学会参加報告:交流分析学会2024その2 講習会
交流分析学会2024の2日目は講習会でした。1日目はこちらをご覧ください。天気が良くてよかった!
【門本先生の「関係性交流分析」】
▼寝坊!遅刻!!
2日目は完璧に寝坊して1時間遅刻!ワークショップだから途中からは入れてくれないんじゃないだろうか!?とドキドキしながら会場に向かったけれど、教室入り口の前を通ったら、わざわざ大会長が廊下に出て迎え入れてくださいました。感謝。
午前の講師は大正大学の門本泉先生。30年前に一緒に交流分析を学んだ仲間です。佐島マリーナで行われたMuriel JamesやMary Gouldingのワークショップなどでご一緒しました。
当時彼女は早稲田の大学院生。今回、100人以上の受講生を前に堂々とレクチャーを進める姿を見ながら、立派になったものだ、お父さんは嬉しいよ、みたいにウルウルしてしまうのでした。直接会うのはおそらく20数年ぶり。覚えていてくれただろうか?とレクチャー終了後に挨拶に向かうと、「痩せました?」と言われてしまいました!はい、この年になるとフレイルとの闘いなのです。
▼ちょっと脱線 – 私にとっての交流分析
私にとって交流分析は、特に交流分析の哲学は、自分のセラピーの骨格になっています。1990年代に一所懸命学びました。1996年の日本TA協会第9回大会では研究発表もしましたし、1997年には交流分析学会に入会しました。TA TODAYという教科書があるのですが、小学校から大学院までに使った教科書と呼ばれるもので最後まで読み終えた本は、自慢じゃないですが(ホントに自慢できない)これだけです。しかも繰り返し読んでいます。門本先生は現在ITAAの臨床教授会員ですが、当時は私もそれを目指していました。
▼解決志向アプローチとナラティブ・セラピー
ただ、いろいろな事情があって、2000年代になるとしばらく交流分析から離れてしまいました。復帰したのは当社カウンセラーの勉強会や慈友クリニックの復職支援リワークでまた交流分析を使うようになった2013年頃からです。
離れた理由の一つは、1994年に臨床の場を思春期からアルコールに移したことでした。アルコール依存症の治療で初めて医療機関に訪れる人には、まず治療の土台に乗ってもらう関係作りが重要でした。思春期問題に関わっていた頃から家族療法も学んでいたのですが、その流れでソリューション・フォーカスト・アプローチ(SFA。解決志向アプローチ)を知りました。SFAではクライアントにカスタマー、コンプレイナント、ビジターの3つのタイプがいると考え、それぞれに合わせたアプローチを行います。アルコール臨床ではほとんどがコンプレイナントかビジターです。この考えを知った時、患者さんに向き合う姿勢がとても楽になったことを覚えています。
そしてSFAの流れからナラティブ・セラピーを知りました。いま私が面接で何をベースにやっているかと聞かれたら、ナラティブ・セラピーと答えています。その延長線上にオープンダイアローグもあります。
このように、ともかく現場ですぐに役に立つ方法の習得に意識が向いてしまったので、理論としての交流分析の学びは停滞してしまったのでした。しかし私が離れてしまったその時期に、今回の関係性交流分析が研究されていたようです。今のようにオンラインで海外の研修に気軽に参加できたなら、私の歩みもまた違ったものになったかもしれません。
▼解決志向アプローチのすごさ
1994年の家族療法学会(香川)で初めてSFAのワークショップに参加しました。講師は白木孝二先生でした。その効果に本当に驚いたのが、東京に戻って間もなくお会いした摂食障害の患者さんとのセッションでした。過食症で悩んで来院した女子大生を前に、どうやって治療したものか思いあぐねていたのですが、白木先生のレジュメに出ていた、「初回面接公式課題」を思い出したのです。詳しくはまた別の機会にご紹介しますが、治療には長い時間がかかると思われていた(自分も思い込んでいた)摂食障害が、わずか3回のセッションで終結してしまったのです。自分でやっておきながら信じられない思いでした。勝手に良くなったと言いたいくらい。でもそこで重要な役割を果たしたのは間違いなく自分。その時に思ったのが、解決の扉を開ける鍵さえ見つかれば、クライアントは自分で解決していくのだということです。私たち治療者は的外れな面接で鍵を見つけ損ね、クライアントが持つパワーを引き出すことにいかに失敗しているか、と思わざるをえませんでした。
このケースの経験が、私を問題探求型治療者から解決志向型治療者に変えさせたと言っても過言ではありません。実は交流分析から離れたもう一つの理由は「精神病理」、つまりその人の問題点を見つけ対処していくという考え方でした。関係性交流分析や統合的心理療法、コ・クリエイティブ交流分析をもう少し早く知っていれば違ったのかもしれないのですが…
▼自分がやっていたのは動機づけ面接だった
SFAの翻訳書としてかなり初期に出版されたのが、「飲酒問題とその解決 − ソリューション・フォーカスト・アプローチ」(金剛出版)だったので、いろいろと試してみましたが、アルコール問題をSFAで解決していくのは私には難しく、集団療法の有効性にはかないませんでした。
アルコール問題の場合、集団療法に乗せてしまえば、あとは場の力で回復していくことがわかったので、私の役割はコンプレイナントタイプやビジタータイプの患者さんを、いかにその気にさせるか、でした。そのために面接法を工夫していきました。それが後になって「動機づけ面接」だったと知った次第です。動機づけ面接はもちろん、交流分析も解決志向アプローチもナラティブ・セラピーも人間性心理学の最先端だと思っています。その哲学は患者・クライアントを対等な人として尊重する姿勢です。
▼そして関係性交流分析
しかし幼少時から虐待などで傷つけられてきた人たちは、そもそもセラピストを対等な人としてなんか見ていません。この人は自分に何をしでかすのか?みたいに用心している。世界は敵、くらいまで思っている。そのように構えている人にどう接することが、人として尊重することになるのでしょうか。その鍵が関係性交流分析だったのだということを、今回のワークショップで知ることができました。
遅刻してしまったので前半の理論編が聴けなかったのですが、共有してくださった資料を見ると、鏡転移、理想化転移、双子性転移、新生自己、中核自己など、1980年代に丸田俊彦先生のセミナーで勉強した、コフートの自己心理学やスターンの乳児精神医学の言葉が出てくるじゃないですか。それを見て、自分が同じ路線に乗って臨床をやってきていたのだなとホッとしました。
▼関係性交流分析の考え方
詳しくは「交流分析 − 心理療法における関係性の視点」(日本評論社)に譲りますが、レジュメからポイントをピックアップしますと、
・人間は言語以前の部分で世界を認識していて、言語以外のモードでも他人と関わり、自身を生きている
・セラピーでも言語の層と非言語の層があることを認識し関わるという関係性の世界を大切にする
と書かれています。そのように理解し関わることで回復していくというのが関係性交流分析の考え方です。
深く傷ついている人は、何かが傷ついたまま、何かが滞ったまま、何かが輪郭を持たないままの状態にあり、混沌とした情動、説明のつかない感情があり、Cの自我状態が混乱を起こしていると考えます。そのCの混乱を解除できるのが「関係性」というわけです。
門本先生は、「傷はコンタクトにあふれたセラピストとの関係性の中で癒える」というアースキンの言葉を紹介してくださっていたのですが、それを見て、「人は人によって傷つけられるが、人によって癒やされる」という言葉を20年来使ってきた私は嬉しくなりました。
▼セラピーは耐震補強工事?
さらに門本先生は、「セラピーは耐震補強工事に似ている?」と書いているのですが、言い得て妙ですね。補強工事のためにはしっかりとした足場が必要。それが我々セラピストでしょう。足場がしっかりしていなければ、どこかをいじるとバランスが崩れ崩壊してしまうかもしれない。この足場(セラピスト)は本当に大丈夫なのか?とセラピストを試すわけですね。足場がしっかりとしていることがわかったら、初めて補強工事がスタートできるわけです。
▼自身を感じ、理解する
レジュメを見ていてもう一つ気がついたのは、セラピストがクライアントとの関わりの中で、自身を感じ、理解することが治療を進める機序となる、と記されていることです。これも私が重視してきたことの一つなので嬉しくなりました。クライアントの話を聞いていて、自分はどう感じたか、心に何が浮かんだか。そこを手がかりに関わりを模索する。時には自己開示する。逆転移や自己開示も私の研究テーマの一つなので、自分の中でいろいろなことがつながっていく瞬間でした。
▼感じる演習
そしてもう一つ。演習で画像を何枚か見せられ、浮かんだイメージを小グループでシェアするというワークをしました。気に入った画像はそれぞれ違うし理由も違う。他の人の話を聞きながらまた連想が浮かぶ。言葉にする。聞き手は熱心に聴く。分析不要、追求不要、解釈不要。私たちの病院で取り入れている集団療法のルール、「言いっぱなし、聞きっぱなし」そのものですね。この演習はオープンダイアローグの研修にも取り入れたいなと思いました。
こうやって改めて書いてみると、いろいろな思いが浮かび、忘れていたことを思い出し、新たに調べてみて、また新しい洞察を得ていく。考えが熟成していく。そういうきっかけを作ってくださった門本先生に、改めて感謝申し上げます。寝坊して諦めて欠席しないで良かった!
【室城先生の「統合的心理療法」】
午後は大会長の室城先生のワークショップでした。1日目にアースキンの基調講演がありましたが、その内容をさらに深めるワークショップでした。
▼統合的心理療法のアプローチ
統合的心理療法の哲学的原則は以下の3つだそうです。
1.傷つきやすさ (Vulnerability)
2.真正性 (Authenticity)
3.間主観的コンタクト (Inter-Subjective contact)
さらに8つの哲学的前提があり、室城先生が一つひとつ解説してくださいました。
そして実際の関わりについて、アースキンが作った統合的心理療法の図を元に一つひとつ説明してくださいました。
<図 統合的心理療法>
探求・問いかけ (Inquiry) には4つの側面があります。
アチューンメント(同調。調律 Attunement)は5つの側面があります。
そして関与(Involvement)には4つの側面があります。
時間の関係でアチューンメントあたりまでしか解説が終わらなかったのですが、改めてこれらを見ると、関係性の構築にいかに注意を払っているかが読み取れます。いま室城先生たちはアースキンの著書の翻訳を進めているそうですので、興味ある方はぜひ出版をお待ちください。
▼アースキンの面接の動画
ワークショップの最後に、アースキンが実際に行った面接の動画を見せてもらえました。これもありがたかった。 この動画はセラピーの教材作成のために、同僚のセラピーを受けているクライアントがボランティアで参加してくれたのだそうです。
アースキンは前日の講演と同じように、静かな、優しい笑みを浮かべ、うなずきながら、クライアントの話に耳を傾けていました。
印象的だったのは、クライアントはスペイン語なので通訳を挟んでの会話だったのですが、アースキンは通訳の方はまったく見ず、ずっとクライアントに目を向け続けていたことです。アースキンがどれくらいスペイン語が聞き取れるのかわかりませんが、私にはアースキンがクライアントとの関係をとても大切にしている姿勢として受け取れました。
一方、私だったらまだ口を挟まないな、という場面がありました。このクライアントは自分の辛い体験を話す際に、二人称の「あなた (You)」という表現を使っていたのです。アースキンは、「あなたはそれをどのように経験していますか?あなたは他の誰かについて話していますか、それともあなた自身について話していますか?」と尋ねると、クライアントは、「苦痛については、二人称の方が話しやすいんです」と答えます。
これに対しアースキンは、「それはあまり治療的ではないね」とコメントします。「ええ」と笑って答えたクライアントに対し、「一人称で自分の経験を話した方が、たぶんずっと治療効果がありますよ…それに、もっと涙が出るかもしれない」と続けていました。
私だったら、ひとしきり聞いた後で、いくつか事実関係を確認した上で、「ご自分のお話をなさる際に、『あなた』という表現を使っていらっしゃったように聞こえたのですが…」と尋ねるかもしれません。もしもアースキンと同じように尋ね、二人称の方が話しやすいと言われたら、「そういうことですか。ありがとう」と返して話を続けるだろうと思います。
アースキンはこのケースについて事前に説明を受けていたのかもしれないので、より積極的に介入していったのかもしれません。
私の感覚では、初めてお会いする人であれば、二人称の件にコメントするのは慎重になります。ひょっとするとそのことに気づいていない可能性もあるからです。気づいていないのに指摘してしまうと混乱するかもしれませんし、人によっては自分らしさ(自分なりの防衛の仕方)をセラピストに非難されたと感じるかもしれません。私のアプローチをアースキンの図に従って説明すれば、まず「現象学的な問いかけ」をし、「検証的な関与」をしていることになるでしょうか。それは「感情面へのアチューメント」を重視したから、と説明できるのかな、と考えました。
偉そうなことを書きましたが、カウンセリングの動画の一部を短時間視聴した(+配布された逐語禄を読んだ)だけですので、私の勘違いがあるかもしれませんことを申し添えておきます。
もしもオープンダイアローグであれば、リフレクティングの際に、「自分のことを語る際に『あなた』と表現することがあったように思うけれど、不思議に感じました。どういうことか、もっと聞いてみたいと思いました」と関心を示すだろうなと思いました。「二人称の方が話しやすいとか、あるんでしょうかね」など、リフレクティングが続いていきそうです。
こういう分析って大好きなんです。スーパービジョンでも「他にどんな返し方があったか?」みたいなディスカッションはよくします。ここで私がアースキンにアチューンし、SVをリフレクティング的にやってみると、「アースキンが二人称に触れたのは、おお!と思いました」「会話がダイナミックに展開しましたね」「私の感覚ではもう少し待ってからコメントするかもしれませんが、意図があれば聞いてみたいですね」「クライアントもちゃんと説明できてすごいですね」「自覚があるけれど、まだ一人称で話すのは不安、ということかもしれません」「通訳を挟んでいなかったら、同じタイミングだったかな、と考えたりもしました」みたいな言葉が交わされそうな気がします…
ということで、午後のワークショップもとても刺激的でした。嬉しいことも落胆することもあった学会でしたが、決して多いとは言えないスタッフを統率し、オーガナイズしていく室城先生の八面六臂の活躍には感嘆していました。本当にお疲れさまでした!&ありがとうございました!
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