【憲法#1-人権#1】人権享有者【行政書士】
前回の記事では憲法の基礎について教えました。その中でよく出てきた「国民の自由・人権を守るため」というフレーズに含まれる、おそらく憲法で一番大事な考え、「人権」について教えていきます。
人権の種類
日本国憲法で様々な人権が保障されていますが、どんなものがあると思いますか?
人権の種類は大まかに分けて4つあります。
自由権
精神的自由
経済的自由
人身の自由
社会権
生存権
教育を受ける権利など
参政権
公務員の選定
被選挙権など
受益権
裁判を受ける権利など
自由権
私たちは日本国内で政治批判をした作品を作ってもキリスト教を信仰しても捕まりません。実は全世界の国が同じではありません。政治批判で逮捕されたり、違う宗教を侵攻しただけで罰を受ける国も21世紀現在も存在しています。私たちが捕まらないのは「精神的自由」が保証されているからです。
また私たちは自分の好きな職業につくことができます。親が農家でもお医者さんでも、歌手を目指したり、YouTuber になることもできます。私たちに職業選択の自由があり、やりたい職業につくことができます。これは「経済的自由」が保証されているからです。
しかし、一部資格が必要な職業がありますよね?例えば医師や教師などがそれにあたりますが、資格が必要な理由がしっかりあります。資格ない人が医師や教師になると他の人の人権を無視してしまう恐れがあるからです。上の表にある通り、私たちには生存権と教育を受ける権利があります。医師免許持ってない人に手術を受けるのは怖いですよね?理科を全く知らない人に実験を教わりたくないですよね?これらの職業は他の人の人権に影響を及ぼすため、国がしっかり国家資格を設けて許可のある人しかその職業に就けません。
自由権の最後の権利は「人身の自由」です。これは私たちが奴隷的拘束などをされない権利です。私たちは自由に動き回ることができ、好きなことをしても良いという権利を持っています。なので、不当な理由で国家権力に捕まったり、拘束されたり、働かされたりしないです。
自由権というのは「国家からの自由」を保証していて、国民が好きな活動を国に制限されずにすることができます。なので、「国から〇〇されない権利」とも言われます。
社会権
自由権と反対に立場にあるのが「社会権」です。これは、「国から〇〇してもらう権利」とも言われ、国家から国民が良い生活を送れるように保護したり教育してもらう権利です。この権利によって、国民は学校に行くことができ、生活に困った場合は生活保護などを受け取れます。また警察や消防などで守ってもらうのも社会権に含まれます。
人権享有主体について
ただ単に人権と言っても誰にどのように保証されるのかわからないことがあります。例えば外国人や法人の場合はどうでしょうか?国民のために働いている公務員の人権はどうでしょうか?犯罪を犯して逮捕された在監者には人権はあるのでしょうか?
外国人には人権はあるのか?
ここまでの文章で「国民」という言葉を多用しましたが、外国人にも人権があり、国はそれは原則保証しなくてはなりません。しかし、すべての人権が外国人に保証されるわけではありません。どのような人権が保証されて、どの人権が保証されないと思いますか?
出入国の自由
原則、日本国は日本国民の人権を最優先で考えなければなりません。なので、日本国民が困るようなことがあれば、外国人を制限する必要があります。全世界どの国にもある制限は出入国の制限です。
日本人は日本から出国する自由も入国する自由も保証されています。どんなことがあっても日本人の入国を国は拒否することはできません。2021年に流行ったコロナウィルス・オミクロン株の流行により、政府は指定の国に滞在した日本人の入国を拒否するといった発表をしましたがすぐに取り消しました。(要確認)これは、入国したい日本人の入国を拒否することができないからです。
しかし、外国人に関しては話が変わってきます。もし外国人が制限なく日本に入って来たら日本人の人権が侵害される恐れがあります。例えば外国人がすべての仕事を安く請け負ったら、日本人の職業の自由が侵害されるかもしれません。外国人が大量に入国してきたら食糧不足などにより日本人の生存権が侵害されるかもしれません。なので、外国人の入国は制限されていて、日本国政府の許可がない限り入国は原則できないとなっています。また、入国後の在留期間にも制限があり、一度入国しても永遠に日本国にとどまることはできないです。
政治的活動の自由
多くの人は外国人に政治的活動の自由がないと思うかもしれませんが、実は原則として認められています。2022年のロシアのウクライナ侵攻があったことで、在日ウクライナ人が戦争反対のデモ活動を行いましたが、これも政治活動の一部であり認められています。
しかし外国人は政治参加はできないです。なぜなら外国人の「国政選挙権」と「地方選挙権」は保証されていないからです。憲法では保証されていないが、「地方選挙権」については永住者に対して付与しようという動きも一部の地域であります。「地方選挙権」の付与は憲法で禁止されてもいないため、法律により付与することもあり得ます。
マクリーン事件
上記の出入国の自由と政治的活動の自由を取り扱った代表的な事件が「マクリーン事件(最大判昭53.10.4)」です。
簡単にまとめると、在留期間中であれば日本国政治の意思決定に大きな影響を及ぼさない限り政治活動の自由は認めますが、在留期間の更新は法務大臣の許可が必要であり、その政治活動を「危険」と判断した場合は更新を認めない可能性があるということになります。
職業選択の自由
外国人の職業選択にも大きな制限があります。原則就労ビザで入国した人は、許可された会社以外で働くことは禁止されており、もし退職した場合はビザの期限に関わらず失効します。なので、もし外国人が転職する場合は在留資格の更新を行い、もう一度国から許可をもらう必要があります。
外国人の社会権について
日本人国民なら社会権のおかげ生活保護や必要な補助を国から受けることができますが、外国人の場合は同じ補助が受けられない可能性があります。この理由は国や地方の福祉的給付の財源が限られているため、自国民を在留外国人より優先的に扱うことが許されているからです。
法人に人権はあるのか?
外国人に原則として人権が保証されるのと同じく、法人にも可能な限り人権が保証されます。しかし、外国人の人権と同様、法人に選挙権は保証されていません。では、「政治活動の自由」は保証されるのでしょうか?これについて取り扱った代表的な判例で「八幡製鉄政治献金事件(最大判昭45.6.24)」があります。
八幡製鉄政治献金事件
なので、法人には選挙権はないが、会社の営利活動に有利な政策をしてもらい、会社の利益を上げるための政治献金は、会社の目的範囲内の行為と言え、認めらるということになります。
しかし、株式会社ではない団体の場合はどうでしょうか?株式会社以外を取り扱った代表的な判例に「南九州税理士会事件(最判平8.3.19)」があります。
南九州税理士会事件
税理士会の目的は「会員の指導や監督」であり、業界を税理士に有利なものにすることではないため、献金は目的範囲外の行為とされました。また、株式会社などと違い、強制加入団体であり、脱退の自由もないため、税理士会が会員を代表して献金することは、会員の政治活動の自由を奪う行為とも捉えられます。
なので、法人や団体の人権というのは原則認められますが、権利範囲内の行為に制限されることもあります。
公務員の人権について
公務員にも原則人権は保証されます。しかし、政治的中立性・公平性の観点から、政治活動については一般人と違い制限されます。
公務員の政治活動
一般国民は憲法21条により、「表現の自由」が保証されているため、政党の応援などの政治活動については保証されていますが、公務員の場合は、国家公務員法で禁止されています。これについては「目黒(堀越)事件(最判平24.12.7)」で論争され、結果、国家公務員法で禁止することは合憲となりました。
つまり、政治的行為を禁止する国家公務員法は認めらるが、今回の政党紙の配布活動は、管理職でないものが行なったため、政治的行為に当たらないため無罪と判断されました。政治的行為を禁止する国家公務員法はすべての政治活動を禁止しているわけではなく、国民の信頼を損なうような活動に限って禁止しているということになります。
対照的な判例として「世田谷事件(最判平24.12.7)」があります。この事件では、同じく政党紙の配布を行なったが、行なった人が管理職的地位にある公務員だったため、有罪判決を受けました。管理的地位にあるものは、一般の公務員と違って、国民への影響力や他の公務員への影響力が大きいため、国民の信頼を損なう恐れがあると判断されました。
公務員は争議行為が禁止されている
公務員hが政治活動以外で制限されている行為が争議活動です。争議活動とはストライキなど行い業務を放棄し、環境改善を図る行為です。一般国民なら、憲法28条「労働基本権」で保証されていますが、公務員の場合は「国家公務員法」で禁止されています。この法律は「全農林警職法事件(最大判昭48.4.25)」の判例で合憲とされました。
公務員がストライキは国民に多大な影響を与えます。例えば、役所がストライキにより休みになった場合は、国民が必要手続きが行えなくなります。もし警察がストライキで休みになると、事件が発生しても警察が来てくれません。消防署がストライキで休みになると、火事が起きても火は消せないです。なので、国民が公務員のストライキにより困ってしまい、社会権が侵害される可能性があるため、法律で禁止されています。
在監者に人権はあるか?
在監者にも、今までの例と同様、原則人権が保証されていますが、逃亡の防止・監獄内の秩序維持のために、一般国民と違い、「人身の自由」などに制限があります。
在監者の人権で代表的な判例が二つあります。「喫煙禁止事件(最大判昭45.9.16)」と「よど号ハイジャックきじ抹消事件(最大判昭58.6.22)」です。
「喫煙禁止事件(最大判昭45.9.16)」では、在監者の喫煙の禁止が合憲かどうかが争われましたが、禁止することは合憲という判例になりました。喫煙の自由は、あらゆる時、所において保証されなければならないものではないと判断されたからです。
「よど号ハイジャック記事抹消事件(最大判昭58.6.22)」では、在監者が閲覧できる新聞で、一部の記事を削除することが合憲かどうかが争われましたが、記事によっては削除することが合憲という判例になりました。未決拘禁者(犯罪容疑で逮捕されて、判決確定までの間、掲示施設に収容されている人)に事件に関する記事の閲覧を許した場合は、拘置所内の秩序の維持に放置することのできない程度の障害が生ずる相当の蓋然性があると判断されたからです。相当の蓋然性(がいぜんせい)とは、かなり高い確率という意味になります。
まとめ
今回は人権の種類と、人権享有者についてまとめました!どうでしたか?
人権は原則誰にでも保証されなければいけないですが、立場や場合によっては制限を受けます。またすべての人権が保証されていない国もあります。外国人、法人、公務員や在監者にすべての人権が保証されるわけではないですが、一般国民の人権は保証されるということがわかったかと思います。次回は、人権の限界についてと各人権について詳しく紹介します!