
水平方向の敵意(嫌がらせ)とコンパッション
上から下への暴力(垂直方向の暴力)は、ハラスメント、年齢差別、性差別、人種差別としてだいぶ知れ渡るところとなってきました。もちろん、それらが「無くなった」ということではありません。
今日、多くの人が悩まされているのは、『コンパッション』の著者J.ハリファックスによれば水平方向の敵意なのです。ハリファックスが引用する医療従事者への調査によると、約20%の看護師が、患者や医師との問題ではなく、同僚の看護師からの嫌がらせや悪意によって離職するそうです。
水平方向の敵意は、それとない嫌がらせ、あからさまな非難、陰湿な攻撃、冷たいあしらい、陰口や当てこすりの的として向けられ、見張られ、監視されているかのような環境を生み出します。今日、水平方向の敵意は途方もなく甚大だと、ハリファックスは述べています。
私はこのような水平方向の敵意をたくさん見てきたし、経験してきました。もともと、水平方向の敵意はフェミニズム運動から生じたものです。フェミニストであって人権活動家の弁護士フローレンス・ケネディは次のように言います。
水平方向の敵意は、悲しむべきことに女性解放運動グループをも蝕んでいます。……抑圧をもたらす外的要因に向けられるべき怒りの標的を誤っているのです。
こうした水平方向の敵意が生じるのは、自分自身が虐げられた経験を深く内面化した結果、羞恥の念や自尊心の欠如があることに起因しているようです。そして、それらをごまかす手立てとして自分は他よりも優れている、あるいはまし、として自分の地位を確立するために、水平方向の敵意は働くのです。
ママ同士のカースト、職場の同僚の足の引っ張り合い、社会運動グループでの意見の相違などはもちろんのこと、あちこちで日常的におこっているのが水平方向の敵意なのです。
こんなものに晒されていたら、頭がおかしくなってしまうでしょう。まずはとっとと逃げるのがよいのです。
水平方向の敵意は、相手への軽蔑があります。
しかし、人間というのは馬鹿ではないので、自分が軽蔑されているかどうか、甘く見られているかどうかはわかってしまうのです。
人をケアし支援する側である医療・心理・福祉領域においても、当事者を軽蔑するような方がいることを知って、かなり驚いたとともに納得もしました。これらの領域がAI化する中で、こうした問題は解決していくのでしょうか。一方で、生身の人間でなければやれないこともあるでしょう。
私自身は、最も大切なことのひとつが、当事者への敬意であり、敬虔さだと思っています。当事者が誇りを想い出すとき、そこで湧き起こる力を見たことがある人ならば、きっと同じ意見をもつだろうと勝手に思っています。
そしてこれは、水平方向の敵意の対極にある、人間としての態度なのです。