2 on 1を始めよう:2022年度第3回研究会(2022.8.18)の報告
■2022年度第3回研究会開催
2022年度第2回の研究会をzoomで行いました。参加者は8名でした。
今回の題材は、産業医大の五十嵐侑先生が主宰する「産業保健オンラインコミュニティ(通称:COEDOH)」で7月に講演した「産業保健に生かすオープンダイアローグ」の資料から、「初めてOD面接に参加するスタッフへ(5分でわかるオープンダイアローグ)」と「2 on 1の勧め」のスライドを中心にディスカッションを行いました。
■1人の話を複数で聞く
ご存じのように「1 on 1」はすでにたくさんの企業、組織で活用されていますし書籍もいろいろ出ています。一方、埼玉大学の宇田川先生はナラティヴ・アプローチの研究を踏まえ、「2 on 2」なるものを提唱されています。米沢はオープンダイアローグの研修の一環で行われるリフレクティング・ワーク(3~4人で行う。資料1)がオープンダイアローグの基本と考えており、「可能な限り2人(以上)で人の話を聞く」ことが、豊かな対話の場を作り出すために必要だと考えてきました。オープンダイアローグ的対話の最小単位は3人です。1人の話を2人(以上)で聞く。「1 on 1」を始めてみたものの、普段の上司との会話と変わらないとか、上司と30分も話すなんて苦痛だといった声も聞こえてきます。そこにもう一人加わったら、面談は違った展開にならないか、という発想です。
「初めてOD面接に参加するスタッフへ(5分でわかるオープンダイアローグ)」という資料は、主に健康管理室でミーティングを行うことを想定し、そこに初めて参加する保健師やカウンセラー、あるいは人事労務の人に、「今日はこういうことをやるのであらかじめお知らせします。何か特別なことをやるのではなく、まずは一緒に従業員の話に耳を傾けていただければ大丈夫です」と伝えるために作りました(まだ試作段階なのでいずれ公開します)。オープンダイアローグ的面接の参加のハードルをできるだけ低くしたかったからです。
■職場で「2 on 1」をやってみよう
一方、昨年当社で行ったオープンダイアローグのセミナーに参加した人事労務の方から、「これ、同僚とやってみてもいいですか?」という質問を受けたのです。ビックリしました!そして、「ぜひやってみてください!!!」と即答しました。「職場で2 on 1」のアイデアが生まれた瞬間でした。
1.対話を始めてみよう
職場で行う場合、同僚でも他の部署の人でも誰でもいいですので、希望者3人が集まって、会議室などで1人の話を2人で聞くという場面を設定します。テーマは何でも結構です。話し手が話したいことを話してください。人によっては話したいことが特にないなあということもあるかもしれませんが、たとえば「昨日嬉しかったこと」とか「ちょっと頭にきたこと」など、話し始めたら話せることはいろいろあるのではないでしょうか。まず5分から10分くらいで思い浮かんだことを話してみてもらいます(図1。Aさんが話し手、BさんCさんが聞き手)。
Aさんの話をさえぎることがないように、BさんCさんは丁寧に話を聞いていきますが、一言も喋っちゃいけないわけではありません。話を聞きながら相槌をうったり質問してみて、Aさんがより話しやすいようにガイドします。ただBさんCさんが喋り過ぎたり、「雑談」にならないように注意し、話し手のペースを大事にしてください。人によっては2人に向かって話すのは話しにくいかもしれません。そういう時は1人が主な聞き手になり、もう1人はそのやり取りを見ている感じでその場にいましょう(図2。Bさんが対話を主導し、CさんはAさんの話にじっくりと耳を傾ける)。ともかくAさんの話しやすい形が大切です。
2.リフレクティングをやってみよう
話が一区切りついたら、あるいは決めた時間が来たら、Aさんの話を聞くスタイルからBさんCさんが向き合う形に変えて、Aさんの話を聞いて何を感じたか、言葉にしてみます(図3)。これをリフレクティングと呼びます。Aさんの話を「2人の聞き手の場」で照明を当て直して見てみる感じです。リフレクティングの間はAさんの方にあえて顔を向けないようにします。あたかもその場にAさんがいないつもりでAさんの語りについて話してみます。Aさんの方を向いて話してしまうと、「目力(めぢから)」でAさんを納得させるみたいになってしまい、AさんがBさんCさんの対話を聞きながら、あるいはAさん自身が自分の語った言葉を振り返り、自分の思いや考えをさらに深める時間を奪ってしまうのです。
リフレクティングの時間は3分から5分くらいを目安にしてください。「そんなに忙しいとは知らなかった」とか、「大変な中でよくやっていると思う」とか、「あれは頭にきますよねえ」といったように、その人が心がけていること、頑張っていること、うまくやっていることなどに意識を向け、率直に言葉にしてみるといいと思います。職務上の「役割」はいったんおろしてください。「俺が何とかするから」みたいに役割を背負った発言は控えます。“素の人間”として、それはすごいな!そりゃつらいよな!みたいに感じた心の声を言葉にしてみます。
オープンダイアローグで重要なのは、対話を通して話がより広がり、展開し、あるいは深化していくことなので、Aさんを批判したり否定するような発言は控えます。かといって精一杯持ち上げようとするのも「ほめ殺し」みたいでAさんも居心地が悪いでしょう。いいことを言おうとするよりも感心するなあと思うことを言葉にしてみることでしょうか。
もしも何か疑問が浮かんだりアイデアが浮かんだ場合は、BさんCさんの方だけで、「こんなことも聞いてみたいと思いました」とか、「私ならこうするかもと思いました」みたいに言葉にしてみます。
3.対話のスタイルに戻ります
リフレクティングが終わったら元の対話のスタイルに戻り(図1)、BさんCさんの対話を聞いていて感じたこと、気づいたことなどをAさんに語ってもらいます。最後に、このワークをやり終えて改めて感じたこと、考えたことなどを一人ひとり言葉にして終了します。実はここから話がはずむことも多いのですが、時間もあると思いますので話し手を交代し合計3セッション行います。1セッションで10分から20分くらいでしょうか。
もしも4人で行う場合は3対1でやってください。つまり4セッション行うことになります。1人の話を3人で聞き、3人でリフレクティングを行います。5人でもできなくはないですが、5対1は話し手に圧迫感が生まれるかもしれないので、もう1人見つけてきて3人グループ2つでやる方がいいでしょう。どうしても5人でやるなら、3人で対話しているところを残りの2人が見ていて、最後に対話全体を見ていて感じたことをフィードバックしてもらうというやり方もあるかもしれません。私たちカウンセラーが行うオープンダイアローグでは話し手が2人、3人になることもありますが、オープンダイアローグの基本は1人の話を複数で聞くスタイルです。このような対話が職場で当たり前になっていくと、今話題の「心理的安全性」が大きく向上するのではないかと期待しています。
■2 on 1はオンラインでもできる
2 on 1はオンラインでもできます。今年7月の産業精神保健学会でオンラインによるオープンダイアローグの発表を行いましたので、近日中にその報告を掲載します。
■話を聞いてもらうのはやはり大事
今回の研究会ではこの形式で3人ずつ2グループに分かれワークを行いました。みなさん、日頃は人の話を聞く立場の仕事をしていますので、自分を語る時間を作ることはやはり大事だなと改めて思いましたし、リフレクティングとして2人がそれぞれ感じたことをかみしめ、言葉にしてみるという時間を持つこともやはり大事だなと思いました。
■1 on 1の代わりに2 on 1
1 on 1の代わりに2 on 1を行う場合は、上司のほかにもう一人聞き手に入ってもらうわけですが、誰に入ってもらうのがいいのか、いろいろと選択肢はありそうです。そのうち研究会メンバーからの実践報告をお伝えできると思います。あるいはこれを読まれてやってみた!こんな面白いことが起こった!という方がいらっしゃいましたら、ぜひ教えてください。
ということで、今回は研究会の報告というよりは2 on 1の説明になってしまいました。ご容赦ください。
次回の研究会は10月20日に開催します。
資料
1)オープンダイアローグ対話実践のガイドラインウェブ版(第1版).pdf
https://www.opendialogue.jp/対話実践のガイドライン/
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