プラレールが治るまでの2ヶ月
4月上旬、息子がお気に入りのプラレール車両の2種類が壊れてしまい、地域ボランティアがやっているおもちゃ病院に預けることにした。
彼は愛してやまないプラレールが治るのを心待ちにし、治ったとホームページに掲載されてからは、月に2度しかないおもちゃ病院の開院日を楽しみにしていた。次の開院日はゴールデンウィークだった。
おもちゃ病院の日。息子と一緒に受付に行って受付番号を伝えると、預けていた二つのおもちゃを持ってきてくれた。一つはモーターを新調してくれて、問題なく動作した。もう一つは速度チェンジのギミックが内蔵された車両だった。息子は、特にこの速度チェンジがついたプラレールが治るのを待ち望んでいた。
預けていたレールを自ら組み立て、修理担当の人が車両を走らせる。途中ギアチェンジ用のレールポイントを通過する。しかし、速度は変わらないまま。どうやら、担当者はレールを走行するかだけを確認していたようだった。息子は明らかにがっかりし、無事任務を終えたと思っていた担当者は困惑していた。
ちなみに、ゴールデンウィーク中のこの日は、昼からBBQが控えていた。プラレールを受け取ってすぐ出発できると思い、外で車を停めて待つ夫から「どうしたの?」とLINEがくる。またBBQメンバーのグループLINEには「もう着いた」「⚪︎⚪︎がほしい」という内容の通知が鳴る。
昔から意見を通すのが苦手な私。これが私のものだったら、「まあ、いいです。走れれば」と本音を飲み込んでしまうところ。けど、息子は何とかしたくて、担当者にこの電車が本来どう動くかを、彼なりの言葉で説明している。外で待つ家族やこの後の予定を考えると、ゆっくりしている場合ではないけれど、この状況で、声をかけるべきか。
息子の話に困惑している担当者に、別の担当者が気がついた。息子の話を聞きながら、プラレールを触っている。へえ、そんな仕掛けがあるんだ、今までの修理では見たことないけど、できるかも、何とか治したいよね。そう聞いて、今しかないと腹を括った。
「あのう」
少し大きめの声で切り出してから、「申し訳ないんですが、もう一度預かって修理できるかみていただけませんか?」これでも、私にとっては思い切った発言なのだ。息子もここだと思ったのか、「お願いします」と担当者に頭を下げた。ふだんと違う、大人っぽい様子を見て、隣でちょっと感動してしまった。
修理を待っている間、息子には治らなくてもこれで最後にしようと話した。本人も覚悟していたようだ。
頭を下げてから1ヶ月。ふたたび修理が終わったとホームページで掲載されたのを確認して、二人でおもちゃ病院に行った。前回治したいと話してくれた担当者が来てくれて、その場でプラレールの動作確認をしてくれた。しかし、プラレールのギミックは上手く作動しなかった。息子は担当者を気遣っているのか、上手く動作しなくても「もう大丈夫です」と言っている。まるで私である。ただ、担当者はこのギミックプラレールの構造をしっかり把握しているようで、その場でパーツを外し、丁寧に調整してくれた。調整を終えたプラレールが再び速度チェンジができるようになった瞬間、安堵した息子の顔は、長い間の緊張から解放されたようだった。帰り際、用意しておいた500円を息子に渡し、おもちゃ病院への寄付として募金箱に入れてもらった。
修理に出した頃は桜が満開だったのが、プラレールを持ち帰った今日は、紫陽花が咲き梅雨が近づいている。2ヶ月かけて修理してもらったことで、息子も私も人に頼る経験をし、少し成長した。きっと、このプラレールはもう壊れないはず。