3分講談「髑髏の仇討ち異聞」
博物館や美術館を訪ねるのが趣味という方も多くいらっしゃることと思います。ガラスケース越しに、数百年・数千年前の文化遺産と向き合えるという意味では、とてもファンタスティックな空間だといえます。ただ、博物館勤務の友人によりますと、収蔵庫や、閉館後の展示室というところには、少なからず「出る」のだそうですね。
出ると言ってもボーナスではありません。「おばけ」が出るんですね。言われてみればさもありなんで、展示されているものというのは、過去の誰かの持ち物ばかり。つまり、「念」の籠もったものばかりだということです。たとえば正倉院宝物にしても、「聖武天皇の遺愛の品」と銘打たれていますが、「遺愛」ということは、それだけ執着の残る品物だということ。もしかすると、正倉院展の開催中、真夜中の博物館内では、聖武天皇の霊が螺鈿の琵琶を掻き鳴らし、瑠璃の坏で光明皇后と一献傾けているかもしれません。それはそれで、少し見てみたい気もいたしますが。(①)
さて、そういう「持ち主の念の籠もった品」もさることながら、自然科学系の博物館ですと、もっとダイレクトに「骨」が展示されていることがございます。これはもちろん、化石や土器と同様に、太古の人々の生活実態を知るための重要な考古資料なのですが、頭蓋骨がずらりと並ぶ展示ケースというのは、見ようによってはだいぶんとホラーかもしれませんね。
先日、東京大学総合博物館で行われていた「骨が語る人の「生と死」」という展示を見て参りましたが、まさしくワンフロアがすべて「頭蓋骨」。縄文時代から江戸時代まで、時代ごとに頭蓋骨がずらっと並んでおりまして(①)
髑髏①「もし、もし」
髑髏②「なんでございます」
髑髏①「えらい窮屈なところへ入れられましたな」
髑髏②「そうですな」
髑髏①「おたくはどのくらい前に亡くなりはったんです」
髑髏②「八〇〇年ほど前ですから、今でいうところの鎌倉時代くらいですかな」
髑髏①「あ、わたいもですわ。…それにしてもこのキャプション、ひどいもんですな。『鎌倉時代人は出っ歯で長頭』て書いてまっせ」
髑髏②「おたくはまだ、正面向いて置いてもうてはるさかいよろしいがな。わたいなんか、出っ歯が分かりやすいようにいうて、横向きに展示されてまんねやで。」
髑髏①「ところでおたくの向こう隣の方、なんやえらい頭に穴開いてはりますが、どないしはったんでしょうな」
髑髏③「あ、わたいでっか。なんや知らんがこの辺りのおさむらいどうし戦いに駆り出されましてな。よう分からんままに棒きれ一本渡されて、鎧甲もなく丸腰でさあ突撃!や。そんなもん、向こうは長い槍持ってますやろ。後ろからぶすっとひと突き」
髑髏①「…待ちなはれ、わたいもな、近所のさむらいに槍一本渡されて、『なんでもええから突いて突いて突きまくってこい』言われて突撃したんだ。恐ろしいもんやから、目つぶってめったやたらに突き出してたら、なんや固いもんに刺さったんで、おそるおそる目開けてみたら、敵方の頭に刺さってたもんやから、恐ろしなってそのまま槍を放り出して逃げてしもたんや」
髑髏③「ほなおまえかいな、わしの頭に穴開けたん。おのれに会おとて艱難辛苦は幾ばくぞ、今日ここで会ったが百年目…」
髑髏②「もう八〇〇年目ですけどな」
髑髏③「やかましわい、この恨みはらさでおくべきか」
ガチガチガチ…歯を鳴らして噛みつかんばかりの勢いでしたが、そのとき、カツーンカツーンと足音がして、警備員のサーチライトの光が三人の展示ケースを照らし出したものですから、やむなく一時休戦。この続きはおそらくまた明晩、ということでございましょう。「髑髏の仇討ち異聞」という一席。