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わんわん

小さな怪奇現象
子育ての風景

子どもがよちよち歩きの頃「わんわん」という言葉を覚えた。
親としてはイヌの事を「わんわん」と教えたはずなのだが
ネコもカラスもテレビの派手な舞台化粧の女優さんも「わんわん」で
どうやら普通の人ではない生き物を「わんわん」と呼ぶようであった。
で、ある日ベビーカーに乗せてグラウンドを見下ろす道を歩いていると
身を乗り出して「わんわん!」と大きな声で言ったので
おや、そちらにイヌを散歩させている人がいるのかと見たが誰もいない。
バックネットの裏にもはるか外野の向こうにも誰もいない。
犬の声がするのかと耳をすませるが何も聞こえない。
子どもはまた「わんわん!」と嬉しそうに言って
にっこにっこで振り向いて私を見る。
「わんわん、いるの?」と聞くと
「わんわん!」とまたグラウンドの外野右奥を向く。
そこにはやはり誰も・何もいない。
「そうかあ、わんわんいるんだねえ」
私はまたゆっくりとベビーカーを押して歩いて行った。