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面を着けたら世界が変わる ~演じる側から見た民俗芸能~【2024年11月号】

 民俗芸能の宝庫、三遠南信地域が湯立神楽のシーズンを迎え、数回目の祭り特集を組むことにしたが、今回は従来のような見る側の視点でなく「神々や鬼の面を着けることで生じる心の変化」を当事者から聞き出すことで、祭りの面白さを疑似体験できる紙面とした。巻頭特集では民俗芸能と担い手に詳しく、面の製作も手掛ける舞台芸能師、加藤木朗さん(57)に意見を求めるため、長野県阿智村にある稽古場を訪ねた。(河原俊文)


「面を着けると自分以外の何かになれる」加藤木 朗

布のお面を着けて踊った男性は「別の人格になったよう」と話した(南信濃で)

面が人格を変える?

 お面を着けると人の心持ちが変わる。この不思議な変化に気付かせてくれたのは、飯田市南信濃と浜松市天竜区水窪町の有志が6月29日に開いた越境イベント「遠山郷・奥山郷“山大国”連携交流」に参加した水窪の女性たちだった。

 水窪の人々は無類の仮装好きだ。9月に開く「みさくぼ祭り」には仮装コンクールがあり、町ぐるみで仮装を楽しんでいる。

 南信濃との交流会にもこのノリは持ち込まれ、水窪の女性2人はおかめやひょっとこのような顔がプリントされた仮装用てぬぐい(目の部分に穴が開いている)を取り出して自分の顔に巻くと、ギターの弾き語りをする参加者の両側で陽気に手踊りを始めた。

 踊り終えた2人は無作為に選んだ参加者の顔に手ぬぐいを巻き、踊るよう促した。選ばれた人々も同じようにコミカルに踊った。

 踊りで参加者を楽しませた南信濃の一人からは「お面をかぶったら、いつもとは違う人格の自分になった。自分の知らなかった一面を見た気がする」という、興味深い感想を口にした。

 会場にいた本紙のライターからこの話を聞いた私は「湯立神楽や田遊びの担い手たちも、これに近い感覚で舞っているのではないか」と考え、この仮説をもとに取材を始めた。

ランス状態になる

 結論から先に言うと、南信濃と水窪の交流会で得たフィーリングに基づく仮説はおおむね正しかった。

面を着けることで起きる変化を語る加藤木さん(稽古場で)

 民俗芸能の本質を論理的に語れる加藤木さんは、当方の考えを肯定すると「面を着けると…

※続きは紙面でお読みください。

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