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【イベントレポ】 WOW | 「Polymorphism of Information―情報の多態性」
3月18日(月)から3月22日(金)にTHE CAMPUS(コクヨ東京品川オフィス)にて開催されたWOWによる「Polymorphism of Information―情報の多態性」へ。今回のイベントに足を運んだ理由は、以下の2つ。
1)昨年、前橋市で開催された現代アートのイベント「New Horizon―歴史から未来へ」で初めてWOWの作品を鑑賞し、WOWというクリエイティブ集団に興味をもち、より知りたいと思った。
2)以前、データのビジュアライズについて、関心を持ち、自身で3DCGでの作品を制作したことがあり、WOWのデータビジュアライズの考え方、取り組み方に興味を持ち、知りたいと思った。
以前、制作したデータのビジュアライズ作品は、仮想通貨のチャートを3DCGで表現したもの。ただ、立体化することにより何か見えないものが見えてくることがあるかと言えば、そういったこともなかった。
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今回の展示では、WOWのデータデザインプロジェクト「InForms(インフォームズ)」から生まれた作品群が紹介されている。
InFormsにおけるWOWのデータビジュアライズの考え方、取り組み方については、こちらのInFormsプロジェクトで公開されているレポートで明確に説明されている。この内容はデータビジュアライズの一つの考え方にとても参考になった。
InfoTexture
InFormsにおけるデザインコンセプトInfoTextureは、テータが現実世界で持っていた「質感」を、データ可視化の要素に取り込む。
分布や変化、差異を伝えるデータの基本的な機能は残しながら、文脈や背景、現実世界での物質性といった質的な情報も織り交ぜ、量的・質的な観点を1つの造形の中に捉えるデータ可視化手法である。
レアメタルの産出量データをもとに制作したCGのビジュアルを用いて、InfoTextureが生み出す「質感」と印刷技法を組み合わせ、映像の中に閉じない表現を探索した。
レンチキュラー印刷は視点移動というシンプルなインタラクションによって、ビジュアルとデータの関係性を浮き立たせる。
これは、美しさが人々の関心や記憶に作用し、その先に思考・解釈があるという、InFormsが考える視覚表現の多層性を、1つのポスターの中で提示している。
また、2.5D印刷技術によって質感の美しさを強化した絵画的な作品も制作。
アートピースとして空間の中で存在感を高めるデータの形態を表現した。
記号化されたアータに3DCGが「質感」を付与し、それがび物理空間の中に実在化するという、「デコード」のプロセスを通じて、データを「感じる」ためのデザインを提案している。
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レアメタルの国ごとの産出量データをもとにCGで表現。ビジュアルが素晴らしいのはもちろんのこと、それよりも、ここで紹介された「マンガン」「タンタル」「タングステン」「コバルト」の4つのレアメタルの産出国が中国やコンゴなど特定の国に圧倒的な偏りがあることに驚いた。また、それによって、紛争をはじめとする外交・政治・国際問題が発生していることも初めて知った。詳細については、このレポートで詳しく説明されている。
4つのレアメタルの産出データを表現したその鉱石は、会場内の巨大なモニターにも美しく投影されていた。あまりにも綺麗に演出されたデータビジュアライズは、そのベースがデータであることを忘れさせてしまうが、と同時に強い印象として記憶に刻み込まれるようにも感じる。
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Info Sculpture x Furniture Design
InFormsにおけるデザインコンセプト "InfoSculpture”は、データを「造形要素」と捉えて、グラフ形状や座標軸における形状操作から意図を排除し、純粋な「造形」のプロセスに転換する。
造形的な視点でデータの見え方を拡張することで、鑑賞者の創造性を湧き立たせ、多面的な視点を与えることを目的とするデータ可視化手法である。
映像作品では、世界人口のデータをもとに、Pyramid/Shell/Brick/Furという4つの造形を3DCG上で制作した。
本展示ではさらに、InfoSculptureが持つ形状の多彩さを生かして、それらの造形を「家具」という形で実体化させるデザインを提案。
サーバー上のデータは能動的に見ないと忘れ去られるが、家具として擬態することで生活空間に「浸透」し、人との「距離感」が近くなる。
多彩な造形で空間を飾りながら、記録として空間に残り続けるデータデザインを試みた。
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世界の人口統計のこれまでの推移や予測のチャートをベースに、立体化する試み。物理的なものとして、ランプシェードが展示されていた。ただ、説明がなければ、単なるミッドセンチュリーの家具のように見えて、それが人口を表すものであることはわからない。
Interactive InForms
InfoTexutre /InfoSculptureの映像作品で制作した造形を、インタラクティプに操作しながら自由な視点で鑑賞することができるアプリを制作。
映像、ひいてはプリレンダリングCGというタイムラインが固定化されたメディアは、ビジュアルやストーリーを感じさせ、鮮烈な視覚表現で記憶に強く残すことができる一方、細部まで深く理解することが難しいという課題が、制作を通して見えてきた。
鑑賞者各々の視点や関心を起点に、データとビジュアルの関係性を紐解きながら、ビジュアルからデータを「感じる」体験と、細部を「理解する」体験が相互に絡み合う、InFormsが提示する情報コミュニケーションに触れていただきたい。
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InfoTexutre /InfoSculptureのCGを年代や国などのパラメータを、タッチパネルのUIから選択し、操作することでリアルタイムにレンダリングされた画像が表示される。レスポンスのよい優れたUIは、造形化されたデータにストレスなく接することができ、ただ平面で表示されたグラフとは異なる創造的なインスピレーションを与えてくれる。
記憶に刻まれる
現代アートでは、社会問題や政治的問題に対する問題提起の手段と使われてきた。したがって、自分は今回の展示は現代アート作品として捉えた。
InFormでの洗練されたビジュアルの作品は、美しいのはもちろんのこと、結果的に、自分が知らなかったレアメタルの産出国に偏りがある現実を知り、自身の知識や記憶として刻み込む手助けになった。今後、日常生活でレアメタルに関するニュースに擦れた場合、今回の展示を思い出すのは、間違いないだろう。ひょっとすると、ビジュアルの良さでなくても、データを強烈な体験ととともに提供することでも、問題を認識させ強く記憶に残すことができるかもしれない。