11月14日はパチンコの日。
黄色いサングラスのおじさんは、普通の白い紙ではなく、プラスチックで出来たような透けた名刺を私の上司に差し出した。
法人成りしていて、代表取締役。
さて、実力はどうだろう。
一般的に、会社を立ち上げている人は、さもすごい人なんだろうと思われている。
実際は、最初にかかる30万円ほどの登記費用を払って、毎年7万円ほど税金を納めるだけで、たった1人の株式会社を作れてしまう。
以前は、設立にあたって1000万円の資本金要件があったのだが、2006年の新会社法の施行により、資本金要件は1円まで引き下げられた。
「おしゃれな名刺ですね。」
上司は、定石通りの会話を始めた。
「そうそう、この紙はね…」
黄色いサングラスのコンサルタントを名乗るおじさん(以下、黄猿)は、同席している小娘の私を見て見ぬふりをしたので、名刺が渡ってこなかった。
しょうがないので、私から名刺を差し出す。
上司はあくまで補助役で、案件の主担当者は私だからだ。
名刺の資格欄を見ると、ファイナンシャルプランナーと、ぽつんと書いてあるだけだった。級が書いていない。こういう人は1級を持っていない。
上司が「怪しいから警戒して」という合図を送ってきた。私も同感だった。
うちの会社では、得意分野ごとに担当者を決めている。
中東地域との貿易会社担当は、私より3つ年上の先輩で、スパイスの香りのする資料と、いつもにらめっこしている。
中国や韓国の貿易会社担当は、今年結婚した部長。流暢な韓国語で、夜の街へ出稼ぎに来た若い女の子を、口説く姿がもう見られなくなって寂しい。
小娘の私は、国内の会社しか経験していない。
ただ、ギャンブル分野にだけは長けている。
私以外の人が、パチンコやスロットを扱う会社の仕事をすると、仕事終わりに打ちに行きたい衝動にかられるらしい。そのせいか、歴代の担当者は皆パチンコの沼にハマってきた。
ただ、私だけはハマらなかった。
ギャンブル以前に、ゲームに興味がないからだ。
淡々と仕事をこなすことができるから適任だった。経験値は年々増えてゆき、「遊技業のこれからの経営戦略」という社内レポートは全国的に表彰された。
コンサル黄猿はそんなことを知る由もなく、パチンコ店を営むA社を巡る会議は私抜きで進んでいく。
一貫して、上司はいつもに増して丁寧な口調で説明していた。
「おかわり!」「コーヒーになさいますか?」
2時間の間に一度だけ、私がお茶汲みとして人権を取り戻した瞬間があった。残念ながら発言権を得たのはその時だけだった。
一通りの話がまとまり、コンサル黄猿が帰った後、
上司は空中に向かって、思い切りみぞおちあたりを蹴るふりをした。
空想の敵は、真っ二つに割れた。
「ほんまに胡散臭いやつやったなぁ、クソ!!」
私も一緒になって、シャドウボクシングで応戦した。
たまに招かざる客が来ると、総合格闘技のリングになる職場が、好きだ。
さっきまでネパール人と電話していた先輩が、私たちを見て笑っている。
最後まで読んでくださりありがとうございます! 今日も良い一日を過ごせますように!!