海底二万里とゴジラ
読書 勉強
ゴジラを大真面目に生き物として見てみると
あんなに大きくて目立つのに、たった1匹しかいないのはオカシイ。
ゴキブリだって、1匹見かけたら100匹いると言うではないか。
きっとそれで・大抵の怪獣モノは
外の世界(宇宙とか)から1匹だけやってきたとか
大昔の生き残りが何らかのきっかけで(核実験とか)永い眠りから覚めた
ということにしている。
日本が誇る怪獣ゴジラは後者のパターンだが
実はゴジラの映画にはモデルがあって
それが「原子怪獣現わる」(邦題)wというアメリカ映画。
原題は「The Beast from 20000 Fathoms 」(2万尋から来た獣)
核実験によって氷河の中の恐竜が蘇って
放射能を帯びた恐竜はニューヨークへ上陸
って、まんまゴジラでしょ!
いや、アメリカ映画が1953年、ゴジラが1954年(昭和29年)公開で
ゴジラがパクったワケか。
日本の映画会社はアメリカに負けまいと猛烈な勢いで制作したようだ。
ゴジラの予告篇を見ると
「製作費1億、半年の苦闘が産んだ」(昭和29年の1億円ですぜ!)
「アメリカ映画を凌ぐ特殊技術撮影」
という、ものすごい意気込みが火を噴いている。
ちなみに「もはや戦後ではない」という有名な言葉は昭和31年のもの。
さてさらに、このアメリカ映画の元になったのが
ご存じ、レイ・ブラッドベリの短編「霧笛」(The Fog Horn)
私の大好きな切なさいっぱいのSFなのだが
こちらは仲間を求める最後の生き残りという設定。
映画の方はとりあえず灯台は出て来るものの
原作とは似ても似つかぬ怪獣モノでびっくり!
霧にむせぶ太古の生き物の孤独と切なさはどこへいったあああー!
さらに気になったのが原題の「20000 Fathoms」で
(Fatomsは深さを表す単位で「尋」)
1尋が6feetで1.83mだから20000尋というと、深さ36600m・・・
って、世界でいちばん深いマリアナ海溝で10994mなんですけどっ!
いやいやいや、日本のゴジラの予告編でも
「二百万年前の大怪物」って…
恐竜が滅んだのは6500万年前なんですけどっ!
それはさておき
「原子怪獣現る」の原題 “The Beast from 20000 Fathoms”の
“20000”を見て、これはひょっとして
「海底二万里」を意識したのではと。
ご存じ、フランスのジュール・ベルヌの冒険小説で、1870年(!)の発表。
原題はフランス語で ”Vingt mille lieues sous les mers”。
(「海底二万里」は直訳そのまんま)
フランス語の“lieues”(リュー)は、昔の距離の単位。
面白いことに、陸路では約4445メートルで海路では約5556メートルだと。
これを日本でなじみのある「里」と翻訳したのでは。(発音も近いし)
一里は大体4kmと覚えたが、正確には3.92727㎞。
まあ、距離感は近い、ということでいいんじゃね?だったのでは。
Fathom(尋)は深さを表す単位だがリューは距離を表す単位なので
ノーチラス号は海底深く二万尋まで潜航していたワケじゃないぞ、と。
自分は今まで20000マイルは深さのことだと思っていたなあ!
・・・マイル?
あれ・まてよ、映画の「海底二万マイル」はナンで「マイル」?
(カタカタカタ)やややや、そうか!
「海底二万マイル」はアメリカ映画の題名だ!
はい、これは1954年、ウォルト・ディズニーが映画化したんですね♪
(淀川長治の声で)
あー、「海底二万マイル」もゴジラと同じ年の映画だったのか♪
私の中ではずっと、ノーチラス号のあの物語は「海底二万マイル」だったので本の「海底二万里」は古い翻訳で「海底二万マイル」は新しい翻訳だとばっかり思っていたのだ!
ところがこれで終わらない。
映画の「海底二万マイル」は原題が”20000 Leagues Under the Sea”
って、マイルじゃなくて「リーグ」じゃあーりませんか!
「リーグ」とはなんぞ?
で、ナンでそもそも「リュー」を「リーグ」にしたのかと調べてみると
あらら、リーグはリューのことだったのね。(確かに似てる)
元々はガリア人の距離単位のレウカあるいはレウガだったと。
1500歩分の距離という意味だったが
ここでの1歩は左右の足で1歩ずつ歩いたのを1歩としているから
普通に数えれば3000歩分の距離で、まあ大体2キロ程度でしょう。
それから時代や地域で、それぞれに「これくらいの距離」というものが様々だった長い年月を経て距離の単位は決めとかなくちゃまずいよねってことで今に至る。
英米の距離単位で言うとリーグは「ヤード・ポンド法」の単位で
人や馬が1時間で歩くことができる距離。
ちなみにフランスでは1リューが4キロメートル…って英米と同じ?
1795年のメートル法制定以前の旧リューは約4.444キロメートルだったと
あらー、じゃあ先に書いたのは、古い方だったんだ!
実はあれ、ポケット版プログレッシブ仏和・和仏辞典に載っていたものだ。
調べる先を1つだけで済ますのは危ない、と改めて反省。
マイルについては陸と海とで距離が違ったり基準が複雑なので
説明は省略!
というワケで、「海底二万里」の呼び名についてまとめてみると
原作はジュール・ベルヌの小説”Vingt mille lieues sous les mers”
「海底二万里」は日本語で翻訳時にリューを里としたもの。
”20000 Leagues Under the Sea” はアメリカで映画化するときに
フランス語を英語に直訳したもの。
「海底二万マイル」はこのアメリカ映画の題名を日本語にする時に
なじみの薄いリーグをマイルにしちゃったもので
本の題名としても使われるようになった。
そんなこんなで
現在の日本では「海底二万マイル」の方が知られているのでは。
子どもの自分が読んだのは「海底二万里」だったが
「里は古い時代の言葉だから」と
後の本の題名の方が頭に残ったのだと思う。
「里」と「リュー」と「リーグ」と「マイル」について
気が済むまで調べてみたら
はー、長くて面白い旅だった。
距離の呼び名は歴史そのものだ♪
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