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雲南日本商工会通信2023年6月号「編集後記」

 抖音にアップされた動画。「中国の高速鉄道の個室車に乗った女の子が、十数個のデジタル系ガジェットを駆使し、自分の空間をより良くする」という内容です。
 一見してクールかつスマートな動画です。一方で「なんか、田舎臭いな」と思わせるものでもありました。最先端のスマートさをアピールしたいのでしょうが、今の消費者はもう、そこに響かないと思うのです。
 数カ月前、「国産スマホが売れなくなっている」という中国ニュースを見ました。記事は巣ごもり過多による「アンチ・デジタル」の動きだと論評していました。しかし、どちらかというとかつて岡田斗司夫が立てた仮説「その社会で『希少価値があるもの』がクールになる」を実証する現象に思えました。
 たとえば、いま誰もがダイエットしたいと思いますが、それは現代が飽食の時代だからです。食料が足りなかった古代はむしろ、太っている人がクールでした。同様に、ハイテクが飽和した社会では「さらにハイテクを」という願望が消え、ローテクが逆にクール(エモい)となるのです。
 実際、ローテクなものに対する需要はますます増えているようです。アナログレコードやアナログ写真だけでなく、昭和歌謡やシティポップも若い人に人気です。これらは日本だけでなく世界的な傾向となっています。
 映画『THE FIRST SLAM DUNK』は(年少時にテレビで熱中していた)中国の30~40歳のおじさんを熱狂させました。他方、『すずめの戸締り』はもっと若い層に受けています。手描き重視の作風、中国と比べて古いビルや家が多い街、踏切、古い電車、現金払いの店、EVがほぼゼロの車道、小さなスナック、昭和歌謡など、舞台が「ローテクさが残る懐かしい国」であることも、人気の理由かもしれません。
 そういえば、日本がバブル時代のとき、私もイタリアのベスパやフィアット500、イギリスのローバーミニに惹かれていたっけ。フルモデルチェンジを拒み続けるその姿勢が、今の言葉で言えばまさに「エモかった」からです。
 今、日本が世界でウケているのは、日本が「イタリア化」したからなのかも。衰退に向かう日本ですが、その果てが「レガシーで食べるイタリアみたいな国」ならば、ある意味「老後の準備」がギリギリ間に合ったと言えるのではないでしょうか。

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