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[ショートストーリー] ~美しき幻想~ 寓話を深く読む


まえがきの代わりに 

ここno+eには、ジャンル分けなく、思いついた粗削りのままのストーリーを、私の好き勝手に書こうと始めた。しかし、それらしいものはないことを指摘されてしまった。

そこで、今回は少々アイロニカルなストーリーを書いてみました。


 
拍手と称賛の渦の中、今夜のグラマラスなショーは幕を下ろし、まばゆいライトの灯も落とされた。静寂に包まれたステージ中央には、今季のメインコレクションが万国旗のように並び、フォクサーは自らが作り上げたその極彩色の景色を満足げに眺めていた。彼の斬新なスタイルと独創的な素材使いは、すでに業界のメインストリームとなっていた。
 
そのステージの陰に、長年のアシスタントを務めるウィルゴートの姿があった。彼は、フォクサーの幻想曲を形にするために、日々、パターンを引き、縫製を行い、あらゆる試行錯誤を繰り返してきた。フォクサーは、「ウィルゴートがいなければ、私の作品はただのひとつでさえ日の目を見ることはなかっただろう」と感謝しつつ、ウィルゴートの卓越した才能と技術を高く評価していた。
 
ウィルゴートはこれまでの日々に思いを馳せる。もうずいぶん昔のことなのではっきり覚えていないが、無名ながらも奮闘するこの若きデザイナーに賭けた、かつての自分を懐かしく、そして誇らしく思う。
 
弛まぬ努力と果敢な挑戦の末、フォクサーはグローバルファッションブランドへの階段を駆け上がっていった。多くのファッション雑誌の表紙を飾り、SNSでは数千万ものフォロワーを集めるフォクサーの名と彼のブランドネームは、もはや知らぬ者はいないと言われる。しかし、その栄光の裏で、ウィルゴートはぼんやりと仄暗い孤独を感じていた。フォクサーの成功の裏で、ウィルゴートが大きく貢献したことはよく知られているにも関わらず、彼が表舞台に立つことはなかった。
 
ある日、ウィルゴートは決意を固め、フォクサーに自分の思いを打ち明けた。「フォクサー、あなたのデザインを形にしたのは私です。もっと評価してほしかった。」その言葉に、フォクサーは表情ひとつ変えずに冷静に答えた。「そうだ、君の言うとおりだ。確かに君の存在がなければ、私のデザインはなにひとつ実現しなかっただろう。感謝しているよ。だが、重要なのは、そのデザインを生み出したアイデアだ。そして、そのアイデアを見出したのは、君ではない、紛れもなくこの私だ。」
 
フォクサーは、ウィルゴートの献身を認めながらも、成功の鍵は自分の才能と努力にあると断言した。彼は、ウィルゴートの能力を見出し、それを最大限に活かし、形あるものとして世に出したのは自分だと自負していた。
 
ウィルゴートは、フォクサーの主張に返す言葉が見つからなかった。特別なときにしか締めないフォクサー創業記念のネクタイが、途端にきつくなった気がした。もはやこのままフォクサーの下にいることはできないと悟り、アトリエを去る決意をする。性善説の限界を目の当たりにし、深い失望感とやり場のない憤りだけが手元に残った。
 
別のブランドに移り、変わらず良い働きをするウィルゴートだったが、以前のようなやりがいを見つけることはできなかった。ウィルゴートは、次の一歩を踏み出さない自分にも苛立ちを隠せないが、自分の能力をどこで活かせばよいのかも分からず、いつまでも迷い続けていた。
 
自信に満ちリスクを恐れないフォクサーの光が、以前に増して眩しく見えた。それは、まるで夜空に煌煌と輝きながら、しかし決して彼を照らすことのない遠ざかる星のようだった。



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