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『純粋三次元思考本』刊行記念トークイベントレポート

2022年7月9日、島根県芸術文化センターにて『純粋三次元思考本』刊行記念トークイベントを実施しましたので、その模様をお届けいたします。

野村:皆さんこんにちは。本日はお集まりいただきありがとうございます。本日は(島根県芸術文化センター「グラントワ」内の)レストランのポニイさんのご好意で、この時間は貸し切りで、おいしいケーキを楽しみながら、トークを聞いていただけたらなと思っております。
このトークの趣旨ですが、今回、東京からSandSというデザインチームが来ております。彼らとはかなり古い付き合いがあるんですが、僕の結構難解な作品コンセプトにインスパイアされて、なんと『純粋三次元思考本』というタイトルの本を自主的に作ってくれましたので、その本の紹介ができればと思っています。これを今回、ここのミュージアムショップでも販売させていただくことになりました。今日ですよね?届いたのは。

佐々木:ちょうど今朝到着して、さっき置いてもらいました。できたてほやほやです。

野村:僕もまだ、完成品の中身を見れていません(笑)。

佐々木:僕らも今日、完成品は初めて見ました(笑)。

野村:その制作経緯のお話を、1時間ぐらいのトークでできたらなということなので、よろしくお願いします。

佐々木:じゃあまず、自己紹介からしますね。皆さんこんにちは。野村さんの瞑想ワークショップの流れで来ていただいてる方も、たくさんいらっしゃると思うんですが、僕ら、東京でデザインチームをやっているSandSの佐々木と申します。益田には初めて来ました。よろしくお願いいたします。

高井:皆さんこんにちは。同じくSandSの高井と申します。野村さんとは、この後のトークの中でも紹介があると思うんですが、2015年くらいから、もともと野村さん作品のアートコレクターの1人としてお付き合いがありました。そこからの流れで、野村さんの活動のご支援を色々とさせていただくようになって、今回の本の制作にもつながっています。よろしくお願いいたします。

野村:SandSっていうのは4人グループで、高井さんと佐々木さんと、あとは浅見さんと林さんという、それぞれが特殊なスキルを持ったプロフェッショナル集団が4人で集まって、悪いことを考えようってことでできたグループなんですけど。このグループを結成する前から、お仕事とかアート関係とかでお付き合いがあったメンバーが新しく面白いことを始めるというので、僕の作品も面白いことしてくださいみたいな感じで、コロナの最中にオンラインで話し始めたのがきっかけです。まさに、今回の作品をどう作るかっていうところから、コンセプトミーティングや色々なディスカッションをさせていただいて、その中で、『純粋三次元』っていう考え方を起点に、自分たちの思考を膨らませるような本を作りたいです、みたいな話の流れで、本当に作っちゃったっていう。

高井:作っちゃいました。

野村:なので今日は、どんな本なのかっていうところも踏まえつつ、どういう経緯でこういう話になったのかみたいなことを、ざっくばらんに話していきたいと思います。

佐々木:もうちょっとだけ、僕らと野村さんとの関係性を、お話しできればなと思ってて。高井さんの方は、先ほど2015年からと言ってたよね。

高井:そうですね。東京の神田にある『3331 Arts Chiyoda』というところで毎年アートフェアがあるんですが、そこに野村さんが出品されてて、僕がプライズセレクターの1人として参加していたのが、初めての出会いでしたね。そこで作品を見て、購入したのが2015年。

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野村:この作品を購入してくれたっていうのが、出発点ですね。

佐々木:野村さんの駆け出しの頃ですか?

野村:2015年なので、今のコンセプトにつながる前段階ぐらいで、数学と芸術の中間みたいなところでリサーチしていました。葛飾北斎の波の絵があるんですが、自然の造形である波の形を、違う自然の風景に置き換える絵を考えていて。そのときに作った作品が『Topological Landscape』というものです。それをアートフェアに出していたところ、20代半ばの若いコレクターとして高井さんが登場して。周りはすごいおじさんたちのベテランのコレクターばっかりなんですけど、面白い若者が来たみたいな感じで声掛けたら、高井さんがこの作品をプライズしてくださって。

佐々木:高井さんは、なんでそのアートフェアにいたの? 

高井:3331 ART FAIR が立ち上がる時に、知り合いのislandJAPANというアートギャラリーの伊藤さんという方がそこに関わっていて、アートサービスやアートフェアの企画を一緒に考えていたことがあり、そのつながりで初回から参加させてもらっていました。

野村:お二人が前に所属していた会社の話って、公にしても大丈夫ですか?

高井:もちろん、大丈夫です。

野村:東京の渋谷にあるロフトワークという、とてもクリエイティブなお仕事を手掛けているデザイン会社があって、オフィス空間の作りから何から、すごく面白いんですよ。その中で働いていたのが、高井さんや佐々木さんなんです。

高井:そうですね。僕と佐々木さんともう一人いて、3人がそうですね。

野村:そのロフワークからスピンアウトして、また別の会社にそれぞれ行くんですが、サイドワーク的にチームを組んだっていうのがSandSなんですよね。僕は、皆さんがまだロフトワークにいた時に、2016年くらいでしたっけ?文具メーカーのぺんてるの『オレンズネロ』っていう、シャーペンのプロモーション案件でご一緒したんですよね。

佐々木:そうですね。ぺんてるのフラッグシップモデルで、折れづらい芯でワンノックでずっと書け続けられる、3,000円する高級シャーペンでしたね。

野村:そのプロモーション動画に僕を起用してくださったんです。

佐々木:ずっと書き続けられるシャーペンなので、野村さんが真っ白な窓のない空間で、マッドサイエンティスト的にひたすらアートを描いているっていう動画でした(笑)。

野村:コンピューターのプログラミングは、哲学カルチャーマガジン『ニューQ』っていう本を出しているセオ商事という会社がやってくれました。『ニューQ』は『純粋三次元思考本』とともに、ミュージアムショップで販売しているので、皆さん後で見てみてください。

佐々木:懐かしいですね。僕は初めて芸術家の方にお仕事を依頼したので、すごく緊張した記憶がありますけど、野村さんはどんな印象でした?

野村:芸術家とかでなく、全然まだ駆け出しだった頃だったので、すごい大きい仕事をいただいて、こっちが緊張してました。

佐々木:そうでしたか(笑)。

野村:これが、我々の関係性でございます。あとは、本の話をちょっとしたいなと思ってます。

佐々木:そうですね、ぜひ。

なぜ、『純粋三次元思考本』を作ったのか。

野村:そもそも、何で作ったんでしたっけ?

高井:僕は野村さんの作品をずっとコレクターとしても見ていたんですが、2020年にニューヨークで発表されたインスタレーションで、『Pion』というタイトルの体験型の作品がこの本のベースとなる考え方というか、制作につながったんです。
『Pion』は、野村さんが高次元というものをテーマに、色々な作品制作をされている中で、ハーフミラーによる重ね合わせで高次元知覚の疑似体験ができるインスタレーション作品なんですが、より純粋に高次元知覚の体験に近づくためには、純粋な三次元空間=宇宙空間に身を置くっていうのが重要なファクターなんじゃないか、みたいなお話を野村さんがしていて。なぜなら、僕らがいる地球には重力があって、重力下に僕らはいて、上から下へのバイアスが無意識にかかっているんですよね。至極当たり前の話だから、当たり前すぎて意識もしてないんですが。

高井:そうそう、欲求に駆られた感じですね。

野村:いいですね。

高井:普通の、いわゆるビジネスの文脈の中だと、利益にならないとなかなかやれないことだったりとか、そういうしがらみがあったりすると思うんですが、そこから外れて、やりたいこととか、自身の中から出てくる、価値のあると思ったことを、形にするためのオルタナティブな場としてSandSを作ったっていうところもあります。それが、うまいタイミングで、アイデアとチームという受け皿ができたというところで、この本を作ることができました。

野村:純粋三次元っていう言葉自体、そもそもまだ聞き慣れない言葉ですよね。というのも、初めて僕が言ったからっていうのもあるし、今日の瞑想ワークショップとも通じるんですけど、ある種、我々って地球に生まれ落ちた時から、この環境がデフォルトな空間なので、重力に引っ張られてるっていうのが当然な環境の中で、進化してきて適応してきたわけです。当たり前といえば当たり前なんですけど。いわゆる次元っていう問題で考えると、前後左右と上下方向、まさに重力に引っ張られています。一般的に私たちは、三次元空間に生きてるって言われてるんですけど、実際には、純粋な三次元空間じゃないと思うんです。前後左右に対して、上下だけが特殊な方向性ではありませんか、と。
いよいよ宇宙時代が本当に現実味を帯びてきた現代において、宇宙に行くっていうことは、どういうインパクトがあるんだろうかと思った時に、上下方向にかかってた重力バイアスからから解放されるってことが、めちゃくちゃ大きな転換なんじゃないかと思っています。その空間には初めて純粋な三つの方向ができ、それぞれが等価で純粋な空間を経験するっていうことになるんじゃないかってことで、『純粋三次元空間』と言ったんです。この考え方に基づき、今までの色々なものを捉え直したら、違う発想や見方になるんじゃないかと思ってます。で、そういう話が、この本に詰まってるわけですね。

高井:はい、その考え方を『純粋三次元思考』と名付けてみました。野村さんやその他のクリエイターなどとディスカッションをしていって、その中でのプラクティスだったりをこの本には載せています。

佐々木:最初、純粋三次元空間って野村さんが言ってたのが、普通に言葉としてあると思ってて、ググってみたらなかったんですよ。僕、これって野村さんが作った言葉なんですねっていうことを、ついこの前、東京に野村さんがいらした時に初めて知ったぐらいです(笑)。

野村:作ったかどうかは記憶にないんですよ(笑)。どっかに出てたのかもしれないんですけど、出てこないんですよね、検索しても。でもこれは、空間認知の話だけじゃなく、社会システムの中にもピラミッド型の構造がずっと続いています。お金持ちが一握りで貧乏人が下みたいなのとか。あと、権力者が上で市民が下、みたいな。会社の中でも上司と部下、クライアント(発注側)と受注側、みたいな。この関係って全部、重力バイアスだと言ってしまえ、と。

佐々木:純粋三次元空間に行くことって、これから宇宙時代になっていきますけど、まだまだ難しいですよね。

野村:まだですね。

高井:純粋三次元空間を体験しようと言っても、簡単にできるものではないですけど、ただ、考え方として重力や上下のバイアスみたいなものを、取っ払って物事を考えてみるっていうことはできると思っています。頭の体操というか、思考の軛を解き放つようなものになると、面白いことを考える人がもっと増えるんじゃないかなっていう、そんな気がしています。

野村:そうですね。そして今回のこの本が面白いのは、僕はほとんど企画や制作に関わってないということなんです。高井さんと僕が対談したっていう、そこだけですね。本をどんな内容にするかはSandSチームが本当に全部やってます。たぶん僕が関わっていたら、全然違う話になってたと思うんですよ。だからそういう意味では、これまで話してきた考え方自体が持つ可能性や視点は、僕が考えてるだけよりも、より広いはずです。だから僕自身はどんな話が出てくるのかなって、すごい興味があるんです。ちなみに、これが純粋三次元思考だ、と説明してる箇所ってどこになるんですか?

佐々木:この辺りですかね。冒頭、野村さんと高井さんの対談があり、その後にSandSの4人でクロストークをしてるんですが、そこで詳しく書いてます。インタビューも色々な人にさせていただいて、それぞれの純粋三次元的な思考を語ってもらってます。1人は高橋鷹山さんっていう方です。大学院時代にJAXAで宇宙事業に取り組もうと思って研究員をしていたんですが、そこで感じたのが、宇宙領域は政治や経済状況で、結構、研究開発が止まってしまうことがあったみたいで。だったら、自分で会社作ってやった方がいいねっていうことで、OUTSENSEっていう会社を作って宇宙領域の事業をやってる方です。コア技術として、折り紙構造っていう技術があって、家をパタパタと折りたたんでち小さくして、ジェットに乗せて打ち上げて、月に行ったらパカって広げて家を建てる、みたいなことを本気でやっています。そもそも、月に家を建てるという、僕らからしたら考えもしてなかったことを、どういうきっかけで考えるようになったのか、誰も達成したことがないことを、どんな風に思考して進めているのか、まさに純粋三次元思考をナチュラルに実践している人でした。

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野村:僕も去年の11月にドバイで国際宇宙会議というのに参加して、民間の宇宙ベンチャーやJAXAやNASAなどが集まる国際会議なんですが、それこそ、常に極限な環境で、これから人類が出ていく時に何が必要かみたいな議論を聞くことができました。地球はあまりにも豊かすぎるから、普通に生活してたら気付けないんですよね。でも、火星や月や宇宙空間に出るっていうことをスタートで考えると、どういう人たちが行くべきだ、どんな資材を持っていくか、どういうテクノロジーを使うか、みたいな思考になる。

高井:そうですね。純粋三次元思考は、前提条件を取っ払って、クリティカルに考えてみるっていう思考実験なんですよね。実際に本の中にも、コロナが広がった頃に書いた短いSF小説があるんですが、「もし〇〇だったら社会や僕らの生活ってどう変わっていくだろう?」っていう、思考実験みたいなことをやってます。これは別名、スペキュラティブデザインっていうもので、ビジネスシーンなどでも活用されている手法なんです。

佐々木:その小説の中では、コロナになって日本がロックダウンする、みたいなことが結構序盤の方で頻発してるんですけど、もし人の移動が制限され、移動することに対してポイントを支払わないと移動ができないというような条件が出された時に、社会がどう変わって、そこに生きる人々は何を思い、どんな葛藤や課題が出てくるんだろうか、みたいなことを書いたんです。

野村:あるOLの1日みたいな、変な設定を1個入れて、それを持ち回りでそれぞれが担当し書いてますよね。ルールとしては、移動するのにムーブっていうポイントみたいなものが政府から発行されて、そんな条件の中で、普通のOLさんがどうするかみたいなやつを、オムニバス形式につないで。どんだけ仲良いんだよ(笑)、と思いながら、でもすごい面白いお話が展開されてて。結構あるかも、みたいな展開でした。

高井:もちろん、僕らはプロの小説家では全然ないので、小説としてのクオリティは決して高くはないと思うんですが、そういった思考実験をすることによって、例えば、監視社会みたいなものが行き着くとどうなるんだろう、であったり、お金ではなくてムーブっていう別の価値が世の中に入ってきた時に、今の資本主義を至上とした社会の構造ってどう変わるんだろう、みたいなことを考えることができます。逆に、そういった社会の中でも変わらない人の想いであったりとか、大事にすることみたいなものは、どんなものだろう、と妄想しながら書いてみたものですね。

野村:お金じゃないトークンみたいなものを発行して、それをシェアしちゃったり育ててみたり、違う価値で交換し合うみたいなことが、今実際にリアルな現実社会に出てきてたりするので、そういう意味では、すごい予言の書かもですね。

高井:事実は小説より奇なりというか、想像することよりもすごいスピードで、想像もしないような社会の変化だったりとかがあると思うんですけど。これって、思考実験をすることによって、僕ら自身の生活だとか、仕事をする身としての、予行練習だったり、心の準備だったり、あるいは何か課題が起きたときの対処方法になるかもしれない。ショックで何もできない...みたいなことに陥らないために、こういった前提条件、固定観念みたいなものを取っ払って物事を考えてみるみたいな思考回路を作っておくっていうのは、誰にとっても、やっておくといいんじゃないかなっていう気はしてますね。僕らは大体、普段からこんな話ばっかりしてるんですが(笑)。

野村:思考実験ってすごい面白いですよね。だから、重力がない状態はリアルに体験しようと思ったらまだまだ先ですし、体で経験するっていうのはまだできないけれども、思考実験をしておくことでメタ的な視点を持てるのは、まさにアートが提示してたりする視点の違いだったり、物事を別の角度から見たりするっていうのと同じです。自分たちの世界を、ぱっと広げてあげるための方法として、ある種、思考実験というのがアートかもしれないですね。

高井:まさにそうですね。野村さんは現代美術のアーティストで、僕らは基本的にはビジネスマンっていうことになるんですけど、普段、今あるものに対して、別の角度でのものを見るという態度は、共通して持つべき態度というか。そこは僕らとしても、すごく野村さんだったり、アートってものに対して共感を覚えるところなので、そういったところが共鳴して、今回のように一緒に何かをやるっていうところに通じたような気がしますね。

野村:それで言うと、今回の展覧会のサブタイトルにスペキュラティブっていう耳慣れない言葉が入ったんですけど、あれは、ものを考えるための何か、みたいな考え方です。スペキュラティブデザイン自体は、デザイン業界では、結構前に出てきたと思うんですけど。

高井:そうですね。そこはつながってくると思いますね。

これからの時代のアーティスト像とは?

佐々木:話は変わりますが、今年に入ってから、野村さんが今以上に世界で大活躍するには、どんなことが必要だろうか?みたいなことを話してましたよね。

野村:そうですね。もっとステップアップしていくために、何が必要かみたいなことを悩んでた時期というか、常に悩んではいるんですけど。そういうのを、スペキュラティブデザイン的な考え方でやってみてくださいよ、みたいな無茶振りをして、面白そうですねって言うんで、彼らのビジネススキルやデザインスキルなどを投入して、僕が考えていることなどを可視化するのを手伝ってもらってたんです。

佐々木:何回もディスカッションしました。美術館で話していいのか分かんないんですけど、アート業界について野村さんが思ってることとかも聞いたり。歴史があるから色々とあるんですよね(笑)。

野村:あの頃は、悪口を言いたかったんだよね(笑)。

佐々木:お金を出す人とアーティストとか、ギャラリーとアーティストの関係性とか。プレイヤーがずっと同じというか、構造があまり変わってないんですよね。だから、その中で、野村さんが何か違うアプローチってできないのかなみたいな話をしてくれて。まさに別次元で活動するアーティスト像みたいなのってあるんじゃないか、みたいなことを色々と話していたんですよね。

佐々木:オープンなんだけど個人のアーティストで、個人なんだけどチームっぽいというか。別の次元の別のアプローチっていうのを模索してました。今日の瞑想ワークショップに参加された方はチームだと思うし、ちょっとオープンな感じというか。野村さんがいて、そこにインスパイアされた人たちがいるみたいな、そんな構造やアプローチができないのかな、という話をしてた感じですね。その中で、野村さんに改名を提案したんです(笑)、半分本気で半分冗談で。

野村:名前をね。

佐々木:考えていく中で『ユナイテッド』っていう言葉が出てきたんです。チームでも個人でもあって、コミュニティではない、みたいな。強い個人が集まって、意志のある個人が集まって合併した連合軍のようなものです。サッカーでも結構使われますよね、マンチェスターユナイテッドとか。そこから『野村ユナイテッド康生』を提案しました。

高井:さすがに改名までには至りませんでしたが、ユナイテッドみたいな概念を野村さんが纏って、それが飛び火して、その周りの人がムーブメントを作っていくようなことを思い描いていました。

野村:提案されてからは、ユナイテッド作りみたいなことが頭の片隅にあり、君はユナイテッドだ、みたいな感じで、色々物事が動き始めてきて。今回の本も、ユナイテッドとして勝手にでき上がってきたという感じですし。この今着ている『PionTシャツ』も、今日の登壇者には着てもらってますが、これも僕の同級生のオダ君が作ってくれました。今そこでスマホいじってますけど。彼はアパレルメーカー出身で、今益田に帰ってきて、マスコスホテルのガウンをデザインしたりしてます。だったら、PionTシャツも作ってよ、みたいな感じでお願いしてできたのがこのTシャツです。さらに、今日来てる益田工房のみんなも同級生で、ずっと昔から知っている仲間にそれぞれ作ってもらったり。Pionコースターっていうのは、マスコスホテルで作ってもらってたりします。こんな感じで、ユナイテッド的な動きをやっていきながら、今回は作品づくりも、実は非常ユナイテッド的な形ででき上がったところがあります。

高井:制作協力者のところに、色々な方の名前が書かれてましたよね。

野村:最初、僕一人で作るって豪語してやってたんだけど、全然できませんみたいな感じになり、周りにいた仲間たちが力を貸してくれたり、美術館の皆さんなども力を貸してくださって、本当にユナイテッド的な動きででき上がって。そういう意味では、SandSと一緒に描いた道筋に近づいているなっていうのはあります。

高井:同じアーティスト同士で組むアートコレクティブ型であったり、1人の強い人の下に、手足となっている人がいるファクトリー型だったりとか、結構あると思うんですけど、そうじゃない新しいチーム像みたいなものがあると思うんです。皆さんも僕らもそうですが、野村さんから発注を受けてやってるチームでもないですし、そういうはっきりした上下関係とかではなく、野村さんがやろうとしてること、描こうとしていることに対して、何か心のどこかでの共感で緩やかにつながって、自発的・自律的・有機的に作っていくチームみたいなやり方にすごく可能性を感じています。これがより多くの人を巻き込んで、社会を動かしていく。そういうことができると、野村さんがゆくゆくは、新しい世界の新たな巨匠みたいな形になるんじゃないかなと思ってます。

野村:でも、個が巨匠になる時代は終わったと思ってます。Pionは他者が重ね合わさって現象になります。個と個、あなたと私が、お互いの個性を持ち合って、重ね合わさったモアレ現象みたいなことを、一つのリアリティとして共同創造する。それは、非常に四次元的な考え方なんですね。そういうものが、一対一だけじゃなくて、一対多、それぞれの重ね合わせによって、70-80億人の人が共同創造するっていう。さらに言うと、共同創造っていうのは、個を失うことじゃなくて、己の個性が投影されたモノが向こうからも投影されてて、それを重ね合わせるんで、自分を失うことがないわけなんです。これがつまり、ユナイテッドなんです。
個の名前とかって必要ないわけですよ。だから本当にアノニマス化していく。宇宙時代の思想っていうのは、そんな感じになるべきです。そういうようなことを考えながらやっております。Dementionismっていうのは、ある意味、次元っていう問題を考えに入れることで、そういう社会的な視点を持たせたりもしています。

高井:そうですね。野村さんの作品とか思想みたいなところから、インスパイアされた人が勝手に作るのが面白いなと思っていて。僕らは今、そういう感じなんですよ。勝手にどんどん作っていくと、その勝手が野村さんを形作っていく可能性もあるんですよね。野村さんが、もしかしたら作品を作らなくなる、とかもありうる。

野村:そうですね。それは、出てくるかもしれないですね。

高井:そういうのができると、すごく盛り上がってきそうかなって思います。それがムーブメントですね。

野村:だから、今日のワークショップも、ある意味、作品を外から見るっていう鑑賞体験だったものを、見てる自分に目を向けて、自分とはどういう世界かっていうことに気付くワークっていうのがメインだったんですけど。アートとの関わり方がそんな風になってきたらいいですし、野村康生の作品を見に来るんじゃなくて。そこから新しいコンセプトなんかも作ってもいいし。それが、ユナイテッドかなぁと思ってます。

佐々木:いいですね。まだまだ話していたいですが、いい時間になってきましたので、そろそろ締めに入りましょうか?

野村:そうですね。一応、冒頭でもお伝えした通り、美術館のミュージアムショップにも置いていただいているんですが、自主制作なので、部数が限られています。ぜひ興味のある方は手に取ってもらえればなと思っております。

高井:今日話したことの、もう少し詳細みたいなことが書かれているので、ぜひ読んでいただけると。一緒にユナイテッドになり、ユナイテッドの一員としてコトを起こしてもらえると、僕は一番嬉しいなと思っています。そういうものが、面白い世界を作っていくんだろうなって思っております。

佐々木:本当にそうですね。今日は皆さん、お付き合いいただき、ありがとうございました。

野村:ありがとうございました。

高井:ありがとうございました。

『純粋三次元思考本 -The Pure Three Dimensional Thinking Handbook-』
・編集:浅見 和彦・佐々木 星児・高井 勇輝・林 直樹
・アートディレクション/デザイン:大田 拓未
・スペシャルサンクス:藤野 清太郎
・仕様:A5変形/76ページ
・定価:1,100円(税込)

※『純粋三次元思考本』は、以下のSTORESにてお買い求めいただけます。


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