「+1」で崩れた鳥栖の狙いと準備 J1第34節vsサガン鳥栖 マッチレビュー
マッチサマリ
前半
京都の攻撃は右サイドから。鳥栖の左CBの横(左WBの裏)を起点に侵攻。
鳥栖は監督交代から3バックを採用。3バックの明確な弱点はディフェンスラインの横に生まれスペースであり、徹底してウィークを付くのは理にかなった攻撃でした。
鳥栖の雑さと相まってセカンドもよく回収。
何度もチャンスが生まれ期待感が高まる中、不用意に差し込んだロストから鳥栖のショートカウンターが発動。フリーで裏に抜け出したヒアンを倒したソンユンが退場。
残り80分を10人で戦う厳しい展開。ですが。
中盤の「4」の左に平戸、右にマルコ、2ボランチが川崎と福岡に配置換え。
「一人少ないぐらい慣れたものだぜ!」と言わんばかりにスムーズに4-4-1へ移行。
たしかに実際慣れてますもんね。
(つら…)
前線の枚数を削ったことでハイプレスを自重し、撤退からのブロック形成が中心に。
綺麗に揃った4-4-1のラインで間のスペース(4-4-1のハイフンに当たる部分。特に4-4の間)を消し、中央にボールを差し込ませず。
特に川崎の運動量はすさまじく、前へのプレッシャーと差し込まれるボールへのケアを途切れることなく続け、鳥栖からスペースを奪い続けました。
慣れたもんですね…ウフフ…
中央を攻略できない鳥栖は時間をかけてブロックの周りを外周するに留まり、効果的な攻撃に繋げられず。京都の左サイド深くで手数をかけてパスを重ねるものの、パスを重ねるのみ。
停滞する鳥栖を尻目に、京都は守備を軸に跳ね返してのロングカウンターからチャンスを創出。決めきれずもどかしい…が続き前半終了。
スコアは0-0。ただシュート数9対4。オンターゲット3-0。
どっちが数的不利やら。いや、数的不利だからこそ引き出せた内容でしょうか。
後半
ハーフタイムでの修正か鳥栖の攻撃に変化。
ブロックの外を回るだけだったパス回しを、まずヒアンに差し込んで中央にサンガの守備を寄せてから、サイドに展開しクロスへ。
一度真ん中に意識を作られること
左サイドだけでなく右からもクロスが飛んでくる可能性を作られ的が絞れなくなったこと
ヒアンがサイドに流れず中央に留まることでエリア内が危険になってしまったこと
これらの要因がかみ合って、後半10分くらいまでは鳥栖ペース。
弾き返しきれずカウンターも封じられこれはマズいぞ…から生まれた決定機。
鳥栖の福田(晃)のクロスから、中央で合わせたスリヴカのシュートがファーポストへ。
枠を捉えてGKの手も届かない完璧なシュートでしたが、堀米をマークしながらゴールまでカバーした佐藤がクリア。リフレクションは直ぐに体制を直して反応した岳志さんがかき出しクリア。
これがターニングポイントになりました。
直後の65分。
岳志さんのパントキックが鳥栖アンカーとCBのちょうど間に。
お見合いになりバウンドしたボールを巧みにキープしたマルコが突破し、相手に引っかかりながらも拾いなおしてシュート。鳥栖DFの足に当たりコースが変わり朴一圭の逆へ。
京都が先制します。
その後は、あわや福岡が退場しかねなかったり、セットプレーからの危険なシーンもありつつ、コンパクトに中央を固めてサイドに追いやる守備を中心に耐えます。
宮本・義宜のライン設定とカバーは相変わらず秀逸でした。
迎えた89分。
カウンターになりそうなところを潰され、朴一圭を経由し左に展開されたところで平賀と宮本がプレス。
ハマり切ったところを狙った福田がインターセプト、カバーに入った木村の股間を抜いて作ったGKとの1対1を冷静に沈めて追加点。
この時間帯と場面でインターセプトからドリブルして決めきるメンタル・体力・技術。
守備でも素晴らしいパフォーマンスを見せていた福田のゴールで決着が付いたのは偶然ではないでしょう。
守り切り2-0で試合終了
総括
鳥栖はソンユン退場後だけでなく、1点どころか2点を追わないといけない場面までずっと後ろに人を余らせてしまっていました。
被カウンター時のリスクヘッジにはなりますが…。
せっかく生まれた「+1」をそんなところで浪費してしまうのはもったいなく、我々としては助けられた感。
立場として「勝たなければいけない」のはサンガではなく鳥栖の試合。
先制点の雑なロングボール対応やその他含めて、チグハグ感は否めませんでした。
とはいえ。
相手に助けられようが何だろうが、ただひたすらに「3ポイント」のみが必要な裏天王山。
10分でGK退場のアクシデントを乗り越え勝ちを掴めたことはこれ以上ない収穫です。
(他チームの結果を見ると、もし負けていたらと思うとゾッとします)
結果に対しては素直に喜んでいいのでは、と思いました。
選手の頑張りに救われた試合ですね。
PickUp:数的有利が壊したサンガ対策
鳥栖の想定内・想定外
攻撃の手札が「ハイプレス×ショートカウンター」しかないサンガの攻略法は明確。
①DFライン+GKのビルドアップでハイプレスを誘発し、空いた裏のスペース(特にSB裏)へ斜めに放り込む
②ボールを持たせて稚拙な保持と組み立てを誘発。不用意なロストが発生したところでFWが裏抜けし一撃を狙う
②についてはまさに、ヒアンが抜け出しソンユンが退場に追い込まれたシーン。
豊川から奪ったパスを受けたスリヴカは真っ先にヒアンを確認し、スリヴカが顔を上げた瞬間にヒアンは裏に走り出しています。
悩みのないオートマティックな連動。
鳥栖がこれを狙って準備していたことは想像に難くありません。
が、鳥栖としての「想定内」はここまで。
数的不利に立ったサンガが予想以上に早く立て直したことと、一人減った陣形とゲームプランがサンガの弱点を消してしまった「想定外」に困ることとなります。
逆に言うと、サンガは数的不利でメリットを得たことになります。
退場がもたらした「サンガにとってのメリット」、逆を返すと「鳥栖のデメリット」とは何だったのか。が今節のPickUpポイントです。
具体で見ていきましょう。
①ハイプレス自重・被「疑似カウンター」の減少
「FW3枚も置いてるからどれかで引っかかるやろ!」
なノリでハイプレスを乱発するチームですが、一人少なくなるとさすがに自重気味になります。
基本は4-4-1でミドルブロックを形成。秀逸な守備を見せた去年のアビスパ戦のように。
ただ、アビスパ戦と違いリードがなく、CFが原ではなくラファエルであることで忠実に同じような守備とはなりませんでした。
ラファエルが追い過ぎてしまうことがしばしば。
ラファエルが追うならば...である程度は後ろも連動する必要があり、4-2-3のような陣形になってしまう(「2」の周囲にリスクを抱える)時もあり。
特に追い過ぎることで注意したいのが、鳥栖のお家芸
「朴一圭を使った疑似カウンター」
です。例えばこのシーン。
朴一圭へのバックパスを追ったラファエルが剥がされる。
連動してダブルボランチの福岡と川崎が両方とも追っており(ダブルボランチ2枚でハイプレス…)。
佐藤の裏に飛び出した堀米に一発で通されて、2対3の大ピンチになったシーンでした。
義宜の1on1対応と堀米の判断ミスに救われましたが…。
DFラインでのパス回しで敵を引き込み、ハマったと見せかけて朴一圭のバイパスで脱出し裏返し。
今年だけでなく数年来ずっと鳥栖が得意とするパターンです。
偶然生まれたものではない。
鳥栖の「狙い」がまさに実現、京都にとってはBadのシーンでした。
しかし、朴一圭からのバイパス作戦が奏功したのは90分通じてこのシーンのみ。だってハイプレスに来ないんですもの。
ラファエルが単騎で追いすぎることはあれど。剥がされると察知した残りの8人はまず撤退を選択する(追いプレスを選択しない)のがほとんど。
いくら朴一圭が剥がし上手とはいえ、相手が寄せてこないのであれば疑似カウンターの場面を作りようがありません。
狙い通りに生んだ数的有利で、鳥栖は得意とする狙いの一つを封じられてしまうことになりました。
②DF裏のスペースの消失
鉄板のサンガ攻略法。
DF裏に蹴ってラインを後退させ、チーム全体を間延びさせる。
直近ではガンバにサイドバック裏を徹底的に突かれ苦しめられたのが記憶に新しいですね。
(これはサンガ特有の弱点ではなく、ハイラインを設定するチーム全般に当てはまるする攻略法でもあります)
開始早々から大きく蹴り飛ばすシーンが多く、鳥栖は裏のスペースを有効に使いたかった狙いがあったはずです。
しかし、退場によりサンガがミドルブロックに移行したことで、そもそもライン設定が低くなりDF裏のスペースが消えてしまいました。
スペースがあれば、ヒアンは一人で2~3人ぶっちぎれる可能性を秘めています。アウェイでやられたように。
が、流石にスペースがないとヒアンでも、というかヒアンはスペースがないと良さが出し切れません。
いくら裏に抜けるのが得意とはいえ、限られたスペースではトップスピードに乗せられず、無理にスピードを上げればGKのカバーエリアまっしぐらです。裏を突くにも限界がある。
ヒアンはスペースを求めて、頻繁に落ちて左に流れてボールに触っていたものの…。
ソンユン退場シーンのように裏の中央スペースで受けられると大ピンチですが、サイドの浅い位置でボールを求めるヒアンはおおよそ許容可能です。
後半からエリア右付近に留まり起点になられたのは厄介でしたが、それはそれで得意の裏抜けを封じてしまうことにつながりました。
結局ロングボールをDFライン裏に蹴り込まれピンチ…となったシーンは数えるほど。
90分を通じて見るとさすがにゼロ回ではなく、左サイドで何度かは生まれましたが、佐藤が冷静に中原に対応してくれたことで大きなピンチにはならず。
(中原のドリブルと、ストロングである左でのクロスを消し続けた佐藤の対応は見事でした。利き足やドリブルのクセなど周到にインプットしていたはずです)
また、鳥栖のパスが単調で、淡々と右に誘導されるばかりだったことも大きい。
ポジションそのままに、一列横の選手に同じタッチ数で回しているだけでは相手は動きません。つまりDFは崩せません。
(耳が痛い話ですが…)
攻めあぐねる鳥栖からすると、組み立てで崩すことができないなら裏一発を狙いたかったはず。
ですが、狙い通りに生んだ数的有利で、狙いたかった「必殺困ったときのヒアンの裏抜け一発」がなくなってしまいました。
③ビルドアップ放棄・カウンターへの移行
序盤こそビルドアップからの前進を目指していたものの、不用意に差し込んでロストし、一人少なくなったことで割り切り。
ボールを奪っても無理に繋がず。基本はまずマルコへ預ける。
ボールが収まれば福田や川崎が伴走してカウンターへ、収まらなければ切り替えて守備に戻るパターンが基本に。
割り切りったビルドアップ放棄で危険なロストが減少。
不用意なロストがなければ鳥栖はショートカウンターを発動できない。
ショートカウンター発動からのピンチは、結局ソンユンが退場したシーンと多少の+αくらい。
開始10分で狙い通りに作った数的有利が、以降の80分で狙いを実現できなくなる原因になってしまいました。
また、②でも解説した単発に見える前からのプレスが、結果として京都自陣への引き込みを産んでいたことも奏功しました。
なまじ後ろから余裕をもって繋げるばかりに、鳥栖はズルズルと前に引き寄せられることに。
「前」に引き寄せられるとどうなるか。
言うまでもありませんが「後」が空きます。
(一方を立てると反対のもう一方が立たなくなるのがサッカーですね)
鳥栖のDFライン裏。特に左のスリヴカと金の間のスペースを、スピードに乗ったマルコと福田が蹂躙することに。
京都のストロングを活かすスペースを産んでしまったのもまた、鳥栖が狙い通りに作った数的有利です。
まとめ
京都の弱点と鳥栖のストロングを掛け合わせて練られたサンガ対策。
実際のところ京都の弱点の付き方は明確で、対策されると成す術なく敗れ去る試合も多々あります。
準備した全てで成功させることはできないにせよ、どれかは通るはず。
そう考えて準備したであろう鳥栖の狙いは「ショートカウンターからGKを退場に追い込む」とのこれ以上ない結果を生みました。しかし
ショートパスで崩せない。
朴一圭を使った疑似カウンターも発動できない。
ヒアンの一発を狙うためのスペースがない。
ショートカウンターの手がかりも掴めない。
狙った通りの結果は皮肉にも京都の弱点と鳥栖のストロングを埋めることに。
なぜか数的有利に動揺する気配すらない、どころかむしろ落ち着いた京都。
そして交代で入ったGK太田の質は高く、安定したセーブを連発される。
ここまで裏目が続く鳥栖が気の毒にも感じますが…。
数的不利を生かせなかったのもまた、鳥栖の拙さ。
そして、ホワイトボード上では説明しきれないサンガ側の個の頑張り。
降格を淡々と受け入れる鳥栖イレブンと、擦り切れるほどに走り続けた京都の選手たちの違いは明らかでした。
さいごに
この2年で3度目の「早々に一人少なくなった方が良いサッカーができる」となりました。
危機感で気持ちに火が付く…の面はもちろんあるにせよ。
メンタル面以外でも、数的不利による変化が生んでいる影響を感じずにはいられません。
つまり…
どう見ても選手やチームに合っていない4-3-3の陣形
目的と手段の入れ替わりすら感じる過剰なハイプレス
拘り続けるものの未だ実現の気配すらない組み立てによる崩し
これらがいかにチームの足を引っ張っているか。
をあらためて痛感しました。
ハイプレスは単なる戦術の一つであり、目的ではなく手段。アイデンティティでも何でもない。
ハイプレスに拘っても、拘らなくても、京都サンガFCは京都サンガFCです。
フォーメーションも同じ。
単なる組み合わせでしかなく、選手の良さが引き出せるならなんでもよい。4-3-3でなくても京都サンガであり、4-4-2、4-5-1、3-5-2でも京都サンガなのです。
左WGにCFをコンバートしなければ京都サンガでなくなるのか。
そんなはずもない。
一貫したプレーモデルからチームスタイルを構築する重要性は語るまでもありません。しかし。プレーモデルの構築と、根拠のない拘りでチームに不要な負担をかけることは別物です。
ぐうの音が出せないほどの結果が出ているなら構いません。
「おこだわり」もご自由にですが。
リーグ記録を塗り替えるほどの活躍を見せるラファエルの加入があって、ようやく降格圏スレスレの順位。
それを見せられて「全幅の信頼を置いています!オールオッケーです!」とはならないでしょう。
今シーズン前半の低迷を「喉元過ぎれば熱さ忘れる」とならないように。
自分たちの進んでいる道は100%正しく、検証する余地などないのか。
「先制できていれば違う展開だった」が本当にそうなのか。
見直すべきポイントがあるのではないか。
目下の目標である今年の残留はもちろん、今後5年10年とJ1でありつづけるために。現状を正しく評価して認識できる人がチーム「内」に必要です。
(責任のない外部からの声が有害無益であることは鳥栖が証明してくれてました)
久しぶりのマッチレビューは以上です。
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