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猫の鳴き声とおじいさん
近所のスーパーマーケットへ歩いて向かうとき、家の近くを流れる小さな川に沿って整備された遊歩道を歩いていく。
犬の散歩、ウォーキングやランニング、自転車に乗る人など時間によっては人通りは結構多い。
ある日の買い物帰り。歩きなのに買いすぎてしまい、買い物袋を左右の手で何度も持ち替えながら歩いていると猫の鳴き声がした。
「ニャ~オ」
この辺りで猫はあまり見かけない。人通りがやや少ない、離れた場所では見かけたことがあった。川の先に大きな公園があるが、そこにも地域猫が数匹いて、とても人に慣れていて可愛がられている。
ここにもいるの?
そう思い、草むらを覗いてみようと川に近付こうとしたところ、自転車に乗ったおじいさんが私の横を通り過ぎて行った。
「ニャ~オ」
猫じゃなくておじいさんの鳴きまねだった。
数ヶ月後、ドラッグストアで買い物をして別の道を歩いていた。
考え事をしながらぼんやりしていたと思う。
「ニャ~オ」
家に猫がいるせいか過剰反応のような気もするが、ドキッとして歩みを止めそうになった。すると私の横を自転車に乗ったおじいさんが通り過ぎて行った。
「ニャ~オ」
私を騙そうとしているのか、驚かせようとしているのか。
それとも趣味のような練習のような、独り言もしくは口癖…。
そしてその鳴きまねは、か細くて繊細な雌猫を思わせるものだった。
あれ以来、絶対に騙されないぞという、挑まれてもいない自分だけの戦いの中にいると思っている。