(課外活動報告)Lancaster大学主催 "Business & Biodiversity Knowledge and Action Hub Launch"イベント
イベント概要
10/30-31にLancaster大学 Pentland Centre for Sustainability in Businessという研究所の、"Business and Biodiversity Knowledge and Action Hub"ローンチイベントに参加させていただきました。
ランカスターはロンドンから北西に2.5時間ほどの距離にある古い街です。Pentland研究所は大学内のビジネスとサステナビリティに関する課題の教育・研究のハブとなっており、今回生物多様性テーマのナレッジシェアリングを行う機能が新たに設置されたことを記念して、イベントが開催されました。
イベントのゴールは三つでした。
(1) 議論するトピックについて関心があるメンバーのコミュニティを形成すること
(2) 今後の研究及び実践支援への優先事項を特定すること
(3) ビジネスのネイチャーと生物多様性における主要課題を特定すること
2日間で計8つの生物多様性とビジネスに関するプレゼンテーション(Showcases)が行われ、途中参加者間でのディスカッションと交流の時間がありました。
Showcases:
参加者は、様々なセクターでビジネス✖️生物多様性に取り組んでいる方々30名ほどでした。
IFRS財団の生物多様性基準の研究を担当している方、Accounting for Sustainabilityという英チャリティ法人のディレクター、イギリスの大手電力会社の方、農業関連企業の方、The Biodiversity Consultancyのコンサルタント、King's College Londonの教授、Lancaster大学の教授やポスドクの研究員の方など、所属組織は多岐にわたりました。
Lancaster大学のJan教授(Business and Biodiversity Knowledge and Action Hubのディレクター)のご招待により集められた、クローズドな会でした。
担当プレゼン ー日本におけるTNFD開示支援からの学び
私は、Jan教授とポスドクでJan教授のもとで働いているNeoさんが研究のために一度来日された際に、ディスカッションに参加させていただいたことがあり、その後Jan先生とのメールを通じて本イベントにご招待いただきました。
TNFD開示が最も進んでいる日本(TNFD Adopters企業数、実際のTNFD開示レポート発行数も世界#1)で、ネイチャー分野のアドバイザリーサービスに従事していたことから、
①なぜ日本企業はTNFD開示をリードしているのか、想定される理由
②国内大手企業のLEAPアプローチに沿った開示レポートの作成プロセス、
難所に対するコンサルの支援概要
について、発表させていただきました。
質疑応答では沢山の質問やコメントをいただきました。
日本は文化的に自然との調和を重視しているとのことだが、それであれば日本の自然は既に豊かなのか?
日本企業はTNFD開示にバリューを感じているのか?
どのようにTNFD開示の分析において気候変動と生物多様性とを融合させたのか?
コンサルの力を借りずに企業が開示している内容はどこなのか?
コンサルが必要な部分も事業会社へのナレッジトランスファーが必要ではないか?
日本のTNFDレポートを研究対象にしている場で、プレゼンをさせていただくという貴重な機会を頂き大変光栄でした。イベント後にJan教授や研究者から、多くの学びを得た、イベントに素晴らしい貢献をしてくれたとフィードバックをいただけて嬉しかったです。私自身も一歩引いて日本企業の自然資本経営を考える良いきっかけになりました。
ちょうどイベントの2日前のCBD COP16の期間中に日本政府がTNFDへの資金援助を行うことを発表したりと、日本のビジネス✖️ネイチャー分野は益々盛り上がっていくのではないかと思います。
一方、ネイチャーほど複雑でない脱炭素経営でさえ今は難航しているので、ネイチャーも一時のトレンドに終わらずビジネス変革、社会変革へと繋がっていくと良いなと思いました。
参加者間ディスカッション
イベント期間中のディスカッションでは様々な議論がなされました。
以下で一部テーマを紹介します。
保証の必要性:多くの開示レポートの内容は既存取り組みのコピペのように見える。TNFD開示の内容の質の担保を行う必要があるが、それを担う機関がいない。
EUではESG情報の保証が義務化されているが、部分的保証である。
そもそも保証は情報の正確性を見るが、その情報が質的に「良いものか」は見ないコンサルが質を担保していく役目を果たすのかもしれない
開示の目的と対象:そもそもTNFD開示は誰の何を目的としたものなのか?イギリスのアンケート調査では、投資家から求められているという声よりも、消費者またはそのほかステークホルダーから求められているという声が多い。開示は行動変容のための手段であり、目的化してはいけない
BNG政策の批判:失敗に終わる可能性があるのではないか。
労働党は今後5年間で150万軒の住居を建築すると宣言しているが、オンセット相殺は通常困難であるためオフセットになる。既に土地は再エネ開発で買い占めが始まっているためオフセットも困難
生息地の30年などのモニタリングは地方自治体に委ねられており、国全体でネットゲインの管理をする仕組みがない
Just transitionの必要性:結局土地所有者が一番得をする。どのように事業者や農家、住民の権利を侵害せずに公正な移行を行うか、土地所有者の富をどのように分配するかが重要課題
土地に再エネの開発、カーボンクレジット創出、生物多様性クレジット創出の利害が集中し、地価が上がっていく
農家はカーボンクレジット創出ができると見込んで再生農業に取り組んできたが、クレジット価格が低下しており混乱が生じている
「コスパが良い保全」(=短期間で生態系の回復が見込める既に劣化した土地の保全、途上国など)の生物多様性保全が優先されるのではないか。そこで安く儲けて、クレジット単価が上がるのを待ちつつ売上をより中長期的に時間がかかる土地(イギリスなど)の管理費に充てるという戦略的なビジネスになり、自然が益々コモディティ化する
かなり批判的な意見が多いのが印象的でした。日本から見ると"先進的"な政策を導入しているように見えるイギリスですが、実は実行策の検討が不十分だったり、政策による副作用が十分に考慮されておらず、現場で苦しんでいる事業者も少なくないのだと知りました。
感想
①ビジネス✖️生物多様性業界の、様々なプロフェッショナルに出会えたことが貴重でした。いつもプレスリリースでしか見ていなかった、IFRS財団の生物多様性基準、NPIによるState of Nature指標の開発などに関わっている組織の方と出会えて嬉しかったですし、皆さん色々と苦労されているんだなと知りました。
Jan先生も、冗談でビジネス✖️生物多様性を生業にしていても何が起こっているのか分からないと仰っていました(笑)
②サステナビリティ経営に携わって3年しか経っていないので定かでないですが、これほどサステナ経営において日本への注目度が高いのは珍しいのではないかと思います。引き続きネイチャー領域で官民共にグローバルなプレゼンスを向上していけたら良いなと思いました。
③集中して聞いていないと発言内容を聞き逃してしまい、所々議論に置いていかれてしまいました。もっとネイティブ英語のリスニングを鍛えなきゃと思いました。また話に入っていく隙を探すのも難しかったです。普段の大学院生活では留学生とばかり話しているので、ネイティブの方々との議論を経験するのは良い刺激になりました。
そして今回の1番のハイライトは、宿泊先のホテルにバスタブがあり、出国して2ヶ月目にして初めて湯船に浸かれたことです!!(最高でした😭😭)
以上、"Business & Biodiversity Knowledge and Action Hub Launch"イベントの参加報告でした。長文を読んでくださり、ありがとうございました。