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【舞台台本】最高に相性のいい私たち


はじめに

こちらは2023年に公演した、劇団びにぃるの旗揚げ公演『最高に相性のいい私たち』の舞台脚本になります。

今年度は11月02日~04日にて本公演を行います。
ぜひお時間ありましたら劇場でお会いできると幸いです。
詳細はこちら「劇団びにぃる|公式サイト

第一章

1 シェアハウスMEETS(回想)

   机の前で総立ちになりながら向かい合う5人。
   それぞれが互いを値踏みするように目を彷徨わせる。
   その中で苛立ち混じりにサーヤが春香を睨む。

サーヤ「え、じゃあ何、春香はあたしら疑ってんの?」

   春香、おどおどしながら首を振る。

春香 「そういう訳じゃないけど。でもどう考えてもおかしいっていうか」

サーヤ「やっぱり疑ってるじゃん」

のっち「やめとけって。それに春香の言う通りだろ」

みいこ「そ。データといいこのシェアハウスのルールといい、何かはおかしいのは確かよ」

サーヤ「それは向こうが勝手にやってた事で、あたしらは関係ない」

   食いかかるサーヤに、みいこが薄ら寒い笑みを浮かべる。

みいこ「だから春香はこう言ってるんでしょう? 私達の誰かに協力者がいるんじゃないかって」

サーヤ「はあ? もしかしてあんたがそうなんじゃないでしょうね」

ユウゴ「ちょ、ちょっと一旦落ち着こう? 俺たち一応あんな仲良かったんだし!」

サーヤ「何でちょっと悲劇のヒロインポジションなのよ。あんたも大概だったじゃん」

みいこ「てかまだ頭の弱いこと言ってる。あれも結局データがー」

のっち「そこまで! そこまで!」

   のっち、両手で浮き足立つ4人をなだめる。

のっち「ちょっと1回整理しよう。折角こうして2週間も共同生活してきたんだし、このまま「はい解散」ってできない事情もそれぞれあるだろ? どうせあと2週間で全て終わりなんだから、ちょっと冷静になってこれまでの事振り返ってみないか?」

   のっちの声に、他の4人がしぶしぶといった感じで頷く。
   のっち、ほっと胸をなで下ろし肩の力を抜く。

のっち「よし、じゃあまずは何でこんな事になったからか、だな」

春香 「何でといえば、最初っからおかしかった気がするけど」

サーヤ「まあ、でも結局はコレじゃない?」

   サーヤ、腕を組んだまま机に置かれたスピーカーを指さす。
   5人、頷いて机に目を向ける。
   舞台、暗転。


2 シェアハウスMEETS(夕)

   のっち、ソファに座りながらゲームをプレイしている。
   ガチャリと扉の開く音。
   奥から春香が入ってきて鞄を置く。

のっち「お。お帰り」

春香 「ただいま。あれ、今ってのっちくんだけ?」

のっち「ユウゴさっきいたけどな。今日、病院非番らしいし」

ユウゴ「トイレ行ってまーす!」

   ユウゴ、トイレの部屋から声だけを飛ばす。

のっち「らしいです」

春香 「はは」

のっち「今日大学だっけ?」

春香 「そ。講義多くて疲れた」

のっち「大学4年の授業なんて、消化試合みたいなもんじゃないか?」

春香 「一応特待生だからね。消化試合でも手を抜くわけにはねえ、って感じ」

ユウゴ「さっすが優等生ー」

   ユウゴ、トイレ側の出口からようやく姿を見せる。

春香 「ユウゴ」

ユウゴ「ただいま春香ちゃん」

春香 「ん、ただいまー、は私じゃない?」

ユウゴ「だってトイレから戻ってきたから」

のっち「いや、外からの春香とトイレからのユウゴだと春香の方が上だろ」

ユウゴ「そういう考え方もあるよね」

のっち「何で俺が少数派みたいなんだよ」

   2人のやりとりに笑う春香。
   再び玄関の扉が開く。

サーヤ「ただいまー。あれ、今日けっこう人がいる」

春香 「お帰り、サーヤ」

   作業服を畳みながら複雑な表情をするサーヤ。

サーヤ「その呼び方未だ慣れないんだけど。私の名前沙耶だし」

のっち「俺だって、野島なのに「のっち」だぞ。「の」はわかるけど「っち」はどこから来たんだよ「っち」は」

春香 「っち(半笑いで)」

ユウゴ「ま、お互い堅苦しくならずにニックネームで呼び合おうと決めた訳だし」

春香 「と、本名の人が申しております(また半笑いで)」

ユウゴ「いや春香も本名でしょ」

サーヤ「そういやもう一人どこいった?」

のっち「あれ、見てないな」

ユウゴ「確かに。でも外出しそうに見えないけどね。キャラ的に」

みいこ「呼んだ?」

   みいこ、机の下からぬるっと現れる。
   サーヤを除く3人、「うおお」とびくりと驚く。

サーヤ「何してんの、みいこ」

みいこ「うん。今朝見た占いのラッキースポット、机の下だったから」

ユウゴ「いやどんな占い?」

春香 「で、何かラッキーな事あった?」

みいこ「ちょっと腰痛くなったわ」

ユウゴ「アンラッキーじゃん」

   のっち、思わず吹き出すが、慌てて平静を装う。
   しかし、他の4人、のっちを凝視しへらへらと笑う。

ユウゴ「笑った(にやにやしながら)」

   のっちを小突くユウゴ。

春香 「笑った(同じくにやにやしながら)」

   今度は春香が小突く。それに対して露骨に嫌そうな顔をするのっち。

のっち「人間だから笑うだろ。俺の事何だと思ってんだ」

ユウゴ「いやー。でも、気がついたらなんだかんだ全員集合しちゃったね」

サーヤ「いつも夜まで誰かしらいないからね。あたしも今日は現場作業少なかったし」

   みいこ、間を取って微笑みながら周囲に目を向ける。

みいこ「これってラッキー、じゃない?」

   全員、おお、とみいこを見る。

ユウゴ「みいこ」

春香 「みいこ」

   親しみを込めてみいこを小突く2人。

のっち「何だそれ」

   と、言いつつ笑顔ののっち。

のっち「ちょっと早いが酒でも飲むか。サーヤ、冷蔵庫にあった酒を持ってーー来てる」

   サーヤ、既に冷蔵庫から酒を取り出し机に置く。

ユウゴ「サーヤ姉さん、仕事が早い!」

   5人、机に座りながら楽しそうにビールの缶を開ける。
   開けながら様子を伺う5人。全員、静かにのっちを見る。

のっち「あ、俺?」

   のっち、ごほんと咳払いする。

のっち「えー、シェアハウスが始まって今日で2週間とちょっと。全く接点のなかった俺たちがこうして出会い、酒を囲めるのは確率的に見てもとても貴重なーー」

ユウゴ「はいかんぱーい!」

   ユウゴの声に合わせて他の3人も「かんぱーい!」と声を合わせる。

のっち「ウォイ話終わってないだろうがっ!」

   笑い声と共に暗転。


3 シェアハウスMEETS(夕)

   ゲームで遊んでいる2人を、他の3人が酒を飲みながら横目で見ている。

ユウゴ「ーーあーっ! また負けた」

のっち「これで5連敗だな」

ユウゴ「やっぱプロゲーマーには勝てないや」

のっち「まだ終わってないぞ。もう一回だ」

ユウゴ「まだやんの!?」

   春香、遠目でユウゴとのっちに微笑みかける。

春香 「さっきからずっとやってる」

みいこ「あの2人B型同士だからね。きっと馬が合うんでしょ」

サーヤ「血液型の問題? てか相性で言えばそもそもじゃない?」

みいこ「まあそれはあるわね」

春香 「でも毎日賑やかでいいね。家族、って感じ」

みいこ「春香のご家族って?」

春香 「お姉ちゃんが。でも父さんと母さんは私が子供の頃に事故で。だから家族はお姉ちゃんだけ」

みいこ「ごめんなさい。余計な事聞いちゃったね」

春香 「全然大丈夫。今は皆がいるしね」

   ユウゴ、ゲームをする手を止めて嬉しそうにテーブルに近づいてくる。

ユウゴ「なんか嬉しい事言ってる」

のっち「まだゲーム終わってないんだけど」

   ユウゴ、仰々しい様子でのっちを指さす。

ユウゴ「ごらんの通り微妙に空気読めないのっち」

のっち「何だいきなり、悪口か?」

ユウゴ「ふわふわしてるように見えて時々毒見せてくる春香。メンバーの中で一番兄貴なサーヤ。相性占い好きのみいこ」

春香 「看護師なのに血が怖いユウゴ(にやにやしながら)」

みいこ「早速毒見せてきた(同じくにやにやしながら)」

ユウゴ「ともかく俺らって凄いバラバラだけど、形の違う歯車がかみ合ってるって言うか。今日改めて思ったよ。やっぱり俺たちの相性って最高だなあ、って!」

   言い終わると同時、室内に機械的なコール音が流れ、スピーカーが点灯する。
   とたんに、全員が居住まいを正して机に座る。

AI 『テスターの皆さま。こんばんは。それでは只今より第3回臨床試験の経過観察を行います』

   全員、微妙な表情で頷く。

AI 『まずは被験者001番、野島さん。本日はいかがお過ごしでしたでしょうか』

   面食らったように顔を上げるのっち。

のっち「あ、えっと、今日は大会やイベントも無かったので、普通に家でゲームの練習してました」

AI 『有り難うございます。では002番、里中さん』

春香 「はい・・・・・・。大学があったので、そちらの方に。夕方から皆で話してました」

AI 『有り難うございます。皆様の合流が玄関映像でも確認できましたので003以降の調書は割愛させて頂きます。続いて関係性構築に関するヒアリングをさせて頂きたいのですが、前回と比べ何か相違などありましたでしょうか』

みいこ「相違(ちょっと引き気味に)」

AI 『勿論主観的な印象で問題ありません。一方で記録的な意味もありますので忌憚の無い感想をお願いします』

ユウゴ「あ、あー、もう全っ然問題なんて無いですよ! 昨日も今日もほんっと仲良くて。流石MEETSさんが選んだ5人だなあって」

AI 「皆様のマッチングに関しては、データの偏りを防ぐためにランダムで選出しています。何も作為的な要因は存在しません」

ユウゴ「えっと。そういう事にしてるんでしたっけ? はは」

AI 「調書は取り終わったので、改めて本臨床試験の概要を説明いたします。当試験はシェアハウスという閉鎖空間にて、人間関係がどのように形成されていくかを経過観察する事により、弊社のAIや人工知能の発展に役立てるつもりでおります」

春香 「つもりでおります(からかい気味に)」

   春香の軽口に、ユウゴが「しーっ!」と人差し指を立てる。

AI 「期間は残り2週間。当初話した通り、全員が指定された期間まで試験を続ける事、毎日の経過観察にご協力頂く事が報酬の受領条件となります。それでは引き続きご協力のほどよろしくお願いいたします」

   AIの声の直後、通話が切れて画面が暗転する。
   ふう、と全員の緊張が解け、椅子にもたれかかる。

ユウゴ「何か酔い冷めたね」

春香 「まあ仕方ないよね。ルールなんだし」

みいこ「報酬もいいし」

のっち「でも、何故向こうはあの事黙ってるんだろうな」

サーヤ「あたし達が知らないとでも思ってるのか」

のっち「実際春香が見つけてないと知らない訳だからな」

ユウゴ「そういやあれ、まだある?」

   春香、部屋の奥から一枚の紙を取り出し持ってくる。

春香 「ありまーす」

のっち「ほんとやばい資料だよな、それ」

ユウゴ「読んで読んで」

春香 「えーと、臨床試験調査概要。社外秘により、情報漏洩には注意して取り使う事。まあ私達には既に漏洩しちゃってる訳ですが」

   ははは、と笑うメンバー達。

春香 「当実験は、予め回答のあった個人情報や性格診断を元に最適化された5人を選出。その被験者の人間関係構築を経緯観察し、仮説検証を行う事を第一の目的とする」

サーヤ「つまり、あたしたちはデータ的にも相性の良い5人である、と」

ユウゴ「そりゃあこんなに仲良くなる訳だ。実験大成功!」

春香 「この後の続きの資料がないの、ちょっと気になるけどね」

みいこ「それも棚の下に落ちてたんでしょ? そう簡単には見つからないと思うけど」

のっち「まあ細かい事はいいだろ。実際こうして上手く言ってるんだし」

春香 「たしかにー」

ユウゴ「じゃあ途中邪魔も入りましたが、再び気を取り直して」

   ユウゴの声に、各々がグラスを構える。

ユウゴ「俺たちの友情にかんぱい!」

全員 「乾杯!」

   舞台、暗転する。


第二章

4 シェアハウスMEETS(朝)

   部屋で縫い物をするみいこ。
   その横で大学に行く準備をしている春香。
   キッチンではユウゴが朝食を作っている。

みいこ「ーーなに、結局あの後12時まで飲んでたの?」

ユウゴ「相変わらずサーヤがお酒強くてさ」

春香 「最近日本酒にはまってるって」

ユウゴ「日本酒と言えば駅前に美味しいとこみつけたんだけど、春香興味とかーー」

春香 「へー、今度サーヤと行ってみようかな」

ユウゴ「ああ、サーヤと。サーヤと、ね」

   サーヤ、気怠そうに寝室の扉から部屋へと入ってくる。

サーヤ「おはよ」

ユウゴ「噂をすれば。おはよう!」

サーヤ「いい噂だといいけど。のっちはまだ寝てんの?」

ユウゴ「あの後徹夜でゲームしてたから、多分起きてこないよーー」

   言葉と同時、のっち、寝室の扉から部屋へと入ってくる。

ユウゴ「と思ったら起きてきた。おはよう。目玉焼きできてるよー」

春香 「今日珍しく早いね」

   のっち、少し挙動不審に席に座り、皆をじろじろと見る。
   ん、と全員不思議そうにのっちを見る。

ユウゴ「何かそわそわしてる?」

のっち「いや、今日は7月31日だよな?」

ユウゴ「7月・・・・・・31日だね」

のっち「ああ、7月31日だ」

サーヤ「これ何の確認?」

   のっち、驚いたとばかりに周囲を見渡す。

のっち「ちょっと待て。誰かピンと来ないか? 7月31日という言葉に」

サーヤ「はい?」

のっち「例えば、これ完全に例えばだけどほら、何か特別な記念日とか」

春香 「あっ」

   春香、何か思い出したように口元に手を当てる。

のっち「そう、それ! 春香さん大正解!」

春香 「今日朝から講義だった」

のっち「いや全然違ったわ!」

春香 「じゃ、私そろそろ行くね」

のっち「えっマジで言ってる?」

春香 「う、うん。朝から講義だし」

のっち「え、講義より大事な事あるよね?」

春香 「例えば?」

のっち「例えばっ、て・・・・・・。ほら、そういうのって俺の口から言うのは何か違うだろ。それとなーく意識しつつも、気付かない振りしてさあ。で何かサプライズでされて、お前等っ! てちょっと感極まるというか」

春香 「行ってきまーす」

   春課は扉を開けて舞台からフェードアウトする。

のっち「うおい!」

   手を伸ばしたままのっちが固まっていると、サーヤが工具を纏め始める。

サーヤ「んじゃ、そろそろ私も」

のっち「えっ」

サーヤ「だってここ山の中だし、さっさと出ないと遠いから」

のっち「サーヤ。俺たち友達だよな?」

サーヤ「うわ何か面倒くさそう」

のっち「サーヤはいいの? 友達の俺を置いて仕事行っちゃって」

サーヤ「もう今日で14回は置いてったから、今更良心は痛まないかな」

   という訳で、とサーヤ、手を振りその場を後にする。

のっち「ちょ」

   声をかけるが、構わず扉がガチャリと閉まる。
   のっち、無言のまま視線をこっそり外出しようとするユウゴを見る。
   ユウゴ、うっ、と一瞬だけその場に留まる。

ユウゴ「ーーごめん俺も今日当直だから!」

のっち「おい!」

   そのまま勢いよく扉を開け、部屋の外へと出て行くユウゴ。
   のっち、伸ばした手を空しく下げ、みいこがいた方向へゆっくり振り返る。

みいこ「俺の親友はどうやらみいこだけだったようだーーいない!」

   みいこ、既にその場から姿を消している。


5 シェアハウスMEETS(夜)

   フェードも暗転もせず、ライトの色を変える事で時間経過を見せる。
   ソファで横になりふて腐れるのっち。

サーヤ「ただいまー」

   サーヤ、ソファで横になるのっちを見てびくりとする。

サーヤ「いや負のオーラが凄い」

   のっち、呼びかけられても体制を変えない。

のっち「あ、帰ってきたんだ。どうだった? 俺を置いてまで行った仕事は?」

サーヤ「いや・・・・・・何か辛い事あったなら聞くけど」

のっち「あー、もういいんだ。何か皆俺の事興味ないみたいだし? これ以上皆が興味のない俺に時間使って頂くのも申し訳ないですし」

サーヤ「おまけに卑屈がすごい」

   サーヤ、ため息をつきながらテーブル近くの椅子に腰掛ける。

サーヤ「そろそろ、かな」

のっち「ん、何が」

   不機嫌そうな声の後、玄関の扉がガチャリと開く。

ユウゴ「ハッピバースデイ、トゥユー」

   扉からはユウゴの他、みいこと春香がにやにやしながら現れる。
   その様子を見て、信じられないとがばっと体を起こすのっち。

春香 「ハッピバースデイ、トゥユー」

のっち「お前ら・・・っ!」

   のっち、目を潤ませながらケーキを抱えて向かってくる皆を迎える。

みいこ「ハッピバースディディア(少し貯めて)サーヤー」

   ケーキ、のっちの横を通り過ぎてサーヤの前に置かれる。

のっち「えっえっ」

春香 「ハッピーバースディトゥユー。25歳の誕生日おめでとう、サーヤ!」

全員 「おめでとう!」

   全員ぱちぱちとサーヤに向けて拍手する。

サーヤ「ありがとう。いやこういうの慣れてないから嬉しいな」

   戸惑うのっちを余所に、全員に祝福されて照れるサーヤ。
   それを絶望的な表情で見ているのっちに、やがて周囲がくすくすと笑い出す。

サーヤ「うそうそ」

春香 「ハッピバースディのっち」

のっち「おまっ、ちょっ、びびったわ! いやーびびった」

   サーヤ、のっちの前にヘッドホンを差し出す。

サーヤ「とりあえずこれ、プレゼント。前ヘッドフォン欲しいって言ってたから」

のっち「これPOZE製のやつだろ? いいのか!?」

みいこ「野暮な事聞かないで、有り難く受け取りなさい」

のっち「うわあ、ありがとう。ちょっと写真撮るわ」

   のっち、感極まった様子で色々な角度から写真を撮り始める。

春香 「私皿もってくるねー」

   春香、一人机から離れてキッチンの方へ向かう。
   その間4人はテーブルに座ってわいわいと話し始める。

ユウゴ「でも、何かのっちの方が俺より年下なのが意外」

みいこ「そうかな。普通に子供っぽいと思うけれど」

のっち「精神年齢はユウゴよりは上だな」

ユウゴ「いやいや、俺の方が上でしょ、明らか」

サーヤ「そうやって比べてる時点でどっちもどっちだよ、ほんと」

のっち「ーーま、俺たちが似たもの同士ってのは認める」

サーヤ「祝って貰ったから急にしおらしくなってる」

のっち「違う。データに基づいた確かな事実を言ってるだけだ」

ユウゴ「はいはいデータね、データ」

   皆で軽妙に会話をしている中で、紙を見て棒立ちしている春香に気付く。

みいこ「春香? どうかした?」

ユウゴ「ってか何その紙? もしかして資料の続き出てきたとか?」

   ユウゴ、にやにやしながら固まる春香に近づく。
   紙を目にして、同じく表情が曇るユウゴ。

ユウゴ「え、ほんとに出てきたの?」

のっち「どうした? 何が書いてるんだ?」

みいこ「言って?」

ユウゴ「追記。当初は最適化された5人を選出する想定であったが、仲の良さを判断する弊社アルゴリズムに、一定の信頼性が選られない事が報告会にて結論づけられた」

サーヤ「ん、なに? どういうこと?」

ユウゴ「よって臨床の内容を当初から変更し、既に一定の信頼性が得られているもう一つのアルゴリズム検証に切り替える事とする」

のっち「・・・・・・もう一つの、アルゴリズム?」

ユウゴ「つまりはこの実験は、データ的に最も相性の悪い5人を集めたものである」

   一同、顔を見合わせる。
   舞台、暗転。

6 株式会社MEETS 管理部の廊下

   暗転した舞台の前、AIにスポットライトが当たる。
   AIはワイヤレスでラジオを聞いている。

ラジオ『えー、という訳で都内にあるシェアハウス特集でしたー。ひろしさんどうすか、シェアハウス生活』

ラジオ『んー、憧れとかはあるけど、人間ガチャみたいな所ない? 相手によるわ』

ラジオ『あー、ちょっと前にありましたよね、確か新卒の子が自殺したとか』

ラジオ『あれも人間関係が原因でしょ? 確か同じシェアハウスの友達がーー』

   ふいに手元の内線が震え、ワイヤレスを外すAI。スマートフォンを耳に当てる。

AI 「もしもし。ええ、実験は順調ですね。はい。今は監視部の方で仕事を」

   何者かの発言に耳を傾けるAI。

AI 「さあ、今の所は良好のように見えますが、まだ実験は途中ですので何とも。何せこういうのはきっかけ一つで変わりますからね」

   AIが通話を切ると同時、再び舞台が暗転する。


第三章

7 シェアハウスMEETS(朝)

   キッチンで料理をするユウゴ。 
   寝室の扉の方からサーヤが戸惑い気味に出てくる。

ユウゴ「あ、おはよう」

サーヤ「お、おはよう」

ユウゴ「ようやく休日だねー。今日は何かするの?」

サーヤ「う、うん。ちょっと外の倉庫で木材漁ろうかなって・・・・・・」

   2人、ぎこちなく沈黙する。

ユウゴ「待って、もしかして昨日のあれ、気にしてる?」

サーヤ「え? あ、別に」

ユウゴ「いや、確かに何か変な事書いてたけど、実際に俺らこんなに仲いいんだからさ。きっとあれも何かの間違いでしょ!」

サーヤ「う、うん、確かにそうね」

   ユウゴ、皿に盛った料理を机の上に置く。

ユウゴ「はい。という訳で目玉焼きできてるから食べて。あと今日の午後よかったら湘南とか行こうよ。たまには皆じゃなくて2人でさ」

サーヤ「あ、それは遠慮する」

ユウゴ「えっ」

サーヤ「あっデータがどうこうとかじゃなくて、普通に」

ユウゴ「普通に」

   2人の間に若干の沈黙が流れる。
   沈黙を破るようにみいこが部屋に入ってくる。

ユウゴ「あ、みいこおはよう!」

みいこ「おはよう」

ユウゴ「そうだ。みいこ昨日食器片付けてなかったでしょ。皆でいる時は俺がやるけど」

みいこ「ああ、手が汚れるから」

ユウゴ「へ?」

みいこ「食事の後に食器洗うと手が汚れるじゃない? それがけっこう無理なの」

サーヤ「いや今までどうやって生きてきた?」

   疑問を投げかけると同時、のっちが部屋に入ってくる。

ユウゴ「あ、のっち」

のっち「ユウゴか。今日アップデートされた格ゲーあるからちょっと付き合ってくれ」

ユウゴ「ええ、朝から?」

のっち「いいからいいから」

   のっち、強引にユウゴをTVの前まで近づける。
   ゲームを遊ぶのっちとユウゴ。のっち、大きくガッツポーズをする。

のっち「っしゃらあ! 俺の勝ちぃ!」

ユウゴ「・・・・・・いやー強いね」

のっち「もう一回やるぞもう一回」

ユウゴ「ええ、もうよくない?」

   のっち、構わずコントローラーを操作する。
   しぶしぶそれに付き合うユウゴ。

のっち「っしゃあ! 俺最強! 俺が一番!」

   のっち、ユウゴの肩に手を回し馴れ馴れしく揺らす。

のっち「まだまだだな。まあ相手が俺だから仕方ないか」

   ユウゴ、呼びかけに応じず黙り続ける。

のっち「なに、悔しい? まあ俺はプロだから気にするなって。せいぜい精進するんだな」

   ユウゴ、「ちっ」と舌打ちする。

のっち「ん、何か言った?」

   ユウゴ、ふう、と息を吐く。

ユウゴ「いやあ、フリーターっていいなあって」

のっち「あ?」

ユウゴ「ほら、俺たち社会人って平日社会のために働いてて忙しいけど、のっちはずっとゲームだけしてられるからいいなあって」

のっち「いや俺だって仕事として」

ユウゴ「えっじゃあ今週の平日はどこで何してた? 月曜は?」

のっち「ーー家でゲームの練習だけど」

ユウゴ「火曜日は?」

のっち「家で、ゲームの練習」

ユウゴ「水曜日は」

のっち「ゲームの、練習を、家で」

ユウゴ「木曜日は」

のっち「・・・・・・家で、ゲーム」

ユウゴ「金曜日!」

のっち「い、家で(泣きそうな声で)」

ユウゴ「そりゃあゲームがうまくなって当然だよね。いいなあ、俺達も世の中の役に立っている社会人じゃなければずっとゲームしてられるのになあ。いいよなフリーターは俺達と違ってひまで」

サーヤ「急な社会人マウント」

   のっち、静かに肩を震わせるが、すぐに激高して立ち上がる。

のっち「もう一回言ってみろ。もう一回言ってみろ!」

サーヤ「存外にキレた!」

のっち「誰が暇だってっ? 誰がフリーターだってっ? 誰が超絶引きこもりクソ陰キャだって!?」

サーヤ「いやそこまでは言ってない」

ユウゴ「あーごめん図星だから怒っちゃった? 超絶引きこもりクソ陰キャくん!」

のっち「ーーてめえ言って良い事と悪い事あるだろうがァ!」

サーヤ「いや今のは出所あんたでしょうよ」

   みいこ、騒ぎを見て人知れずその場からいなくなろうとする。

サーヤ「ちょっと! この状況でどこ行こうとしてんのよ!」

みいこ「服に触るのやめて。これ高いんだけど」

サーヤ「そんな事言ってる場合じゃないでしょ! ってかアンタほんと日頃から理由つけて何もしないわね!」

   みいこ、カチンとしたようにサーヤを睨む。

みいこ「私の仕事はあなたのと違って繊細なの。薄汚れた服でも着回して平気なあなたとは一緒にしないで」

サーヤ「はあ!? 誰のお陰で屋根のある家に住めてると思ってんの!?」

みいこ「私がデザインで建てた生計のお陰。あなたは関係ない」

   サーヤ、自身の鞄から作業済みの軍手を取り出し、みいこに投げる。

みいこ「汚っ! ちょ、これだからO型は!」

サーヤ「あんたの心よりは綺麗ですぅ! ってか血液型で人判断してる奴が一番ろくでもないでしょ!」

   サーヤ、再びもう片方の軍手をみいこに投げる。

みいこ「血液型占いは昔からある由緒正しいものでしょうが!」

   みいこ、手元の毛糸をサーヤへと投げる。

サーヤ「はぁ? それってあんたの感想でしょ? 何かソースとかあるんですかぁ!?」

   喧騒の中で春香がリビングへと入ってくる。

みいこ「さっきからガタガタ抜かしよって、そんなにソースソース抜かすならお好み焼きでも食っとかんかいコラァ!」

サーヤ「上等だよ。吐いた唾飲むんじぇねえぞ!」

春香 「ああもう朝からうるさい!(春香が入ってくる) え、何、どうした?」

全員 「「「「こいつが(以下各自アドリブ)」」」」

春香 「ごめん、こいつがしか今のところわかってない」

   全員、苛立ったまま各々その場に立って様子をうかがい合う。

春香 「待って待って、もしかして昨日の資料、真に受けちゃったの?」

みいこ「真に受けるも何も、まんざら嘘じゃ無いかもねって事が分かっただけよ」

春香 「ええ!?」

のっち「俺もみいこには同感だ」

春香 「のっちくんまで!? ちょっと一旦冷静になろ? 昨日まで上手くやれてたんだし大丈夫だよ!」

サーヤ「ごめんね春香。今あいつの顔見たくないからいったん倉庫戻るわ」

みいこ「奇遇ね。春香もO型さそり座の女には気を付けなさい」

春香 「ちょっと」

のっち「俺も部屋でタウンワーーゲームの練習してくる。別に何かバイト探してみようかなとかそういう訳じゃないからな! ゲームの練習だから!」

ユウゴ「えっ目玉焼き人数分作ったんだけど! ねえ、おい!」

   3人、部屋の方角に向けて舞台から消える。
   春香、頭を押さえているとふとユウゴと目が合う。

ユウゴ「どうしよっか。とりあえずご飯できてるんだけど」

春香 「ーーうん、流石に食べなきゃ勿体ないよね」

   春香、ため息を吐きながらテーブルに座る。
   ユウゴ、春香の前に食器を置き、春香の向かいに伺うように座る。

ユウゴ「何かごめんね? ちょっと熱くなっちゃって。今は反省してる」

   春香、俯いた所から顔を上げる。

春香 「ううん。まあ、私としては仲良くして貰うに越した事は無いけど」

ユウゴ「努力はする」

春香 「そういやユウゴ君は、何でここにいるの?」

ユウゴ「いきなりの存在否定」

春香 「あ、いや、何でシェアハウスしようと思ったのかなって」

ユウゴ「ああ。んー。病院がここから近かったからってのと、報酬が何だかんだ良かったからからなあ。ただシェアハウスで生活したらいいだけだしね。春香は?」

   春香、薄く微笑みながらユウゴを見る。

春香 「ちょっと前からこういうの興味あったんだ。実際にどんな人がいるのか。本当に仲良くなれるのかとか。実際に見てみないと分からないからね」

ユウゴ「で、実際に見てみてどうだった?」

春香 「晴れのち曇りって感じかな」

ユウゴ「そのうち雨降りそうだもんね」

春香 「雨の原因が何か言ってる」

ユウゴ「大丈夫大丈夫。今日はたまたまこじれただけでその内また仲良くなるよ。だって俺達の相性って最高なんでしょ?」

春香 「うん。そうだね。そうだといいな」

ユウゴ「という訳でその一歩として、まずは俺たちだけで親睦を深めて」

春香 「あっごめんこの後ゼミの資料纏めないと。ごちそうさま」

   春香、皿を持ってその後そそくさといなくなる。

ユウゴ「ゼミか~。ゼミなら仕方ないなあ」

   ユウゴ、笑いながら食器を手に取りキッチンに皿を戻す。

ユウゴ「ん、なんだコレ」

   と、途中で床に落ちていた写真を拾う。

ユウゴ「集合写真? 誰の? よくわかんないけど、楽しそう」

   ユウゴ、写真をテーブルの上に置く。

ユウゴ「俺らもこんな風に仲良くなれるといいなあ。一応次野島に会ったら謝っとくか」

   ユウゴ、のんきにその場を後にしながら舞台から出る。


8 シェアハウスMEETS(夕方)

   ユウゴが舞台から出た直後から、のっちと相撲を取るように舞台に入る。

ユウゴ「最初に謝っとく。こっから先マジ手加減しねえから! 殺す気で行くから!」

のっち「安心しろ俺は最初から殺す気だから!」

   同じく部屋に入ってきた春香、おろおろと二人を交互に見る。

春香 「ちょっとちょっと、落ち着いて2人とも!」

のっち「これが落ち着いてられるか。コイツあろう事かきのこの山買ってきたんだぞ!? たけのこの里じゃなくて! そうなったらもう戦争だろ!」

春香 「そうかなあ!?」

ユウゴ「品のない奴だと思ってたけど、まさかたけのこの里なんて犬のエサが好きだなんてなぁ! もう部屋で寝るんじゃ無くて犬小屋で寝たらどうかな!?」

のっち「きのこの山食べてる方が品は無いだろビチクソ野郎が!」

春香 「両方もう品はないと思うよ!?」

   揉め合ってる中、サーヤとみいこが入ってくる。

サーヤ「何喧嘩してんの、こいつら」

   春香、戸惑いながらサーヤとみいこを見る。

春香 「それがユウゴ君がきのこの山買ってきたら、のっちがそれに怒って・・・・・・」

サーヤ「はあ? そんなのたけのこの里一択に決まってんじゃん」
みいこ「はあ? そんなのきのこの山一択に決まってるでしょう」

   みいことサーヤ、苛立ったように互いににらみ合う。

春香 「うっわここもか! はいはいはいはい、たけのこの里買ってくるから皆ほんとに落ち着いて」

みいこ「はあっ!? 春香はたけのこの里派って事!?」

春香 「いや本当もう面倒くさい!」

サーヤ「にしてもあんた本当にセンス無いわね。洋服ほんとに売れてる?」

みいこ「え、なに、やる? やんの?」

サーヤ「いいよ。やろうよ」

   みいことサーヤ、互いにメンチを切りながら肩をぶつけ合う。

ユウゴ「ブレイキングダウン?」

春香 「あーもう、一旦二人とも落ち着いて! 離れて!」

   春香、必死で二人を引き離す。

みいこ「・・・・・・もう完全に化けの皮剥がれたわね」

のっち「ああ、そうだな。昨日見付かったデータは正しかった」

春香 「のっち君」

ユウゴ「でも資料が出てきた順番が悪かったかな。一瞬最初の奴信じちゃったし」

みいこ「まあ、それに関しては一つ引っかかる所はあるけどね」

春香 「へ?」

   みいこ、持っていた資料を手で叩く。

みいこ「そもそも、普通こんなものが部屋から見付かると思う? おまけに1枚目と2枚目は丁寧に時間差で発見された。これはあるでしょう、作為が」

のっち「・・・・・・確かに、社外秘にしては迂闊すぎではあるな」

サーヤ「だとしたら、誰が何の為にこんな事すんの?」

のっち「そりゃ社外秘って書いてるんだから企業側、つまりはこの実験の主催者以外には考えられないだろ」

サーヤ「何の為が抜けてるんだけど。向こうの目的は人間関係の構築を見守る事でしょ? 邪魔な情報入れてどうすんの」

のっち「それはーーまだ分からないが」

春香 「でも、だとすると難しくないかな?」

のっち「どこがだ?」

春香 「だって、このシェアハウス四六時中人がいるでしょ? 私たちが暮らしている中でばれずにこんなものを紛れ込ませる事は、実際相当難易度が高い気がする。ある方法を除いて、だけど」

サーヤ「ある方法?」

   少し戸惑いながら口を開く春香。

春香 「私たちの誰かが置いたとすれば簡単かも。あくまで可能か、の話だけど」

   しん、と場が静まり帰る。

サーヤ「え、じゃあ何、春香はあたしら疑ってんの?」

   春香、おどおどしながら首を振る。

春香 「そういう訳じゃないけど。でもどう考えてもおかしいっていうか」

サーヤ「やっぱり疑ってるじゃん」

のっち「やめとけって。それに春香の言う通りだろ」

みいこ「そ。データといいこのシェアハウスのルールといい、何かはおかしいのは確かよ」

サーヤ「それは向こうが勝手にやってた事で、あたしらは関係ないじゃん」

   食いかかるサーヤに、みいこが薄ら寒い笑みを浮かべる。

みいこ「だから春香はこう言ってるんでしょ? うちらの誰かに協力者がいるんじゃないかって」

サーヤ「はあ? もしかしてあんたがそうなんじゃないでしょうね」

ユウゴ「ちょ、ちょっと一旦落ち着こう? 俺たち一応あんな仲良かったんだし!」

サーヤ「何でちょっと悲劇のヒロインポジションなのよ。あんたも大概だったじゃん」

みいこ「てかまだ頭の弱いこと言ってる。あれも結局データがー」

のっち「そこまで! そこまで!」

   のっち、両手で浮き足立つ4人をなだめる。

のっち「ちょっと1回整理しよう。折角こうして2週間も共同生活してきたんだし、このまま「はい解散」ってできない事情もそれぞれあるだろ? どうせあと2週間で全て終わりなんだから、ちょっと冷静になってこれまでの事振り返ってみないか?」

   のっちの声に、他の4人がしぶしぶといった感じで頷く。
   のっち、ほっと胸をなで下ろし肩の力を抜く。

のっち「よし、じゃあまずは何でこんな事になったからか、だな」

春香 「何でといえば、最初っからおかしかった気がするけど」

サーヤ「まあ、でも結局はコレじゃない?」

   サーヤ、腕を組んだまま机に置かれたスピーカーを指さす。

のっち「ーーAIか」

   言葉と同時。室内に機械的なコール音が流れる。

AI 『テスターの皆さま。こんばんは。休日により時間を繰り上げて連絡しました』

   全員、びくりと音の方向に反応する。

AI 『それでは、只今より第3回臨床試験の経過観察を行います。まずは被験者001番、野島さん。本日はいかがーー』

ユウゴ「待った待った。ちょっと待った」

AI 『何でしょう、被験者03、幸崎さん』

ユウゴ「いや、何か僕たちに隠してる事無いかな、って。例えばほら、データの事とか」

AI 『幸崎さんが仰るデータ、というのが何の事であるか理解しかねます』

サーヤ「とぼけないで、もう全てこっちは知ってるの」

AI 『こっちは知ってるの、というのが何の事であるか理解しかねます』

ユウゴ「昔のゲームのNPCみたいになってるんだけど」

   みいこ、ふうとため息をつきながらスピーカーを睨む。

みいこ「・・・・・・向こう側の魂胆が見えたわね」

春香 「何が狙いですか? 私達が揉めてる所を見てどういった意味があるんですか?」

AI 「実験の目的は開始当初に説明したつもりですがーー。実験が継続できないほどに皆様の関係が悪化しているという事でしょうか」

サーヤ「お陰様でね」

AI 『であれば、当初の規定通り実験を中断する権利を行使されて構いません。改めてお尋ねしますがーー実験は中止という事で宜しいでしょうか?』
   一同、一瞬だけ黙り込む。

みいこ「ーーどうする、みんな?」

ユウゴ「どうする、って」

みいこ「この先こじれたままここで過ごすのも嫌だし、みんながその気なら中止っていうのも手なんじゃない?」

のっち「待て待て、そんなに急に結論なんて出せないだろ! すみません、ちょっと相談させて下さい!」

AI 『中止の判断はいつでも承っております。皆様の意思が纏まった時点で改めて連絡のほどお待ちしております』

   AIの声が終わり、ふう、と一息つくメンバー達。
   それぞれ神妙な顔で黙り込む。

のっち「さて、どうしたものか」

ユウゴ「どう、って・・・・・・」

春香 「何だかよくわかんなくなっちゃった。一体何がしたいんだろ」

みいこ「実験を辞めさせるのが狙いなのか、それとも別の何かが」

サーヤ「いずれにせよ、あのまま問い詰めてもとぼけられて終わりでしょうね」
   再び静かになるメンバー達。

のっち「提案がある」

   静かにのっちを見るメンバー達。

のっち「確かに色々薄気味悪い状況だし、中止するのも一つの手だとは思うが、このまま辞めてしまったら向こうの思惑通りな気がしてならない。違うか?」

   全員、曖昧に頷いて返事する。

のっち「だったら形だけでも仲良くして、最終日まで残った方が報酬も出るし得だろ」

みいこ「それに、確か最終日には対面の報告会とかがあったりなかったりとか」

ユウゴ「そうだった! こうなったらそこで直接問い詰める方が早い気してきた!」

サーヤ「まあ、その日まであたし達が上手くやれるかが問題だけど」

のっち「別にAIの定例の時や屋外カメラの前だけで仲良いふりしとけばいいだろ。日頃から無理に一緒にいる必要は無い」

みいこ「それもそうね。私も毎日こんながさつな女と一緒にいるの無理だし」

サーヤ「こっちこそこんな潔癖症ニート願い下げ」

みいこ「はあ!? ニートじゃなくてフリーランスですうう!」

ユウゴ「そうだよ! このシェアハウスでニートは野島だけだから」

春香 「急にキラーパスした!」

のっち「ニートじゃないですプロゲーマーですううう!」

春香 「また存外にキレてるし! いやほんと大丈夫かなあ今後」

   春香、ユウゴ達を扉の向こうへと誘導する。
   みいことサーヤ、いがみ合いながら同じく背後に続く。
   のっち、ふんと扉の方向を睨みつつその場に立っていると、胸元のスマートフォンが震え出す。

のっち「ーーはい。ああ、例の件ですか」

   のっちが話し出す中、春香だけがおや? と立ち止まり扉の前で耳をすます。

のっち「取引の方はそうですね。今はまだ。とりあえずまた連絡します」

   春香が口元に手を押さえつつ、舞台暗転。

第四章

9 シェアハウスMEETS(夕方)

   机にはみいこが、ソファにはのっちが座っている。
   玄関側から部屋に鞄を持って入ってくるユウゴ。

ユウゴ「ただいま」

みいこ「おかえりなさい」

   ユウゴとのっち、目が合うがお互いに挨拶はしない。
   ユウゴ、のっちから目を外しふいにテーブルを見る。

ユウゴ「あれ、写真が、ない」

みいこ「写真?」

ユウゴ「何か、男女5人がシェアハウスで仲良く映ってる的なやつなんだけど・・・・・・」

みいこ「・・・・・・さあ、知らないわね(ちょっと意味深に)」

ユウゴ「ん、まあいいや。それよりみいこお腹空いてる? 何か作ろっか。目玉焼きとか」

みいこ「ええ、お願いしようかしら」

ユウゴ「そうだ。駅前にカフェオープンしてたよ」

みいこ「ああ、ちょっと前まで工事してたわね、あそこ」

ユウゴ「焙煎機置いてる本格的なとこっぽいから、よかったら今度一緒にーー」

みいこ「ありがとう。一人で行ってくるわ」

ユウゴ「あ、一人で、一人でね」

   ユウゴが露骨に落ち込んでいると、ソファにいたのっちが大げさに笑う。

ユウゴ「・・・・・・何だよ」

のっち「いや、相変わらず誰にも相手にされてないから可愛そうだなあって」

ユウゴ「は? 別にそんな事ーー」

のっち「こっちは知ってるんだぞ? お前がシェアハウスの女性陣デートに誘いまくって、ことごとくスルーされてるって事をな!」

ユウゴ「な、な、な、な、な、何故それを!」

   体を起こし、勝ち誇ったようにユウゴに詰め寄るのっち。

のっち「どうせシェアハウスに参加したのも、出会い目的だろ? やたらと料理できますアピールしてるもんなぁ?」

ユウゴ「べっ、べっ、べっ、べっ別にそんな事ないし!」

みいこ「動揺が凄い」

のっち「でも残念! そんな薄っぺらい部分なんて皆にモロバレだから! おまけに料理アピールが成功してるとでも思ってるのか? 目玉焼きしか作ってないのに!?」

ユウゴ「う、うるさいうるさい! 別に出会いなんか求めてないし! ってか俺普通に今上手くいってる相手いるし!」

のっち「ほーう。え、誰?」

   ユウゴ、スマホを操作してのっちに勢いよく見せる。

ユウゴ「りょうこちゃん。SNSきっかけでまだ会った事無いけど、毎日メールしてるし今度デート行く予定もあるから!」

   のっち、堪えきれないとばかりに背中を曲げながら噴き出す。

ユウゴ「さっきから何なんだよ!」

   のっち、爆笑しながら自身のスマホをユウゴに見せる。

のっち「それ俺でーす!」

ユウゴ「・・・・・・・・・・・・・・・は?」

のっち「いやー、前にお前の名前エゴサした時SNSのアカウント出てきてさ。ちょいとアカウント作ってDM送ったら案の情引っかかった訳だ。なのでりょうこちゃんはいません!」

ユウゴ「・・・・・・・・・・・・」

のっち「もう一度言いまーす! りょうこちゃんは、いませーん!」

みいこ「人って案外醜いのね」

   みいこが引いている所、玄関側からサーヤと春香が帰ってくる。

ユウゴ「ーーそれが、それが人間のやる事かよおおお!」

   それと同時、その場に膝から崩れ落ちるユウゴ。

サーヤ「なにこれ、演劇の練習?」

みいこ「悲劇ではあるわ」

ユウゴ「もう殺すっ! 今すぐ殺すっ!」

のっち「おうお前に俺がやれるんならなぁ!」

サーヤ「一応聞くけどこれ止めなくていいの?」

みいこ「愛する者を失った男の哀れな復讐よ。ほっときなさい」

春香 「てかそろそろ定例があるから落ち着いた方がいいんじゃ」

   春香の声と同時。AIのスピーカーにアイコンが点滅し、通話音が鳴り響く。

AI 「もめ事でしょうか?」

   とっくみあいをしていたのっちとユウゴ、びくりと動揺する。

のっち「離せ。少なくともMEETSの前では仲良いフリする約束だろが(ひそひそ声)」

ユウゴ「離すなら野島の方からだろ(ひそひそ声)」

   びくりと画面に注目するメンバー達。

AI 「どうやら喧嘩のようですが、やはりシェアハウス生活の継続に深刻な影響が出ているとの認識で間違いないでしょうか?」

   ユウゴとのっち、慌てて肩を組んで画面に向かって笑い合う。

のっち「は、はは。まさかまさか。ちょっとじゃれてただけですよ、なあユウゴ」

ユウゴ「ほんとほんと。TVのプロレスが面白かったから2人で技かけあってただけで」

   のっちとユウゴ、カメラの死角となる位置で互いに足を踏み合う。

AI 「なるほど。それでは2人は実に友好的な関係を築けているという訳ですね」

ユウゴ「はあっ誰がこんな奴と」

   のっち、ユウゴの背中を思い切り引っ張り肩を組む。

のっち「築けているという訳です」

ユウゴ「ええほんとその通り(引きつった笑顔で)」

AI 「では、具体的に仲が深まったと感じたエピソードなど紹介して頂ければ」

ユウゴ「え、エピソードですか?」

AI 「お手数ですが記録が必要なので。まさか虚偽の報告でしょうか?」

サーヤ「大分厳しくなってきたわね」

   ユウゴ、慌てて手を振って否定する。

ユウゴ「いやいやそんなそんな! エピソード、エピソードですね。ああ、あれとかそうじゃない、なあのっち」

のっち「俺に振る!?」

ユウゴ「もう怪しまれてるから何でもいいから言え!(小声)」

のっち「せ、先日ユウゴが彼女ほしいなって言ってたんで、りょうこちゃんっていう俺の知り合いを紹介したんですよ。そしたら何と今度食事に行く事になったらしくて、ユウゴが野島ありがとう、って感謝してくれて」

ユウゴ「お前ほんとまじぶっ殺すぞ!」

AI 「感謝してるようには見えませんが」

のっち「いや好意の裏返しってやつですよ。(そのままユウゴに顔を近づけて)とっさの事だから仕方ないだろ! 他に思い浮かばなかったんだから」

ユウゴ「だからって、だからってお前! だからってお前!」

   ユウゴ、涙声でのっちの胸ぐらを掴む。

AI 「何か泣いているように見えますが」

のっち「友情に感極まってるだけですよ。いやあ、友達っていいなぁ」

   のっち、無理矢理肩を組みながらHAHAHAと愛想笑いしていると、スピーカーの通話アイコンが切れている事に気付く。

ユウゴ「・・・・・・あれ、通話切れてる」

のっち「切れてるな」

   2人、肩を組み合いながら言い合うが、すぐに乱暴に互いに手を払いのける。

ユウゴ「いつまで触ってんだ! 馴れ馴れしい!」

のっち「こっちこそ! おいサーヤ、手が汚れた。ティッシュくれ」

サーヤ「はい?」

ユウゴ「俺にもティッシュ! 普通のだと足りないからアルコール付きの!」

のっち「俺それ2枚!」

ユウゴ「じゃあこっちは3枚で!」

のっち「4枚!」

ユウゴ「5!」

のっち「6!」

サーヤ「子供か?」

   サーヤの質問を意に介さず、再び取っ組み合うユウゴとのっち。

のっち「お前ごときにティッシュなど勿体ない。トイレットペーパーでも使ってろ」

ユウゴ「お前こそその辺の壁にでもなすりつけとけ」

みいこ「いやそれ私が嫌なんだけど」

のっち「ほんっと、何が悲しくてこんな奴とシェアハウスなんかーー」

AI 「すみません回線が落ちてました」

のっち「ーーできるなんて本当に俺は恵まれてると思う。そう思いませんか、AIさん」

AI 「・・・・・・何故私に聞くのでしょうか?」

サーヤ「いや、ほんとこれ最後まで持つのかなぁ」

10 どこかの夜道(夜)

   暗転が明け、シェアハウス前で歩くAIにスポットライトが当たる。
   スマートフォンを耳に当て、誰かと電話するAI。その後無表情で応答する。

AI 「お疲れ様です。ええ、明日で実験は終了となります。そうですね。遠隔地からでは観測できない部分もあるので」

   一呼吸置くAI。

AI 「はい。明日は私が直接伺います」
   通話を切り、再び歩き出して舞台の奥へと消えていく。


第五章

11 シェアハウスMEETS(夜)

   舞台が完全に点灯。テーブルの前で輪を作る5人。じゃんけんのポーズを作る。

4人 「「じゃん、けん、ぽん! あいこでしょ! あいこでしょ!」」

   結果、ユウゴの一人負けとなり思い切り悔しがるユウゴ。

サーヤ「はいユーゴの負けーっ!」

みいこ「晩ご飯、よろしくね」

ユウゴ「ぐぐぐ、くそっ」

のっち「ってかどうせ目玉焼きだろ? ある意味俺等も負けみたいなもんだ」

春香 「まあ確かにw」

ユウゴ「いやほんと分かってない。同じ目玉焼きでも焼き加減と味付けで全然別物だから。お前等が思ってる以上に奥深いから、目玉焼き」

みいこ「奥が深くてもあなたの底が浅いからね」

ユウゴ「じゃんけんで負けても料理しない奴が何か言ってるんですけど」

   キッチンからみいこを睨むユウゴ。

みいこ「失礼ね。昨日ちゃんと作ったじゃない」

ユウゴ「レトルトあっためただけだろ。あれ料理じゃ無くて作業だから」

みいこ「皆で魚裁いてた時、びびってた奴が偉そうに・・・・・・」

ユウゴ「魚にびびってた訳じゃ無いから! 血にびびってただけだから!」

のっち「お前よくそれで看護師やれてるよな」

   わいわいと言い合う中、じっと全員を見つめる春香に気付くのっち。

のっち「どうした?」

春香 「いや、別に(のっちの事を見ていたように叙述させる)」

ユウゴ「でも、今日で何だかんだ最後か。ほんとせいせいする」

サーヤ「何当たり前の事言ってんの。全員お互い様でしょ」

みいこ「結局、データの結果が間違っていなかった事は確かだったわね」

春香 「それ、どっちの結果の事指してる?」

みいこ「聞かなくても分かるでしょう? 天秤座は理解も遅いのね」

のっち「おい、終わったみたいな雰囲気出してるけど、ここからが本番だからな」

ユウゴ「そうだった。ここまで耐えてきたのはこのためだもんな」

のっち「じゃあ、早速段取りを説明するぞ」

   全員、のっちに注目しながら頷く。

のっち「この後、AIがこのシェアハウスに来る。どうせ真正面から問い詰めても何も出てこないだろう。なので俺たちはAIではなく、AIの荷物を狙う」

   のっち、立ち上がり全員の視線を集める。

のっち「まず部屋に誘導して、AIと接しつつ注意を逸らすのは俺。そしてトイレに行くと見せかけて部屋のブレーカーを落とすのが」

ユウゴ「俺」

のっち「そう。勿論わざとではなく事故の振りをして、だ。そして真っ暗になった中で、懐中電灯を持ってAIと一緒にブレーカーを探しに行くのが」

サーヤ「はーい」

のっち「幸いにもブレーカーは通路の奥だ。あくまでブレーカーの場所を教えてもらう体で誘導する事。あとなるべくゆっくり直す事で時間を稼いでくれると助かる」

サーヤ「ま、疑われない程度にね」

のっち「そしてがら空きになった鞄の中を探すのが俺と春香。もし探している間にAIが戻ってくる事になれば、扉を押さえて立て付けが悪いと時間を稼ぐのが」

みいこ「私、ね。力仕事は苦手なんだけど仕方ないわ」

のっち「資料が鞄から見付かった時点でそれは証拠だ。今度こそAIの前に堂々と突きつけて、あわよくば追加の謝礼金もせしめてみせる。それには俺だけじゃない。一人一人の連携が何より大事だ。皆気合い入れていくぞ!」

全員 「(手を合わせつつ)えいえい、おーっ!」

   春香、あれ、と首を傾げる。
   玄関のチャイムが鳴り、AIが登場。
   全員が玄関に注目する。

ユウゴ「はいっ!(裏返った声で)」

   ユウゴ、のっちに目配せする。のっち、頷いて玄関に向かう。

のっち「あ、今開けます!」

   扉を開けると、AIが仰々しい素振りでお辞儀する。

AI 「夜遅くにすみません。お世話になっております。株式会社MEETS、リサーチセクション所属の大山愛と申します」

のっち「初めまして、野島です」

   AIをまじまじと見る春香。

春香 「何か、思ったより普通の女の子」

AI 「この度は、弊社のプログラムに参加頂き有り難うございました。最後に対面でのヒアリングを行いたいのでお時間頂いても宜しいでしょうか」

のっち「ええ、ええ、勿論」

   中に入るAIに全員が静かに注目する。
   AI、周囲の緊張に気にせずテーブルに座る。

AI 「では、早速ですがヒアリングさせて頂きます」

ユウゴ「あの、僕からもヒアリングいいですか?」

AI 「何でしょう?」

ユウゴ「その、AIさんは彼氏はいたりなんてーー」

   サーヤ、ユウゴの頭をぱしんと叩く。

のっち「ユウゴくんさっきトイレ行きたいって言ってたよね。トイレいこっか!」
   のっち、無理矢理ユウゴを立たせる。

ユウゴ「ああ、そうだった。すみませんトイレ行ってきます!」

   ユウゴ、慌てて通路側へと移動する。それを見てAIがくすりと笑う。

AI 「仲が良いんですね」

のっち「そうですねほんともうすっかり親友でーーって何でやねん!」

サーヤ「ボケと突っ込み逆じゃない?」

   AI、のっちとサーヤのやり取りにくすりと笑う。
   サーヤ、不思議そうにAIを見る。

AI 「どうかされましたか?」

サーヤ「いや、会った印象随分と違うなあー、って。AIさん本当にデータの事ーー」

   サーヤが言い終わる前に部屋の照明が落ち、真っ暗になる部屋。
   ざわざわ、と周囲が騒然となる。

AI 「これは・・・・・・?」

のっち「あ、あー。何かブレーカーが落ちたみたいですね」

AI 「急ですね。極端に電化製品など使った訳では無いですが」

のっち「まあこういう事もあるんじゃないですか? ちなみにブレーカーはどちらに?」

AI 「通路側の方ですが、いかんせん暗くて移動に困りますね」

のっち「確かライトがあったはずだ。サーヤ、お願いできるか?」

サーヤ「了解」

   サーヤ、懐中電灯をONにしてAIの前へと行く。

サーヤ「あ、じゃあ、ブレーカーの場所教えてもらっていいですか?」

AI 「はい。こちらです」

   サーヤとAIが部屋から出て行ったのを見て、急いでAIの鞄の中をあさる春香とのっち。春香と資料を手分けする。

春香 「それっぽいのあった?」

のっち「今の所は何もっ。そっちは!?」

春香 「ううん。関係ないのばっか」

   探している最中、再び部屋の照明が点灯する。
   みいこ、通路側の扉の隙間から奥を見る。

みいこ「不味いわね。戻ってくる」

サーヤ「な、何か原因とか探さなくていいんですか? ブレーカーの故障とか」

AI 「明かりが戻った以上それで問題はないと思いますが?」

のっち「時間稼げ!」

   みいこ、扉のドアノブをがしりと押さえる。
   それと同時、AIがドアノブを回そうとする。

AI 「・・・・・・部屋、入れませんね」

のっち「あ、すみません何かそのドア立て付け悪いみたいで!」

みいこ「ちょっと、思ったより力強いんだけど!」

のっち「耐えてくれ! あと少しだからーー」

   のっち、漁っていた鞄の中から一つのファイルを取り出す。

のっち「臨床試験調査概要ーーこれだ!」

   のっちの声と共に通路側のドアが開き、AIとサーヤとユウゴが入ってくる。

   AI、資料を手に持つのっちを見て驚く。

AI 「ーー何してるんですか?」

のっち「何しているのか、はこちらの台詞ですよ。この資料の事、今こそきちんと説明して貰います!」

ユウゴ「そーだそーだ!」

AI 「説明と言いましても、皆様が実験を開始された時点で一度説明は済んでおります」

みいこ「それとは違う説明を聞きたいと言ってるの」

ユウゴ「もういいもういい。どうせ全部ここに書いてるんだ! 野島それ貸せ」

   ユウゴ、のっちから資料を奪う。

ユウゴ「臨床試験調査概要。社外秘により、情報漏洩には注意して取り使う事。当試験はシェアハウスという閉鎖空間にて、人間関係がどのように形成されていくかを経過観察する事により、社内でのAIや人工知能の発展に役立てるものとする」

のっち「が、表の理由としたいんでしょうが僕らは知ってるんです! さあユウゴ資料の続きを読んでやれ! 隠されたMEETSの陰謀を明らかにしろ!」

ユウゴ「以上」

のっち「聞いたか皆!? これが奴らの魂胆だ! 表向きでは人間観察と言いながら影ではこんな「以上」みたいな事をやってーーーーー待って、以上?」

ユウゴ「いや、文字通り、以上」

サーヤ「え、どゆこと? 以上ってなに?」

   シェアハウスメンバー全員、怪訝な表情で資料を見る。

みいこ「本当ね。これ以外の事は何も書いてない」

のっち「馬鹿な。じゃあデータの事はどうしたって言うんですか!?」

AI 「以前もお聞きしたとは思いますが、データというのは一体何の事でしょうか?」

   全員、しん、とその場に静まり帰る。

ユウゴ「データは・・・・・・データですよ! ちょ、ちょっと待って下さい!」

   ユウゴ、テーブルから自分達が見つけた資料を手にAIに見せる。

ユウゴ「ホラ、この資料ですよ! 身に覚えないとは言わせません!」

AI 「身に覚えは・・・・・・ないですね」

   しん、と再び静まり帰る室内。

サーヤ「・・・・・・いやそんな事は」

AI 「それに仮にこのような資料があったとしても、皆様の手に届くような場所に置いておくはずがありません」

みいこ「それは・・・・・・本当その通りね」

のっち「おいちょっと待て、待ってくれ。その話が本当なら、これ誰が用意したんだよ?」

   再び静かになり、互いに顔を見合わせるメンバー達。

春香 「ーーのっち君、じゃない?」

   シェアハウスにいるメンバー。全員が春香を見る。

のっち「は? いきなり何だよ!?」

春香 「のっち君、前に誰かに取引がどうとかで連絡してたよね? 何か私たちに言えない事あるんじゃないかな?」

のっち「あ、あれは違う! あれは・・・・・・」

ユウゴ「ってかそもそも『あれ』って何だよ。俺ら知らないんだけど」

   のっちが狼狽していると、のっちの胸元のスマホが鳴る。

のっち「くそっこんな時に」

   のっちが慌ててスマホを取り出すも、ユウゴが素早くユウゴのスマホを奪う。

のっち「おい!」

ユウゴ「もしもし野島です。はいはい、メルカリのPOZEのヘッドホン。はい、はい。また後で連絡します」

   ユウゴ、神妙な顔つきで通話を切る。
   他のメンバー、自然とユウゴに注目する。

サーヤ「ーー何て?」

ユウゴ「POZEのヘッドホン、出品取りやめ考え直してくれませんかとか何とか」

サーヤ「それのっちの誕生日に買った奴じゃん。え、どういうこと?」

   場の全員、のっちに目を向けると、のっちゆっくり目を逸らす。

ユウゴ「ーーコイツ、俺らの誕生日プレゼントメルカリに出してる!」

のっち「いや、これはちょっと何かの間違いで」

みいこ「間違いも何も絶賛出品中なんだけど」

サーヤ「え、何、薄情すぎない? 前世キャバ嬢なの?」

のっち「し、仕方なかったんだって。仕事も少ないし生活するのもやっとなんだから!」

サーヤ「もしかして、最後まで実験をやり抜こうとしてたのもーー」

のっち「ああ、金のためだったよ! 途中で中止になって無報酬でしたなんてありえないからな。でもそんな事言ったらお前らだってそうだろ!?」

ユウゴ「何俺らに責任転換してんだよ! 普通人から貰ったプレゼント売るか!?」

AI 「いまいち状況が掴めていないのですが、何かトラブルなのでしょうか?」

サーヤ「ちょっとAIさん今は黙ってて貰っていいかな。あのバカ問い詰めてるから」

みいこ「これだからB型の男は駄目なのよ」

ユウゴ「いやそれ俺もダメージ来るんだけど!」

   全員でわいわい言い合っている最中、乾いた春香の笑い声が反響する。
   春香以外の5人、痺れたように春香に注目する。

ユウゴ「・・・・・・春香? どうしたの? そんなに面白かった?」

春香 「面白かった? ああうん。面白かったよ。滑稽で」

みいこ「春香?」

ユウゴ「あれ、何かちょっと雰囲気違う?」

のっち「ーーちょっと待て。冷静に考えてみればあのデータの資料を見つけたのは2回とも春香だ。MEETS側がわざと置いたのではない以上ーー」

春香 「あああれ、私私。私でーす」

   一同、今度こそ言葉を無くす。

ユウゴ「え・・・・・・・・・・・・・・・何で?」

春香 「だって面白いから」

サーヤ「ごめん、全然笑えないんだけど」

   強ばる全員を余所に、春香は楽しくて仕方ないとばかりに舞台の中央に行く。

春香 「だってこんな紙切れ見せただけで、簡単に皆態度変えたでしょ? 自分達の意思や直感よりも、こんな相性占い以下のでたらめのデータを信じた。人間関係なんて所詮こんなもんだよなーって考えたら、もう爆笑だなって」

みいこ「・・・・・・私たちは相性が良い訳でも悪い訳でも無く、本当に偶然に集められたと?」

春香 「みいこ意外と頭悪いね。そもそも相性なんて思い込みでいくらでも変わる。始めからそんなもん無いに等しいんだってわかんないかなぁ」

ユウゴ「何で、何でこんな事したんだ!?」

春香 「証明する為」

のっち「証明?」

春香 「所詮人間関係なんて空虚で思い込み一つで簡単に歪むって事を、お姉ちゃんの代わりに証明する為。いや違うか、私がただ実感したかっただけだったのかもしれないけど、まあそういう事」

ユウゴ「全然意味わかんない。お姉ちゃんと俺等に何の関係あるの!?」

AI 「ーーまさか」

みいこ「心当たりでも?」

AI 「この実験をする前、シェアハウス関連の事例は調べた事があったので。半年前にシェアハウス内での人間関係を苦に、自殺した新卒の子がいました」

のっち「じ、さつ?」

AI 「きっかけは彼女に対するSNS内での誹謗中傷。そしてそれを書き込んだのは、同じシェアハウスで暮らしていた仲間だった、と」

春香 「そう。そういう事。お姉ちゃんはこいつらに殺された」

   春香、薄く微笑みながら一枚の写真を取り出す。

サーヤ「写真?」

ユウゴ「シェアハウスの、写真。それ春香のだったんだ。皆楽しそうに笑ってて。羨ましいくらい仲よさそうで・・・・・・」

春香 「ねー、人間って怖いね。こんなに仲よさそうなのに、影で死ねだのブスだの書き込んでさ。俺達って相性最高だよなとか言いながら、平気で人を裏切ってさぁ!」

   春香、激昂しながら写真を皆の前で破り捨てる。

ユウゴ「春香・・・・・・」

春香 「まあ、だから結局は人間関係なんて空虚なもんなんだよ。どうせどこも同じなんだろなと思ってこの実験も参加したけど、やっぱりねって感じ? 別に自分から何かをするつもりはなかったけど、皆のあまりに寒い友情(笑)みたいなの見せられたから、じゃあちょっとぶっ壊しちゃおうかって思って」

   しん、と静まり帰るシェアハウス。
   ユウゴが春香に近づこうとすると、春香は胸元からナイフを取り出す。
   思わず身構える春香以外のメンバー達。

全員 「春香!」

春香 「心配しないで。別に私個人は皆に何の恨みもないから」

   春香、じりじりと背後に後退する。

春香 「私にはお姉ちゃんが全てだった。そんなお姉ちゃんはもういない。お姉ちゃんが信じてたものも幻想だとわかった以上もう未練も何もない。だから、止めないで」

   春香、じりじりと後退しつつ、扉に鍵をかけて奥へと立てこもる。

サーヤ「春香!」

みいこ「駄目ね。鍵がかかってる(ドアノブを何度か回しながら)」

ユウゴ「春香、一体何をっ」

春香 「たった一人の家族だった。シェアハウスに行ったのだって、私が施設から自立するためのお金を貯める為だった。別にそんな事望んでないのに。お姉ちゃんと一緒に入れればそれで良かったのに・・・・・・」

AI 「何を、何を考えてるんですか、春香さん!」

ユウゴ「未練も何もない、って。まさかーー」

のっち「春香! おい春香、返事しろ!」

   扉の奥からナイフが床に転がる音が聞こえる。

のっち「おい! 春香!」

春香 「ううっさいなあ。放っといてよ! どうせ私たちただの他人でしょ!?」

のっち「本気で、本気でそう思ってるのか?」

春香 「だってのっち君も言ってたじゃん。全て金目当てだったって!」

のっち「だった、って言ったんだ! 今は違う!」

春香 「・・・・・・」

のっち「確かに俺たち顔を見合わす度に喧嘩してたさ! ユウゴに至っては何度殴ってやろうと思ったか分からない! だがそれら全てが嘘に溢れた日々だったとは俺は思わん!」

のっち「そしてそれはお前が一番理解してるんじゃないか? 少なくとも俺にとってお前らと過ごしたこの日々は、五月蠅くもあったが楽しかった。楽しかったんだよ。そういう人間関係の形だってあるだろ? だってこんだけ色んな奴が世の中にはいるんだからさ。潔癖症の奴も居て、血が苦手な奴もいて、がさつな奴や、お前みたいな奴がいて、そういった奴らが作る形が、どこも同じな訳がない!」

春香 「・・・・・・」

のっち「言葉で言っても届かないなら証明してやる。AIさん、この扉、弁償するとしたらいくらですか?」

春香 「は?」

AI 「即答しかねますが、それなりにするものかと」

のっち「なるほど了解しました。じゃあ弁償代は俺にツケとけ」

   のっち、思い切り力を入れて扉(扉についていた金具)を破壊し、投げ捨てる。
   呆気にとられる春香を余所に、扉を乱暴に投げ捨てるのっち。
   力弱く笑う春香の肩をのっちが支える。
   はっと口元を片手で押さえるみいこ。

みいこ「・・・・・・何てこと」

のっち「血が止まってない。ユウゴ!」

   ユウゴ、黙って頷き春香の体を抱える。

のっち「ユウゴ、・・・・・・いけるか?」

ユウゴ「友達一人助けられないで、何が看護師なんだよってね(震えながら)」

   のっち、黙ってユウゴの肩を叩く。

ユウゴ「失血が酷いからここで応急処置しよう。サーヤ、電話を。病院に連絡!」

AI 「私も車を準備してきます」

   サーヤ、スマホで電話をかけながら玄関から出る。AIも後ろに続く。

ユウゴ「直接圧迫止血だと厳しいな。何か布みたいなのない!?」

   みいこ、上着を脱いでユウゴに渡す。

みいこ「こんなのでよければ好きに使いなさい」

ユウゴ「むっちゃ汚れるけど大丈夫?」

みいこ「所詮服でしょう? 優先度は低いわ」

   みいことユウゴ、二人目を合わせて頷き合う。

ユウゴ「ーー止血は、済んだ。安心して、絶対に俺たちが助ける」

春香 「・・・・・・皆」

のっち「喋らなくていい。言い分は後で思いっきり聞いてやる」

   ぶっきらぼうなのっちに、ユウゴが小さく笑う。

ユウゴ「前言った事覚えてる? 春香」

春香 「・・・・・・?」

ユウゴ「俺たちってバラバラだけど。形の違う歯車がかみ合ってるって」

サーヤ「こいつに言われると説得力ないけど、まあそういう事」

   サーヤ、担架を抱えながら玄関から入ってくる。

のっち「どこでこんなの」

サーヤ「倉庫の木材余ってたから、それを元にちゃちゃっと」

ユウゴ「流石サーヤ姉さん、仕事が早い!」

みいこ「早速運ぶわよ!」

   慌ただしくなる中で、のっちが春香に呼びかける。

のっち「見てるか春香? 皆、お前の為に動いてる」

春香 「・・・・・・のっち君」

のっち「未練がない? なら俺達が作ってやる。人間関係が空虚なものならそれも俺達が埋めてやる」

   静かに嗚咽を噛み殺す春香。

のっち「だって『俺たちの相性は最高』なんだろ?」

春香 「・・・・・・うん」

   春香が小さく頷いて、舞台暗転。

第六章

13 シェアハウスMEETS(朝)

   部屋の掃除をしているAI。
   玄関からのっち、サーヤ、ゆうご、みいこが入ってくる。

AI 「皆様、お早うございます」

のっち「お早うございます。あ、約束のお金返しにきました」

AI 「伺っておりますよ。こちらにどうぞ」

   AI、にやにやしながらのっちが首につけていたヘッドホンを見る。

AI 「それ、ヘッドホン」

のっち「ああ、まあ、貰ったものなので」

   気まずそうにするのっちに、くすりと笑うAI。

のっち「あ、では」

AI 「はい」

   のっち、封筒をAIに渡すが、なかなか手を放さない。

ユウゴ「お久しぶりですー。AIさん今夜予定ありますか?」

   ユウゴが割り込む事で、AIにようやく封筒が渡る。

サーヤ「早速の出会い厨止めろ」

ユウゴ「こんな事もないとわざわざこいつに付き合ったりしないだろ。それともサーヤがデートしてくれる?」

サーヤ「キッショ」

ユウゴ「いやストレート過ぎない!? でも、ちょっとぐっときた(汚い笑みで)」

みいこ「きっしょ」

AI 「(微笑みながら)皆さんはこの後、お見舞いに?」

みいこ「ええ、本当は直接行く予定だったんだけど、のっちがさっさと渡したいって」

のっち「車持ってるのがユウゴだけだから仕方ないだろ。俺がこんな所にタクシーで来れる財力あると思うか?」

ユウゴ「開き直るな馬鹿。今度からチャリで行け」

   言い合っていると、AIが再びくすりと笑う。

AI 「相変わらず仲が宜しいんですね」

ユウゴ「AIさん視力いくつ? そりゃあの時は何か雰囲気とかあってああなったけど、基本犬猿の仲だから」

みいこ「水と油とも言うわね」

サーヤ「お得意の血液型で例えないの?」

みいこ「馬鹿じゃないの。あんなので一概にくくれる訳ないじゃない」

サーヤ「いやどの口が!? どの口が言った今!?」

   がやがやと言い合うみいことサーヤを余所に、頭を下げるのっち。

のっち「では改めて俺たちはこれで。お世話になりました」

AI 「はい。お世話になりました」

   AI、扉から去って行く4人を静かに見送る。

AI 「仲が良くない、ですか」

   AI、可笑しそうにくすりと笑う。

AI 「そういう関係を、相性が良いと言うんですよ」

   誰にともなく呟くと同時、AIのスマートフォンが静かに震える。
   AI、微笑みを崩さずに受話器を取る。

AI 「はい。先程はわざわざ対面で有り難うございました。少々トラブルはありましたが内部から調整頂いたお陰で、今回の実験も有益なものになったかと」

   AI、何かを思い出すかのようにくすりと笑う。

AI 「しかしデータとは、今回の被験者は実に面白い事を考えたものですねえ。ええ、報告会はお見舞いに行かれた後で大丈夫です。はい。それでは」

   AI、通話を切って誰も居なくなったシェアハウスを楽しそうに見渡す。

AI 「ーーほんと、面白かったなあ」

   AI、笑いつつ腕時計で時間を確認する。

AI 「ああ、もうこんな時間ですか」

   AI、咳払いをしながら机の上にあったスピーカーに電源を入れる。

AI 「テスターの皆さま。こんばんは。それではこれより第4回臨床試験の経過観察を行います」

END



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