相手をしていた。レコードを引っ張り出していて、こともあろうに【宮殿】のジャケットを抜いてしまう。一瞬の間があってウワーッと泣き出してしまった。彼にとっては初めてのロック体験だったかもしれない。キング・クリムゾンは、聴かせずとも子どもにロックを教えてくれた。