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白井屋ホテルの歴史をアートで感じる
この記事は、2023年10月時点の情報をもとに作成している
白井屋ホテル
白井屋ホテルは、群馬県前橋市にあるホテル。江戸時代に創業し、約300年の歴史を誇った白井屋旅館の跡地に建てられた。改築後、2020年12月12日にホテルとして開業した。
白井屋ホテルは、建築家の藤本壮介さんが設計し、世界的なアーティストの作品が館内に飾られている。25室の客室には、それぞれ異なる作家の個性豊かなアート作品が展示されている。また、部屋自体がアーティストの作品となっているスペシャルルームが4部屋ある。
白井屋ホテル自体が作品であると思う。JINSの田中仁さん(田中仁財団代表理事。前橋市出身)が白井屋を購入し、藤本壮介さんの設計で「再構築」されている。詳しい開発のコンセプトや経緯については、公式サイトに説明があるのでそちらも読んでいただきたい。
このホテルについては、以前耳にし存在は知っていた。いつか訪れてみたい、できれば宿泊してみたいと思っていた。
アーツ前橋
前橋には、アーツ前橋という公共美術館がある。2013年にオープンし、前橋における現代美術の発信拠点となっている。2023年に開館10周年を迎え、その記念展の「New Horizon―歴史から未来へ」が開催された(会期:2023年10月14日[土]-2024年2月12日[月・祝])。
アーツ前橋にはいつか訪れたいと思っていた。この記念展には、気になるアーティストの作品が展示されていることもあり、時間を作って訪れることにした。
白井屋ホテルに宿泊
幸運なことに、訪れた日はアーツ前橋の開館記念日で、入場料は無料。前橋には、アート目的で訪れる人なら誰でも知っているであろう「白井屋ホテル」がある。どうせなら、このホテルにも宿泊したいと考え、予約状況と料金を調べた。たまたま、部屋は指定できない素泊まりプランで、通常よりも安価な価格で販売されていたので、それに飛びついた。通常の価格については、公式サイトやブッキングサイトでみて欲しいが、今回は公式サイト経由で辛うじて1万円台で宿泊することができた。
話は脱線するが、一般的にブッキングサイトで提示されている宿泊費は公式よりも安いイメージがあるが、案外公式サイトの方が安い場合も多々ある。そのケースは、感覚的に年々増えているような印象がある。
アーティスト | 木下理子
今回、宿泊したのは木下理子さんの作品が展示されている部屋。
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部屋の設備や環境に不満を感じるところはなく、極めて快適に過ごすことができた。部屋の様子については、公式サイトや紹介されている記事の綺麗に写ったものを見て欲しい。
アーティスト | レアンドロ・エルリッヒ
HERITAGE TOWER(本館)のラウンジを中心に張り巡らされているレアンドロ・エルリッヒの"Lighting Pipes"という作品。その名の通り、発光する配管である。
22時以降になると発光する色が変わる。今回見ることができたのは、赤色で、青色や虹色にもなるそうだ。建物の構造と作品の配置が絶妙で、どの角度から撮影しても、絵になる。ずっと観ていられる。
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アーティスト | 杉本博司
ホテルのレセプションには、杉本博司の「海景」シリーズが展示されている。豊島や江之浦測候所、様々な展覧会で何度となく観てきたこのシリーズ。とある記事で紹介されていたが、「海景」と「会計」を掛けているとかいないとか。
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アーティスト | 蜷川実花
期間限定で、ロビーに蜷川実花さんの作品「残照」が展示されている。造花と枯れた生花を使って、過去と現在、活気のあった時代、その衰退、少しずつ再生していく前橋の姿を表しているという。「New Horizon―歴史から未来へ」でも同氏の作品が展示されており、その兄弟(姉妹)作品と言える。
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アーティストの展示作品
館内にはさまざまなアーティストの作品が展示されている。ものによっては、それが作品だとわからないものもある。気になった作品についてここで触れたい。どんな作品が展示されているのかについては、公式サイトに案内があるので、そちらをご覧いただきたい。
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(エレベーターの天井に設置)
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(エレベータの天井に設置)
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(併設しているブルーボトル店内に展示)
土地の歴史とアート
その土地の歴史を感じるのに、アートという手法は有効なのかもしれない。ラウンジに展示されている後藤朋美さんの「間」を見た時に実感した。ここには白井屋ホテルの前身である「白井屋旅館」の記憶にまつわるものが陳列されている。出版物などの文章だけで伝わらない、当時そこにいた人の存在や、その当時の空気を感じた。
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宿泊した部屋には、"Shiroiya Hotel Giving Anew"というタイトルのアートブックが置かれている。白井屋ホテルにまつわる全てが美しい写真とグラフィックで綴られている。当然ながら、ホテルの歴史についても触れられている。
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【タイトル】『Shiroiya Hotel Giving Anew』
【著者】藤本壮介、橋本⿇⾥、⽝養裕美⼦、⻑⾕川⾹苗、⽩井良邦
【編集】⽩井良邦
【クリエイティブディレクション&デザイン&イラスト】All the Way to Paris
【写真】伊藤徹也 ほか
【コーディネート】藤本美紗子・田中静香(Inu llc.)
【日本語版デザイン】Qullo & Co.
【発⾏】⼀般財団法⼈⽥中仁財団
【販売】株式会社ADP
【造本】⼤型本 217 ㎜×275 ㎜×38㎜ 英語版264⾴+⽇本語冊⼦48⾴
【本体定価】10,000円(税別)11,000円(税込)
【発売⽇】2023年3⽉8⽇ (⽔)
【ISBN】 978-4-903348-57-5
https://www.shiroiya.com/stories/goods
正直に言えば、このアートブックに目を通した時よりも、後藤朋美さんの「間」の展示を見た時の方が、白井屋の歴史の長さや厚みをより深く感じることができた。それは、「New Horizon―歴史から未来へ」で展示されていたいくつかの展示作品にも同じことを感じた。
ホテル自体が作品である
建築には明るくないので、建築物としての評価はまったくできない。ただ、この建物が異形のものであることは素人目にもわかる。と同時に、おそらく絶妙なバランスで成立した優れた非対称な設計なのだろう。自分がみた範囲では、対象的なデザインや配置がほとんどなく、それはひょっとしたら自然物がもたらすものと同じ効果を与えてくれている「設計」なのかもしれない。
このホテルは、白井屋旅館から続く長い歴史とこの土地をアートという新しい手法で封印し、再構築した作品である。その作品に宿泊するという体験により、その歴史をより実感できる。おそらく、今回の宿泊が最後になる可能性が高いが、また、訪れる機会があれば、また違った体験を得たい。
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