さんごのみやこ

時間の流れから遮断された図書館

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今年1月に発行しました本『虹色玉手箱』について、WEBでお買い物できるようになりました。ちらりと覗いてみていただけたら嬉しいです~😊 どなたさまもお気軽にどうぞ🌸 https://sangonomiyako.stores.jp/

    • Breakfast In Bed

       季節はいつだったのか、なにを着ていたのか、何か思い出したいことがある時に私はいつもそうするの、そうやって思い出しているんだよ。  かつて私にそう話してくれた人がいて、それは確かに着るものにこだわっていて自分がほんとうにすきなものしか身に付けなかった、けして派手ではなかったけれどいつだって洒落ていた彼女らしいやり方だった。  そのときはあまり気には留めなかったけれど、ずいぶん後になってから、ふっと思いだすようになった。  季節はいつだったのか、なにを着ていたのか。  な

      • 疲れたので帰ります

         ユズリハはお茶をよく飲む子だった。  出かける前に一杯、家に帰ったら一杯、眠気ざましに一杯、食事した後に一杯、そうやって一日のなかで何かと理由をつけては飲んでいた。  その都度お湯を沸かして急須についで飲んでいたから、それはそれなりに時間を要する行為で、ともすれば朝ぎりぎりまで教室に姿を現さず遅刻してしまうこともしばしばだった。  委員長のササは遅刻が増えている彼女にこう助言した。 「水筒にいれて持ってきたらどうなの。それならいつでも飲めるし、家を出る時間も少しは早くなるん

        • Breakfast In Cafeteria

           木に咲く花が好きで、昔住んでいたアパートから海に続く道にあった、季節になると地面に黄色い花をたくさんこぼす木のことが気になっていた。  薄い花びらが重なるバラに似た形状の黄色い花が、枝の先の高いところにいくつもいくつも咲いていた。  そしてなぜだかいつも木に咲いた状態の花よりも、地面にたくさんこぼれている花の方が鮮やかで目を奪われてしまう、そういう木だった。  ときおり花はきれいに形を保ったまま土の上に落ちていたので、そこからひとつ気まぐれに拾って持ち帰り、部屋に飾ったりも

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          そこに行けば会える人

           その会社に勤めていたとき、昼はいつも一人で食べた。  最初はお弁当を持って外に出て、少し歩いたところにある公園のベンチで。  公園は静かでゆっくりできて気に入っていたけれど、冬になると寒さが厳しく外で食べるのが難しくなった。  それでも会社の休憩室を使うのがどうしても嫌だった私は、昼休みに過ごす場所を求めてふらふらさまようことになる。  近くに飲食店はあったが出費をおさえたかったし、お昼時はどこも混んでいて落ち着かない。  それで最終的にたどり着いたのがビルの非常階段だった

          そこに行けば会える人

          虎を見に行きたい

           夏の終わりに風邪をこじらせて寝込んでいた。  ようやく回復して朝早くにぱっちり目をさますと、光のかんじが変わっていて季節が秋になっていた。  朝日で明るくなった部屋をじいっと見ていたら、幽霊にでもなったみたいに胸のあたりがすうすうする。  仕事は連日休んでいて誰にも会わずにずっと一人でいたし、これからまた元の暮らしに戻るだなんて、少し考えただけで不安で仕方なかった。  久しぶりに沙羅からメッセージが届いたのはちょうどその朝で、そこには「虎を見に行きたい」と書いてあった。  

          虎を見に行きたい

          誰かのケーキ

           日が暮れると部屋の窓は鏡になって、ランプや机に洋服箪笥、この部屋にあるものをひとつ残らず映しだす。  そうして窓のむこうにもうひとつ、こことそっくりな部屋ができあがる。  けれどもそこに私はいない。  私はあくまでも外側から眺めているだけ、住んでいるのは別の子なのだ。  そのことに目を凝らしているうちに気がつく。  だんだん向こうの様子がくっきりしてきて、この部屋と違うところが見えてくるから。 (たとえば足下で丸まった毛布の模様、窓辺にあるサボテンの植木鉢や飲みかけのお茶は

          ビブリオテークの妖精

          図書館のすみにある購買部でパンを買って、廊下のベンチに座って、 ほんのわずかな時間でしたが、お話ししましたね。 まぶされたお砂糖が落ちてしまうのを気にしていたのは私だったか、あなただったのか。 ずーずーと、紙パック入りの飲み物を啜る音が聞こえました。 私には長らく部屋にこもりっきりだった日々があって、その日はいよいよたまらなくなって、午後行くあてのないまま外に出かけて、 歩いているうちにだんだん雲行きが怪しくなってきて、雨が降るまえに通りがかりの市立図書館へ。 そこに入るの

          ビブリオテークの妖精

          アイスクリームの天使

           夕方、外を歩いていたら雨がぽつぽつ降ってきた。  近くにいる人たちが次々に傘を広げていく。  鞄の中に手を入れて、折りたたみの傘を探している人もいる。  あいにく私は傘を持っていなかった。  でもそんなに強い雨じゃなかったし、あとは家に帰るだけ。  傘は無くても大丈夫、そう思っていた。  でも途中で私以外の全員が傘を差していることに気がついた。  すると妙なもので、とたんに恥ずかしくなってきた。  なんだか自分だけ仲間外れみたいで。  それに道行く人が私のことをじろじろ見て

          アイスクリームの天使

          Alone In Kyoto

           中学の修学旅行の行き先は京都だった。  連日雨が降っていたように思う。  白いブラウスにグレーのプリーツスカートという制服姿でぞろぞろと同級生たちと寺院をまわった。  それは楽しい思い出というよりも、団体行動に疲れて暗くなっていた気持ちの方をよくおぼえている。  起きてから寝るまでどこにも一人の時間がなくて、ずっと周りと足並み揃えて行動していて気が張っていたから。  早くひとりになって、どこか静かなところでゆっくりしたいと思っていた。  じっさいに京都を訪れたのはその一度

          夜のシネマ

           映画がはじまるのは夜の8時40分からだった。  わたしとすなごは学校から帰ってきたらそれぞれの家で夕飯をすませて待ち合わせをし、いっしょに映画館まで行くことにした。  映画のチケットはすなごの母親が職場で貰ってきたものだった。  すなごは母親から「せっかく貰ったけれど観に行く時間がない。もったいないから友達と行ってきて」と頼まれたのだという。  上映スケジュールを調べてみたら、わたしたちがすぐ観に行けそうなのは平日の夜の回だった。  次の日も学校があるのが少し億劫だったけれ

          F a r a w a y

           はじめて降りた駅だった。  そこで会った人と、ほんのひととき一緒に過ごして、すぐ別れた。  あとで思い返すと、それは奇妙な夢のようで、忘れがたい時間になった。  そして家に着いたとたん、私はその駅の名前を忘れていた。  なんど路線図の上を探しても見つからないから、あれは現実の場所ではなかったのかもしれない、なんて思う。  たしか2文字くらいの、とてもみじかい名前だった。  それはふだんから口にするたぐいの言葉でとくにめずらしくはないのだけれど、駅の看板を目にしたときに今まで

          水星

           夢を見た。  奥の部屋でひとり、布団に横になっていた。  カーテンの隙間から、時々おもてを走っている車のライトが入ってくる。  近付いては遠のいてゆく、エンジンの音が聴こえる。  今が何時なのかよくわからない。  外が暗いから夜だろうけれど、まだそんなには遅くない時間帯で、夕方に近い夜だという感じがする。  青く透き通った空気が、部屋の中を漂っている。  眠りの途中で目が覚めたのか、それとも単に目を閉じていただけで眠っていたわけではなかったのか。  いずれにせよ私はまだ起き

          ちびまゆさんが桜の季節に間に合うようにと、先日書いた「ユキウサギのつとめ」を朗読してくださいました。こちら是非聴いてみてください🐇🌸 ユキウサギのつとめ |ちびまゆ https://note.com/chibimayu/n/n101717b9c3af

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          ユキウサギのつとめ

          夜、布団に入って目をつむっていたら、外から音がきこえてきた。 きい、きい、きい、きい、きい、きい。 風が吹いて、どこか遠くでドアが開いたり閉まったりしているような、そんな音。 家の近くにある小学校のフェンスの扉かもしれない。 最後通った人がちゃんと閉めておかなかったんだな、なんて思う。 ゆりかごみたいな一定のリズムで、このまま眠るまでずっと続きそうだと思っていたら、扉からなにか出てきたみたいに、たたたたたたたっというすばしっこい足音がきこえてきて、そこでわたしは眠りにおちた。

          ユキウサギのつとめ

          暗い菜の花畑にて

          帰りに自転車を漕いでいたら、夜なのに日向くさい匂いがした。 見下ろすと川べりにいっぱい菜の花が咲いていて、そのにおいがここまで漂ってきているのだった。 目をつむっても道がわかりそうなくらい、濃密な匂いだった。 風がふくと、ざあああっと黄色いかたまりが揺れる。 毎年こんなにたくさん咲いていただろうかと疑問に思うほど、菜の花はずっと向こうの川岸まで続いていた。 ペダルを漕ぐのがなんだか億劫になってしまったので、私は自転車から降りて手で押しながら、ゆっくり前に歩いていった。 なん

          暗い菜の花畑にて