雪の夜に
今夜はゆっくり冷えている。
ボクが、雪と聞きなぜか年甲斐もなくはしゃいだ感じになる、雪が関東甲信地方に、特に東京に降るという夜に。
ボクの少年時代は転校が続いていた。
雪景色を見たことがあるかと思ったら、意外にも転校先ではあまり記憶に無かった。
少年から青年期、主に神奈川県横浜市や川崎市に転校先から「戻る」感覚で過ごした。
誰かが待っているわけでもなく、当時は灰色の建物と空気が入り混じって、ホコリっぽい町で育った。
それでもボクらは、光化学スモッグにも負けず育った。その他のものには、けっこう負け続けた、工場地帯の少年 。
ある冬の午前3時をふと思い出した。目に見えた色や触感、空気の匂い、音すべてが今でもそのまま思い出せる。
大雪が降り、社宅の団地の部屋で鉄枠にパテで固定されたガラスが、カタカタと音を立てて風を知らせた。となりの部屋では父親がテレビをコタツで見たまま寝てしまい、毛布をかけてつまみや空いたコップを、そっと片付けて、冷える台所に置いて自室に戻り、学習机の上に置いたラジカセを、毛布にくるまって聴いていた。
オールナイトニッポンという番組が、1部は午前1時から3時、2部は3時から5時。それぞれ毎日違うパーソナリティの方が、マイクの前から電波に乗せてラジカセのスピーカーから話しかけていた。
その頃のボクには、それがいちばんしあわせな時間だった。決してそれは大げさなことでは無かった。
冬のシーズンになると、合格祈願をパーソナリティに託したりしていた。パーソナリティは、冗談を交えながら応援した。
1部から2部に変わった直ぐに、静かな部屋の壁の時計が3時にカチッとなった音がした。
「東京有楽町も雪が降ってきました。」
その言葉に左にある窓を見ると、曇ったガラスの向こうに舞っていた。
慌てで玄関にかけてある、従兄弟からもらったダッフルコートを羽織って、階段を下りた。
もうすでにくるぶし以上に積もっていた。そして靴下を履いていなかった。すぐそばの国道の交差点まで行くあいだに頭に雪が積もった。
国道に出るとひっきりなしにトラックが走っている。ガリガリと音を立てて行く。
今では規制されたスパイクタイヤが、雪と道路を削っていった。
しばらくして風と雪の量が多くなった頃、クルマが途絶えた。雪と灰色の粉塵が混じった空気の渦が立ち昇るのを、ただじっと見ていた。
ここからいつか出たい。
口を手で覆いながらそう思っていたのが、
スターウォーズで言うと
エピソード5から6のあいだの少年だったボク。
そして昨年スターウォーズが終わった。
まだ観ていないので、この眼で観て、
最初から最後まで見たシリーズの終わりを見てあげようと思う。
そのあともう少し苦しい毎日だけど、空気はそのあと幾分綺麗になって、最後までシリーズを観れそうだと、あの雪の日の自分に約束するように。
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