【掌編小説】ガス灯
ガス灯の下ほど煙草が似合うものはない、と何となく思っている。
電灯とは違い、そのランプが吐くものは煙だからだ。だがこれはLEDライト。ガス灯なんぞ、SDGsの思想がはびこる世界には居場所がない。
まあ、数年前から懐古主義というやつだろうか、ごく一部の地域ではインバウンド、ようするに外国人の観光客を惹くために、昭和に続き、明治・大正の街並みを再現する地域も一部出てきた。外国にはこんな感じの保護地域が多々あるので、そう受けはしないのではないのかなあ、と思っていたが、日本ナイズされた西洋の景色が、彼ら外国人観光客には新鮮に映るようなのだ。
そんなわけで、この景色に合うように大正レトロな吸い殻入れなんかも復活してきたのが最近である。とはいえ、それはただの置き物で、煙草が捨てられないのがなんとも歯がゆい。しょうがないのでブラックのスティックチョコレートなんぞを口にくわえ、ぼんやりと煙草を吸う妄想に浸っていた。むなしい感があるのは否めない。
ふと、空が薄曇りの状態になってきた。
――ああ、朝が来るのか。
そうぼんやりと東の空を見上げると、太陽はやたらに赤く輝き、その光に照らされた雲も赤かった。とはいえ、これから雨に変わるのだろうか、街の境目には灰色の雲が広がっていた。……何となくだが、紫の煙……紫煙、いわゆる煙草の煙にみえないこともない。
わざわざ代わりに煙草を吸ってくれるとは、殊勝な雲だなぁ、と思いつつ、これから混み出すであろう街を、一足先に去るのだった。
【了】
すみません、前に書いた『タバコ』と『タバコ吸い島』を足して二で割ったような話になってしまいました。まあ、せっかく書いたからと結局上げましたけど。「ガス灯」の絵をなんとなく見たら話ができました。
絵はいつものDream by WONBOに担当してもらいました。今回フィルターはThe Bulio Cutに。
呪文は「ガス灯だけが並んでいる人のいない夜の街。空は微妙な藍色。絵の色味は全体的に暗い青。」を英訳させて、
『An empty city at night, lined with only gas lamps. The sky is a delicate blue. The overall color of the painting is dark blue.』
としまして、これを呪文で使いました。
最近テレビでSDGsやインバウンドの話題をよく聞いたので、なんとなくそれもキーワードで混ぜてみました。
【追記】これは今から何年後かの未来の話です……。