She Said/その名を暴け 大物プロデューサーを追い詰めることができた調査報道とは
「スキャンダル」「スポットライト」など、実話の性加害告発ものは見ました。「プロミシングヤングウーマン」も見ました。どれもよく出来ていたし、もう十分な気がして「She Said その名を暴け」は特に見るつもりではなかったのです。ただAmazon Primeでお勧めされたものをBGMのつもりで再生したのに、結局がっつり見てました。上記映画と比較しても、さらに優れていたと言っていい映画でした。
何が良いかって、やっぱりよく出来ている。
なにしろリズムが良い。冒頭、説明なく断片的なシーンが続き、あれ?わからなくはないけど、私は置いていかれてるのか?と少しだけ思わせるが、中盤でそれらの背景が語られる、とか、二人の女性記者の家庭などの背景が、メインのストーリーを邪魔しないように上手く挟まれていて、キャラクターの厚みが出るとか、冗長になりがちな説明がとても絶妙。
偏見であることを否定はしませんが、日本映画って(小劇場系特に)デレーっとしてるほどアートっぽいと思われてる節がある気がする。
引き合いに出して申し訳ないけど、最近見た「ベイビーブローカー」とか。
間を持たせる技術を見せつけるゆるゆると流れる自然な時間経過と演技と思わせない役者の力量。いいよね、そういうのも味わい深い。
しかしやはり、小気味よくストーリーが展開するとどうしてもワクワクしてくるのよ。よく出来てる!となっちゃいます、私は。
そして、その名を暴くという副題がついていますが、不思議じゃないですか?ワインスタインの事だって、登場人物も見る人も、全員分かっておるのですよ?名前が重要だったのはむしろ被害にあった女性たちで、暴くというより、実名公表可能かどうかが、記事を出すにあたって重要でした。ワインスタインはむしろ最後まで顔が出ないという演出が効いていました。
また、(大好きなアメリカのドラマ)Good WifeやGood FightのDavid Leeという老獪でサーカスティックな弁護士役を演じたZach Grenierという役者さんが、Davidよりは優しく正義感のある紳士を演じておりました。ああ!あの!という思いと、あの皮肉屋なキャラとは違う面が見られて嬉しく思いました。微妙な表情一つで、完全に別人を演じ分けるベテラン俳優。短い登場シーンをサクっとこなして颯爽と去って行ったんじゃない、なんて。ユダヤ系という背景に触れられるのも、Good Wifeなどと同じです。
折も折、ジャニーズ事務所性加害問題で大揺れの日本の芸能界。
同じ芸能界の大物による性加害を扱った映画ですが、日本でジャニーズが映画化されることは、少なくとも20年くらいはないですかね。そして、相手が世界的な大物プロデューサーとは言っても、女性たちは訴え出て示談にするなどの行動には出ていたのですね。しかしそれは秘密保持契約と引き換えであり、加害を止める効果はありませんでした。成功を収め、絶対的権力を手にしたワインスタインが、高額な示談金を会社の経費から支払わせても、大きな問題にならなかったのは、ジャニーズと共通のガバナンス不在の独裁経営が根源でした。
当然、よく出来た映画だなんて、娯楽として消費してよい問題ではないことは承知しております。女性たちの証言を得ること、記事として世に問うことの困難さ、被害者の癒えない傷の深さは言うまでもなく、映画の主要テーマとして丁寧に描かれています。とめどない性犯罪のニュースには、日々怒りと”なぜ?”という思いが止まりませんが、この映画、少なくとも、職場でのあからさまなセクハラという問題においては、観る人の意識高揚には寄与する映画であると思います。