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食生活と意見 24年8月頃



某日。
一番好きな食べ物はタンメンで、二番目はトンカツだ。いまでもよく食べる。ただし、うまい脂身も、たくさんはいけなくなった。昔はヒレカツなんて食べる輩は邪道と決めつけていたが、訪問が二度目以降の店だと、最近はたまにヒレカツを注文してしまう。
そのくせ、ときおりカツカレーが無性に食べたくなる。脳が胃の現状認識を、拒否しているのだろう。
中井駅から数分、食べる前から汗をかきかき坂道を登り、住宅街にポツンのトンカツ屋「たかはし」へ。
最近見つけた、初訪店だ。とくに有名店ではないし、近隣のひとしか見つけられない立地である。
なにかで見たここのカツカレーのビジュアルに、惹かれた。ノット・SNS映えの極地。ドロドロと茶色くて、なにがなんやらわからない。ゴハンはすっかり埋没しているし、トンカツの衣もゲル状液に包まれてしまっている。さぞや、息苦しいことだろう。
食べたら、見た目通り。
ゴハンとトンカツとカレーは一体化し、それぞれではなく、まとまり、いやカタマリとして美味い。舌の上に転がして分析などせず、ワシワシと胃の腑へ落とし込んだのち、毛細管現象により這い上がってきた味を、次のひと口とともに呑み込むのだ。
腹、いっぱい。店を出た途端に汗ぐっしょり。
自販機を求めて駅へと向かいつつ、オレ様はまだ若いと脳に叫ばせてやった夏の日であった。



某日。
うちの近所のスーパーだけかもしれないが、ステーキ肉はわりと割引きシールをペタリとされるのに、すき焼き肉はあまりペタリされない。だから、4割引きシールのペタリされたすき焼き肉を見つけた、我が心の天赦日には迷わず手をギュイーンと伸ばす。
夏にすき焼きはない。それに近所にはいい肉屋がいくつもある街なので、すき焼きと決めた我が心の一粒万倍日には、そのうちの一軒でいいお肉を買い求める。
では、どうするか。ほぼ同じだが簡易版のすき焼き丼をつくる。牛肉以外の具材は、長ネギとエノキのみ。
フライパンでこいつらを、すき焼きのタレに日本酒、醤油、味醂を適宜加えたものでさっと炒め煮する。
豪快かつ繊細な根来椀に、ドドンと盛りつければ、豪華かつ安価なドンブリの出来上がり。
日本人の大好きな味で、余は満足じゃ、なのであった。



某日。
二番目にトンカツが好きだが、揚げ物は唐揚げ以外なんでも好きだ。そのせいで「舌バカ」扱いされたこともある。ぼくをバカ扱いは望むところだが、揚げ物をバカにしてはいけない。ぼくは鮨より天ぷらのほうがずっと好きだ。日本人は鮨を有り難がりすぎだ。回転寿司はあっても回転天ぷらがないのは、何故か?
まあ、いいや。
高円寺の、その名も「あげもんや」に行ってきた。リベンジ訪問である。以前行ったときに盛り合わせ定食(アジ、ホタテ、エビ)を頼んだら、「アジを切らしてる」といわれ、同じ価格のメンチに変更となったのだ。
なので、本日の注文はトンカツ定食とアジフライを単品で。
アジフライはソース派と醤油派に分かれるが、ぼくは断然醤油派でもちょびっとだけソースもね、である。
これが最近、トンカツまでそうなってしまっている。本日はトンカツも、アジ同様にしていただいた。おかげで、残さずに済んだ。
問題は醤油を置いていない店が多いことだ。
それは、また。



某日。
あっさりした食事で済ませることも、当然ながらある。
西荻窪の「カネイ」は、近所で一番お気に入りのそば屋だ。予約は取らない。靴を脱いで上がる。中休みはない。味と雰囲気は、これでご想像いただきたい。
写真は載せないが、酒も呑み、つまみいくつかとかき揚げ(揚げ物)もいただきました。あー、ダメだな。



某日。
あっさりした食事をつくることも、当然ながら(たまには)ある。
素麺。つけ汁にナスを入れた。家で揚げ物はしないので、揚げてはいない。油で炒めただけだ。それもオリーブオイルだから、健康的だろう。うーん、ダメかな。



某日。
イカの刺身が安かったので、カルパッチョ風に仕立てた。塩、黒コショウ、オリーブオイルに柑橘の一種、じゃばらの果汁をまぜまぜ。
おー、香りだけで、十分に爽やか。
セロリでやや大人の味にしたまではよかったが、ついフライドオニオンを入れてしまった。健康的には知らないが、これが安いスパークリングによく合ったので、すべて吉。



某日。
おしゃれなものをつくりたくなる日もある。
バゲットの上に、薄切りのズッキーニを生のまま敷き、サーモンスライスを載せ、ゆで卵にセロリとマッシュルームを加えたタルタルソースを盛りつける。
長角皿にトン、トン、トン。
うふっ、素敵。おうちカフェってやつかしらん。
だが、悲しいかなひとり暮らし。だれの目にも触れることなく、我が胃袋へと落ちていったのであった。
だがだが、noteを始めたおかげで、こうして何人かの目に(たぶん)触れる(かもしれない)機会ができた。
よし、としよう。
と、自分に言い聞かせる。
よしよし。



某日。
中学生になってすぐくらいだったか。弟の友だちのお母さんが、我が家にホットサンドプレートのバウルーをプレゼントしてくれた。
結局、これを一番利用したのは腹ペコティーンエイジのぼくだった。
いろいろやったみたが、具材はコンビーフと千切りキャベツに落ち着いた。
それはいまでも変わらない。
スライスチーズを挟んだり、マッシュルームを足したり、マヨネーズや粒マスタードを塗ったりのちょい足しはすることもあるが、コンビーフと千切りキャベツさえあればよい。
ちなみに、コンビーフはノザキのコンビーフに限る。三つ子の魂は知らないが、ティーンの舌は百まで。



某日。
和がらしとともに小皿に投入されたのは、ソースではなく醤油だ。
吉祥寺のとんかつ屋「美とん」は、「とんき」タイプの薄いが密度のある衣をまとったトンカツを、食べさせてくれる。個人的には、代替わりして味がアップしたとも感じている。
低温で揚げた白いトンカツもいいが、これはこれでよろしい。
もっとよろしいのは、ここは醤油がテーブルやカウンターに置いてあることだ。漬物用かもしれないが、トンカツ用としてもどうぞという声がぼくには聴こえる。いや、トンカツ用ですよという声さえ聴こえる。ここのおいしい漬物に、醤油は不要と思えるからだ。
ソースを一切使わず、食べてやったぜ。



某日。
最近は地方のトンカツも、味の向上が目覚ましいようだ。
どれどれと、仙台市五橋にある「えんどう」を予約して訪ねた。人気店なのだ。実際、食べている途中で満席になった。
ここはソース以外に、塩3種類、醤油も用意されている。だが、措いておこう。
サイドメニューとして頼んだ、サーモンフライに驚いた。芯がレアである。サーモンは刺身でもカルパッチョでも食べるのだから、こんな提供もあっていい。いいが、ぼくは初体験だった。半分に切って、断面を見せて皿に載せたくなるのもわかる、見事な揚げ加減であり、見た目に違わぬヌーベルな味わいだった。
牛タンを食べるより、冷やし中華を食べるより、萩の月を食べるより、ぼくには意義深い仙台メシとなった。

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