基本的な産業医との付き合い方ー健康施策の次の一手を産業医と考えよう!

事例

朝倉「(最近、佐々木先生との産業医業務、それなりに会社の人たちにも認識もらえて、健康診断、ストレスチェック、過重労働面談、安全衛生委員会、職場巡視とかもつつがなく進んでいる。ただ、なんか最近物足りないんでよな・・・)」

佐々木「こんにちは。今日もよろしくお願いします。」

朝倉「佐々木先生。先月ぶりです。今日もよろしくお願いします」

佐々木「申し訳ありません。午前中他所での産業医業務が早く終わってしまい、ちょっと普段より早くついてしまいました。」

朝倉「良いですよ。ここらへん、周りに何もないのでそういう時は遠慮なく来てください。ところで、午前中の会社って、どんなことされているんですか?やっぱりうちとと同じようなこと?」

佐々木「そうですね。その会社さん、トラックの運転手さんとか、いわゆる職業運転手さんが多かったりするので、そういった人向けの健康管理について最近打ち合わせが多いんですよ。今日はその担当の人が急な体調不良で・・・」

朝倉「それだ!」

佐々木「え?」

朝倉「うちも何か独自の、新しいことやりましょう!」

佐々木「えー!?(いきなり!?)」


事例の解説

産業医業務を長く続けていると、会社Aではこの業務、会社Bはだいたいこのパターン・・・という風に業務内容がパターン化することが多いです。その事自体は特に問題ではありませんが、人事労務担当者の方と話をすると、実は産業医と関わる中で、課題意識をもっていて、「こんな取り組みを行いたい」というご要望をいただくことがあります。

この記事では、これまでトリセツプロジェクトで解説した、法令に基づく活動や、休職、復職時の対応などの話題から少し目線をずらして、会社独自の健康施策について考えてみましょう。

産業保健業務は、会社のニーズの数だけ取り組めることがあり、創意工夫を発揮する余地があります。できること、できないことはもちろんありますが、やりたいことをうまく産業医に伝えることができれば協力を得られるかもしれません。

事例の中で佐々木が話していた。「職業運転手の健康管理」というテーマであれば、運転を許容する健康診断の規準値の設定、睡眠時無呼吸症候群のスクリーニング、脳血管疾患の予防のための健康講座などが思いつきます。

オリジナルの取り組みを考える場合に、大切になるのはどのような仕事がその会社にあるかです。職業運転に限らず、化学物質の取り扱い作業、粉じん作業等の有害業務に関わることであれば、特殊健康診断を絡めて独自施策や教育を打ち出すようなことは比較的すぐに思いつきます。他にも、課題と感じる事象、例えば新卒の離職が問題となっている会社であれば、ストレスチェック結果の分析の他、保健師を別に雇って全員面談を行ったりするようなことも比較的よく聞く取り組みです。

朝倉さんが努めるナインエス株式会社はIT系の企業です。そのような場合の取り組みの切り口はどんなものになるでしょうか?考えるためのキーワードは、4つあります。(カッコ内は、産業医の専門用語です)
 ・職場全体の環境(作業環境管理)
 ・業務の内容(作業管理)
 ・健康に直接かかわること(健康管理)
 ・衛生面の教育(教育)
 ・会社全体の施策に関わること(統括管理)

 職場の雰囲気はどうでしょうか?サーバールームに閉じこもって実は寒い環境にいる従業員はいないか?健康診断の結果をまとめたり集計したりして把握しているか?健康保険組合から特定保健指導の対象者の案内が沢山きているか?管理職へのメンタルヘルス教育はこれまで何回やったか?オフィス環境であれば、肩こり腰痛なども取り組みやすいポイントです。

このように、4つのキーワードを一つ一つ検討するだけで、取り組みのヒントとなりそうなアイデアは沢山でてきます。上の例、IT企業というキーワードで私がとりあえず思いついたアイデアです。なので、十分に考えられていないアイデアです。

本当に従業員のためになる取り組みは、このような思いつきではなく、現場をよく観察している、会社の力関係や風土もよく理解している人事労務担当者が産業医としっかりと相談して取り組むことが必要だと思います。また、従業員の困りごとがヒントになることもあるでしょう。

健康上の取り組みを行う場合は、産業医と相談することをお勧めします。医学的な知見をもとに取り組まないと、良かれと思ってやったことが有害な可能性もあるからです。

過去に、会社の関係者がすい臓がんでなくなり、そのような経験を自社の従業員にさせたくないから、なんとか健康診断で予防できないか?と相談を受けたことがありました。その相談、全従業員の健康診断に腫瘍マーカーの検査を無料で盛り込むというアイデアだったのですが、相談をうけた私はなん
と答えたと思いますか?


「やめておきましょう」と答えました。

その時の担当者さんの気持ちや、大切な人をがんでなくされた方の気持ちは想像するだけで辛いです。ただ、医学的には検査することですい臓がんの死亡率を下げることができるものは現時点では存在していません。検査のやりすぎは精度が悪いために、がんでない人を陽性と間違って判定するなど下手をすれば、有害な可能性すらあります。

この記事を読むだけで、すぐに皆さんの企業での新しい取り組みが見つかることはないかと思いますが、ぜひ、職場の人の声に耳を傾けて会社独自の施策を考えてみてください。(ある日、突然経営層や上司から、「なにか新しい取り組みはないか」と指示があるかもしれません。普段から、そのためのアンテナを貼っておくと良いと思います。)

多くの産業医は、頼られればなにか会社のためになることを提案してくれるはずです。(ただし、普段の業務でいっぱいいっぱいであれば、訪問回数や時間の見直しはセットで必要となる可能性もあるので、その点はご留意を!)

本記事担当:@NorimitsuNishi1 ,@ohpforsme
記事は、産業医のトリセツプロジェクトのメンバーで作成・チェックし公開しております。メンバーは以下の通りです。
@hidenori_peaks, @fightingSANGYOI, @ta2norik, @mepdaw19, @tszk_283, @norimaru_n, @ohpforsme, @djbboytt, @NorimitsuNishi1
現役の人事担当者からもアドバイスをいただいております。


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